クリスマスの聖夜祭以来、アスカは絶好調だった
並み居る敵をちぎっては投げちぎっては投げ・・・・・・・
そんな勢いであった
そして、あっという間にターミナルドグマを制覇し、ヘヴン:第31階層に到達した
そんな彼女にも、まだ悩みはあった
レイに、伝えていないのだ
シンジとの事を
君に吹く風
1月8日:棘
<校舎、屋上>
「何?アスカ。大切な話って」
「・・・・・・・・レイ、実はあたし・・・・・」
「碇君?」
その言葉に、アスカは驚いた
「やっぱり、レイには隠せないわね・・・・・・・あたし、シンジと、付き合ってるの」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめん、今まで黙ってて、隠してたみたいで・・・・・・・でも、あたしは・・・・」
「良かったわね。アスカ」
アスカは、顔を上げてレイを見た
レイは、微かに笑っていた
普段の冷たい表情ではない、柔らかい笑顔だった
「・・・・・・・・レイ」
「会いに行かなくて良いの?碇君に」
「でも・・・・・」
「私は気にすること無いわ。自由に会える時間があるうちに、会いに行く方が良いと思う」
「・・・・・・・・ありがと、レイ」
アスカは、走り出した
彼女の思い人に会いに行くために
そして、レイは親友が消えた扉を、じっと見つめていた
「・・・・・・・自由に会える時間・・・・・・・」
ぽつり、と呟く
「・・・・・・・・・・・この気持ちは何?私は何を・・・・・・・・」
<迷宮昇降口>
「さぁーて!!!一気にヘヴン制覇を目指すわよ!!!」
「元気だね、アスカは」
「そりゃ当然よ!何たって、最下層制覇の目標に近づいてるんだから!」
数日前の無気力振りが嘘のようだった
シンジ、アスカ、レイの三人組は、地下のヘヴンへと降りてゆく
そこは、上級使徒にとっての楽園なのかもしれない
<エレベーター内>
アスカは、新調した長剣に、グリップテープを巻いている
今度の長剣は、ドイツ、フェアチャイルドの最新作:“シルファング”
技術開発部のカスタムで刀身には高振動粒子のブレード、プログレッシブ・エッジが付いている
柄頭には、電池を刺している
カスタムすると、どうしてもこういう物が必要になるらしい
スタン・エッジを使うのにも、電池を使う
シンジの刀は、相変わらず“九頭竜”
レイの杖は、技術開発部のカスタムで、フィールド収束具が付いている
これがあると、大出力の魔法でも効率よく使えるらしい・・・・・・・・・・
実戦に持っていくのは初めてだ
装具はシンジだけが新調していない
アスカが特殊装甲板のハーフプレートに、同じく特殊装甲板のガントレット(籠手)
足には、これまた特殊装甲板のヴァンブレース(鉄の長靴)
レイは、戦闘用学生服の上に、購買の新製品であるアーマーローブを羽織っている
エレベーターが止まった
ここから先は、未知の領域だ
<ヘヴン:第31階層>
「・・・・・・ターミナルドグマと、そんなに変わらないね?」
「そうね」
セントラルドグマは人工の迷宮
ターミナルドグマは天然の洞窟
ヘヴンも、ターミナルドグマと同じ様な感じだった
「ま、そんなの関係ないわよ。
・・・・・・・・・早速、お客さんね」
闇の向こうから炎の塊が3つ、飛び出してきた
アスカの振るうシルファングが、炎の塊を叩き落とす
「シンジ!!サポートして!!レイはバックアップ!!」
「「了解!!」」
「相手は・・・・・サラマンダーが三匹!!!相手にとって、不足無しって感じね!!!」
アスカは不敵な笑みを浮かべながら、プログレッシブ・エッジを起動
一瞬で空っぽになった電池をイジェクト、白い燐光を放つ刃を構える
「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:10!
