レイは、研究室に向かっていた

カスタムして付けてもらったフィールド収束具の調子が悪いのだ

再調整してもらおうと思って、リツコの研究室に向かっていると・・・・・・



「あら、レイ」

「赤木先生・・・・・・その子は?」

「どうも、迷子らしいのよ。今、マヤに頼んで保護者を捜してもらっているところ。
レイはどうかしたの?」

「はい、杖の調子が悪くて・・・・・・」

「?フィールド収束具を付けたせいかしら?見てみるわ」

「お願いします」



リツコの白衣にしがみついている、6才くらいの女の子がいた

三人で、研究室に入ってゆく










<研究室>



「・・・・・・なるほど・・・・・・・出力が高すぎたのね・・・・・・」



リツコは呟きながら作業を進めている

迷子の女の子は、大きな瞳でリツコの作業から目を逸らさず見ていた



「・・・・・・あなたの、名前は?」

「・・・・・・・・・・・フユカ」

「フユカ・・・・・ずっと見てると、頭が痛くなるわ」

「・・・・・・・平気」



フユカは、リツコの作業から片時も目を離そうとしない



「あら?レイには名前を教えて上げたのね?私以外には誰にも教えなかったのに」

「この子は、機械が好きなのでしょうか?」

「どうして?」

「赤木先生の作業から、片時も目を離そうとしません」



少し、困惑顔のレイ

リツコは苦笑した



「将来、良い科学者になれるかもね」



良いながら、淀みなくキーボードを叩き続ける

流石、リツコ

レイは、強化ガラスの向こうにある“何か”に気が付いた



「先生。あれは・・・・・・」

「あぁ、あれ?
精神感応で動く人型兵器よ。まだ実験段階のプロトタイプだけどね」



身長は約3m弱

一つ目の顔、装甲で覆われたボディは意外なほど華奢だ



「動力源は、高純度のコア。思考の転送はヘッドセットから無線で送れるわ」

「・・・・・・・すごい」

「ネルフの技術開発部の予算のうち、7割がこれに当てられてるからね」

「残りの3割は?」

「1割が新兵器の開発、2割があなた達の武装のカスタムよ」



苦笑混じりに、リツコは呟いた



「これが完成すれば、ネルフの仕事はかなり楽になるわ。使える人間は、限られるけれど」

「どのような条件ですか?」

「ATフィールドを展開、制御できる人物」

「・・・・・・結局、ネルフの仕事なわけですね」

「御名答」



ぺた、と強化ガラスにレイの指紋が付いた



「生きているのですか?」

「死んではいないわ」

「名前はなんと?」

「コードネーム:エヴァンゲリオン。プロトの零号機を開発中よ」



今まで、何も言わずにリツコの作業を見つめていたフユカが、ぼそりと呟いた



「・・・・・・・・・え、ば・・・ぁ・・・・・・」


 


君に吹く風

1月23日:潜入者










「杖は、明日には調整しておくわ」

「はい。お願いします」

「・・・・・・お姉ちゃん・・・・・お名前は?」

「レイ。綾波レイ」

「・・・・・バイバイ」

「さよなら」



レイは、研究室を後にした

何故だろう、杖を持っていたとき、微かにフユカに使徒の反応があったような・・・・・・



「・・・・・・あの子も、改造人間?」



レイは、その考えを頭から締め出した

杖の調子が悪かったからだろう

生命反応の探知と、敵性反応の探知にバグがあったのだ

そう、結論付けて、レイは歩き出す










<訓練場>



「たぁーっ!!!」

「おぉっ!!?」

「?」



レイは、足を止めた

訓練場から、気合いの声が聞こえてくる

覗いてみると、見知った面々が居た



「あ、レーイ!」

「アスカ・・・・・みんなで、何をしてるの?」

「えっへへ、卒業考査に向けての特訓!!って奴よ」

「そう」



訓練用の得物を持っている姿は、特訓と言うよりも、はしゃいでいるようにしか見えない

赤いチョークを付けた、硬質ラバーの剣を構えているのはムサシ

これまた硬質ラバーの籠手を構えているのはトウジ

ジャッジはケンスケ



「始め!!」

「たりゃあああ!!!!」

「うりゃあああ!!!!」



ごんっ



本来ならば、鋭い金属音が響き渡るであろう場面

しかし、硬質ラバー同士が打ち合わされても、鈍い音を立てるだけだ



「おらおらおらおらおらおらおらぁぁぁ!!!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ!!!!!」



連撃と連撃のぶつかり合い

トウジの拳が、ムサシの肩に入る

ニヤリと笑うトウジの肩口に、ムサシの剣が振り下ろされる



「そこまで!!!引き分けぃ!!!」

「何ぃ!?ワシの方が先に入ったやろが!!!」

「俺の剣は絶対致命傷だったぞ!!!」

「おっしゃ!!もういっぺんや!!」

「おぉ、望むところだ!!!」



また構える二人

溜息混じりにアスカがぼやく



「さっきから、ずっとあんな調子なのよ。あの熱血馬鹿二人は」

「・・・・・熱心ね」

「そぉかしら?」



またまた引き分けになったらしく、ケンスケに文句を付けている二人

また、仕切直している



「他のみんなは?」

「マナとケイタはシューティングレンジよ。シンジとヒカリはその辺じゃないの?」

「そ」



レイとアスカは、訓練場の中に入っていく

少人数なのに、賑やかだ



「レイはどうしたの?今日日曜なのに」

「杖の調子が悪かったから・・・・・・・調整してもらいに」

「へぇ、そうなんだ。
ね、スパーリングドール使うから、付き合ってくれる?」

「わかったわ」



アスカは、糸が切れた操り人形のように佇んでいるスパーリングドールの前に立った

レイはコンソールを叩いてスパーリングドールを起動、モードとレベルを設定する



「相手のモードは?」

「スラッシュプログラム!」

「スラッシュプログラム、レベルは?」

「A+!」

「了解。A+・・・・・スパーリングドール、レディ」



スパーリングドールが起きあがる

アスカが今手にしている物と同じ、硬質ラバーの長剣を持って、構えた



「スタート」



普通の人間には不可能な初速だった

一歩、二歩、三歩で加速を付けたりはしない

初めの一歩からフルスピードだ



「だああああぁぁぁっ!!!!!」



ごぉんっ!!!