アジリティ・レインフォース:ドライブ!!」
「たあああぁぁっ!!!!!」
レイの魔法で、アスカの身体が一気に加速する
肉体の限界を超えた速度で、アスカはサラマンダーを斬り伏せる
「はあっ!!」
シンジも駆けつけた
刀を振るい、注意を引きつける
「もらったぁー!!!!」
アスカの声
プログレッシブ・エッジはサラマンダーの鱗を物ともせず、斬り裂いてゆく
「へっへーん。蜥蜴如きがあたしに楯突こうなんて、百億万年は早いわよ!!」
「アスカ・・・・・言ってることが無茶苦茶だよ」
「うっさいわね」
「・・・・・・碇君。火傷してる」
「あ、さっき、ちょっとね」
「手当するわ」
「あ・・・・ごめん」
レイは、慣れた手つきでシンジの腕に膏薬を塗って包帯を巻いた
「もう、良いわ」
「ありがと。綾波」
「終わった?じゃ、先を急ぎましょ」
明るく言うアスカ
しかし、心に小さな棘が刺さっていた
<購買>
「シンジ達は、もうヘヴンに着いたんですってね」
「ほぉ、なかなか早いな」
「アスカちゃんの活躍でしょうね」
「なるほど・・・・・・・・」
購買の奥の炬燵に入っているのは、ユイとゲンドウ
げす板の上には、湯気を立てている湯飲みを、蜜柑が山盛りにされている
蜜柑に手を伸ばしながらユイが聞いた
「もし、最下層まで行ったらどうするんですか?」
「有り得んよ。ヘヴンは決して楽ではない」
「でも、あの子達だったらやってしまいそうですけどね」
「・・・・・・もし、最下層まで辿り着く実力があるなら・・・・・・」
「あなた」
ユイの鋭い視線が、ゲンドウを射抜いていた
「蜜柑、食べます?」
「いただこう」
ゲンドウも、蜜柑に手を伸ばした
「羽化拠点の数が段々増えていると聞く。
哨戒任務の回数も増やしているが、対応しきれんようだ」
「生徒達の、重火器での武装を許可しますか?」
「訓練科目にも、重火器を入れるべきかもしれんな」
「ガンナーコースの子なら、すぐ慣れると思いますけどね」
「うむ」
「・・・・・・・・・・アダムが覚醒しようとしているのでしょうか?」
「わからん」
「・・・・・・・・御霊鎮は?」
「シンジにはまだ早すぎる」
「しかし、その時間も幾らもありませんよ?」
「何事もなければ、それで良いのだが・・・・・・・」
<ヘヴン:第31階層>
「げっ!羽化拠点だわ」
「・・・・・・・どうするの?」
「現状の装備じゃ、殲滅は難しいと思うよ?」
「そうね。ここは一つ、撤退と言うことで・・・・・・・」
「アスカ、敵性反応が一つ。後ろから!」
「ちぃっ!そうもいかないか!!戦闘準備!」
シンジとアスカがそれぞれの得物を抜く
二人で前衛をつとめ、レイは後ろに下がる
出てきた者は、人間の姿をしていた
黒いコートを身に纏った、カヲルと同じ様な姿
「あれ?何だ、使徒じゃないじゃん」
「あの、エンジェル・ハイロゥかブリュン・ヒルドの方ですか?」
二人の問いかけに、その男は何も答えない
レイが、鋭く注意を喚起した
「気を付けて!!その男は人間じゃない!!」
「けっ、タブリス捜してこんな地下まで来てみれば・・・・・・居たのはガキが3匹か」
「何よ!あんた何者!?」
「おっ?・・・・・・・お前は、タブリスが・・・・・・そうか、こいつは運が良い!!!
タブリスを殺すときの良い人質になるじゃねぇか!!!!」
「何だ?タブリスって、誰のことなんだよ!!?」
「何も知らない貴様は黙ってりゃいいんだよ!!!!!」
その男は、コートの下からナイフを二本取り出すと、逆手に構えて仕掛けてきた
かなり素早い踏み込みだ
「っしゃああああぁぁぁ!!!!!」
奇声を上げながら飛びかかってくる
シンジは、その一撃を受け止めると、その男に向かって叫んだ
「何故、僕達を襲う!!!?タブリスって誰だ!!!?」
「さぁな、知らないんならその方が幸せだぜ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、その男は素早くナイフを繰り出してくる
アスカが加勢して、2対1でも決して退かない
かなりの実力者だ
「マジックプログラム:ファンクション!フィールドレベル:・・・・・」
「黙ってろ!!!」
そいつが叫ぶ
喉の奥から凄まじい咆吼が響いた
「ATフィールドが、消える?」
「何よ?こいつ!!まるでサハクィエルじゃない!!」
「おや?ご名答。俺はサハクィエルの改造人間なんだよ。
与えられし名は、“咆吼の”ティンバー」
「な、何なのよ・・・・・改造人間って・・・・・・」
「ま、知らない方が良いって事だよ。オラオラ行くぜ!!!!」
慌ててフィールドを展開し直す二人
レイは中和に集中し、二人は息の合った連撃を見せる
それでもティンバーと名乗る男は一歩も退かない
「くっくっく、良いぜ!!その調子だ!!タブリス以来だ!!こんなに楽しい相手はよぉ!!」
「黙れ!!!」
シンジは左手に短剣を抜く
二刀流だ
アスカもプログレッシブ・エッジを起動させた
予備の電池はもう無い
空になった電池がイジェクトされる
「があああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
「またぁ!?」
ティンバーの咆吼
ATフィールドが消滅する
<発令所>
「ジャミング波です!!!」
「また!?」
「発信源は何処!!?」
「ヘヴン:第31階層!!サハクィエルにしては・・・・・」
「おかしいわね」
「ブリュン・ヒルドに援護要請を出しますか?」
「・・・・・・・まだ、待って」
「わかりました」
「第31階層の詳しい状況はわからない?」
「はい・・・っ!!またジャミングです!!!」
<ヘヴン:第31階層>
「たあっ!!!」
「りゃああああぁぁっ!!!」
「はっはぁ!!やるじゃねぇか!!!!」
「くっ!!
スラッシュプログラム:ファンクション!」
「無駄だぁ!!!!」
詠唱を始めると、ティンバーの咆吼にATフィールドが打ち消されてしまう
「くっそ!!」
「・・・・・・・碇君、アスカ。魔法を使って!」
「何言ってるのよ、レイ!!こいつ相手には何やっても・・・・・・」
「エッジプログラム:ファンクショ・・・・・」
「がああああああぁぁぁっ!!!!!!!」
あっさり、ATフィールドを打ち消される
しかし、レイの狙いはそこだった
無防備に大口を開けている瞬間
「そこっ!」
レイは、小型の拳銃を撃った
「うごっ!!!!」
「・・・・・・・練習って、するものね」
「ナイス、レイ!これでもう、吼えられないわよね・・・・・・・」
「ぐっ、ぐくっ!!!」
「ATフィールドをジャミングできないのなら、互角以上に戦える!!」
「ぐおおおおおおおおああああああ!!!!!!!」
「・・・・・・無駄よ。あなたに勝ち目はない」
三人は、血の泡を吐きながら突っ込んできたティンバーに、魔法を使う
「スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:11!!
スカーレットフォージ:ドライブ!!!」
「エッジプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:11!!
幻翔舞・牡丹:ドライブ!!!」
「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:11!
フロスト・バイト:ドライブ!」
<発令所>
「第31階層の戦闘が、終了したようです」
「そう、戦闘していたのは、誰?」
「生徒、惣流アスカラングレー、綾波レイ、碇シンジの三名です」
「「はぁ」」
声を揃えて溜息をつく二人
「帰ってきたら、事情聴取ね」
「えぇ」
<ヘヴン:第31階層>
「ぐ、く・・・・貴様ら如きに・・・・・・」
「答えろ!!タブリスって誰のことだ!!!」
「本当に・・・・・・貴様は何も知らないのか・・・・・」
「答えろ!!!」
「碇君・・・・・・」
レイの顔をじっと見たティンバーは、いきなり顔色を変えた
青ざめて、瞳は恐怖に見開かれている
「馬鹿な!!何故、こんな所に知恵の実が・・・・・・・・」
息絶えた
そして、死体は溶け崩れてゆく
「な、何なのよ!?こいつ!!」
「・・・・・人間じゃないのは、確かね」
「でも、一体・・・・・・・」
結局、わかったことは、何もない
(あと10分で、下校時刻になります。
探索中の生徒は、最寄りの脱出口より帰還しなさい。忘れ物をしないように、注意しましょう。
繰り返します・・・・・・・)
「下校時間だ・・・・・・・」
「・・・・・・今日は、引き上げましょう」
「仕方ないわね」
三人は、地上に戻った
<迷宮昇降口>
「は〜い。お帰り」
「・・・・・・・ミサト先生。何の用ですか?」
「や〜ね。怖い顔しないでよ」
「どうせ、ろくな事じゃないような気がするんですよ」
溜息をつく三人
出迎えに来ていたミサトとリツコも溜息をついた
「わかったわ、単刀直入に聞きます。31階層で何をしていたの?」
「戦ってたのよ。変な男、確か・・・・・・何だったけ?レイ」
「ティンバーと名乗る男です。サハクィエルの改造人間だとか・・・・・」
「「改造人間!!?」」
「サハクィエルのジャミング波のように、ATフィールドを消滅させる力を持っていました」
「成る程・・・・・・・・それでか」
シンジは、リツコに聞いた
「あの、何か心当たりとかあるんですか?」
「無いわ」
きっぱりと答える
「その男は、使徒の反応を示していました。人間ではないことに、間違いありませんでした」
「・・・・・・・・・哨戒任務を増やすしか対応策はないわね」
「そんな消極的な!!」
「それしかないのよ。迷宮そのものを閉鎖するか、二つに一つなの」
溜息混じりにミサトが言う
「とにかく、私達はその改造人間とやらに関する情報を探るわ」
「あたし達はどうすりゃいいのよ!!?」
「気を付けて」
「とほほ・・・・・・・・」
<購買>
「あなた、シンジ達が改造人間に遭遇したそうですよ」
「改造人間!?キール議長の組織は潰したはずではないか!?」
「それでも、出てきたんです。やはり、目的はアダムでしょうか・・・・・・」
「議長の後継者か、或いはその本人か・・・・・・・どちらにしても、手の打ちようがないな。
それで、シンジ達はどうした?」
「自力で切り抜けたそうですよ。あの子達もなかなかやりますね」
「そうか・・・・・・・・」
「あなた・・・・・・話すべきではありませんか?」
「・・・・・・・・・・」
「いつまでも、隠しておけることではないと思いますよ」
「奴らの目的は、本当にアダムなのだろうか?」
「はい?」
「奴らに、封印されたアダムを覚醒させる手段はあるのだろうか?」
「或いは、覚醒させる方法を捜しているのかもしれませんね」
「若しくは、別の何かという可能性もある」
「捕まえて聞いてみればはっきりするんですけど・・・・・・・」
「おとなしく捕まってくれるような連中ではない。自爆されるのが関の山だ」
「そうですよねぇ・・・・・・・」
「まだ、様子を見るしかないか・・・・・・・」
<発令所>
「改造人間?なんだそりゃ?」
「あの子達の話によると、サハクィエルの改造人間を名乗る男と戦ってたんだって」
「赤いマフラーでもしてたのか?」
「何よ、それ?」
「昔あっただろ?何とかライダーとか何とか・・・・・・」
馬鹿な会話をしている加持とミサトは放っておいて、リツコは自分の仕事をこなす
「マヤ、MAGIに異常はない?」
「はい、全システム、正常です。異常ありません」
「良かった・・・・・・あれだけ立て続けにジャミングされたのは初めてだから・・・・・」
「流石、先輩の作ったMAGIですね」
「・・・・・・・そんなことないわよ。
エンジェル・ハイロゥ斥候部隊に連絡して。緊急哨戒任務に出撃」
「了解」
マヤが、マイクに向かって緊急哨戒任務への出撃を要請する
リツコはコーヒーの入ったカップを傾けながら、考え事をしていた
改造人間というのは、何なのか?
最近の使徒の増加と何か関係があるのか?
世界中で、縄張り以外の所に使徒が出没しているという噂は本当なのだろうか?
(第三新東京市ギガスクエアの事件は、彼女は知らない)
「・・・・・・・・・もしかしたら、人類が亡びる日って遠くないかもしれないわね」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!その為に、私達がいるんじゃない!」
「どうしたんだ?急に立派なこと言い出して・・・・・熱でもあるんじゃないのか!?」
「馬鹿!!んなわけないでしょ!!!」
「・・・・・・・やれやれ」
リツコは肩を竦めて、溜息をついた
この事件には、まだまだ裏がありそうだ
つづく
後書き
こんにちわ。T.Kです
謎の改造人間の登場!!
今回の話は、卒業後の展開への伏線だったりします
はっ!言ったら伏線にならないのでは!!?