硬質ラバー同士が打ち合わされる

鈍い音を響かせて、アスカの剣とスパーリングドールの剣が交差していた

受けた剣を斜めに滑らせて、アスカの剣がスパーリングドールの左肩に振り下ろされる

左肩の軟体センサーは記録したその衝撃を、セコンドに報告した



「・・・・・・・・すげぇ」



レイの後ろからモニターを覗き込んでいたケンスケが呟いた

左肩の軟体センサーは、過去最高記録には一歩及ばないが、それに匹敵する記録を報告していた



「・・・・・・・馬鹿力」

「くぅぅっ!!」



スパーリングドールの連撃

凄まじい勢いで剣が走る

硬質ラバーとはいえ、A+のスパーリングドールが繰り出す一撃を受ければ、骨折では済まない

それでも、アスカは一歩も退かない

今持っている剣は、捨てたくても捨てられない剣ではない



「・・・・・・・アスカ、すごいね」



そう言われることは、嫌だった

それでも、今は違う

素直にその言葉を受け止めることができる



「いっけぇぇっ!!!!!」



沈ませた体勢から繰り出す切り上げるような一撃

スパーリングドールが吹き飛ぶ

胴体の軟体センサーは、過去最大値の記録を報告した










<学園長室>



「改造人間がヘヴンに?」

「・・・・・・冬月先生。何か心当たりはありませんか?」

「・・・・・・・・・・・最下層に封印されている、アダムか?」

「それは、アダムを覚醒させる手段を持っているという条件が必要です」

「では・・・・・・・・・ふむ」



冬月は、顎に手を当てて考え込んだ

記憶の奥底をひっくり返して思考をまとめる

そして、一つの結論に落ち着いた



「・・・・・・・・12年前、か?」

「!!!!」



ゲンドウの顔に、はっきりと動揺が走った

組んでいる手が震え、顔が小刻みに震えている

動悸が早いのだろう



「仮にそうだとしても、理由がわからんな。あの子が一体何なのかは、私達にもわからんからな」

「・・・・・・・・・・・・レイ、か」

「しかし、それ以外ということも有り得るぞ」

「わかっています・・・・・・・」










<研究室>



黙々と作業を続けるリツコ

黙々とその作業を見つめるフユカ

マヤが、入ってきた



「先輩!」

「どうしたの?」

「フユカちゃんの両親のことで・・・・・・」

「・・・・・・・わかったわ。すぐ戻るから」



マヤとリツコは廊下に出た

曇った表情のマヤが、小さな声で耳打ちする



「・・・・・・・・フユカちゃんのご両親、2日前に死んでいます。
記録上、事故死、となっていました」

「何ですって!?」

「ここには、きっと行き場が無くて迷い込んだのではないでしょうか?」

「・・・・・・でも、いつまでもここに置いておくわけにはいかないわ」

「先輩!あんな小さい子供を放り出すんですか!?」

「ネルフ学園に入学、という手段をとるには、学園長の許可と本人の希望がいるわ。
そう、簡単な問題じゃないから・・・・・・・・・」

「・・・・・・・リツコさん」



小さな声が、足下から聞こえた

リツコとマヤは跪いて視線を合わせる



「・・・・・・・フユカちゃん、あなたは知ってた?お父さんとお母さんのこと」

「うん」

「どこかに、世話をしてくれる人がいる?」

「いない」

「・・・・・・・・・・・ここに居たい?」

「うん!」

「・・・・・・・・わかったわ、フユカちゃん」

「先輩、それじゃ!!」

「学園長室に行くわ。ついてきて」

「はいっ!!」










<学園長室>



その時、ゲンドウと冬月は将棋をさしていた



「王手、だ」

「冬月先生・・・・・・」

「待ったなし」



こんこん

ノックの音



「入りたまえ!」

「「失礼します!」」



入ってくるのは、リツコとマヤ

それにフユカの三人

その姿を見たゲンドウの第一声



「・・・・・・リツコ君。君の子供か?」

「違いますっ!!」

「では、伊吹君の・・・・・」

「絶対、違いますっ!!!」

「むぅ・・・・・では、誰の子供だ?
・・・・・・・・・・・・・・・もしや、私のか!!!!!!!!!?」

「碇、馬鹿なことを言うな。あのユイ君相手に浮気ができるとでも思っているのか?
昔で懲りているだろう?最初はすね毛を全部抜かれて、次は胸毛を全部抜かれた。今度は髭か?」

「・・・・・・・まさか・・・・・・・」



脂汗を垂らしているゲンドウ

怒鳴るような口調でリツコが言った



「この子の両親は2日前に事故死しました。
本人の希望により、ジオフロント立ネルフ学園小等部へ入学させたいと思い、馳せ参じました!!」

「ほぉ・・・・・・名前は」

「フユカだよ。おじさん」

「お、おじさっ・・・・!!!」



子供相手には本気で怒鳴れないゲンドウ

そんな様子を横目で見ながら冬月はフユカに言った



「ほぉ、良い名前だね」

「よろしく。じーさん」

「じ、じーさっ・・・・・・じ、じじっ!!!!?」



身悶えする冬月

ゲンドウはその様子を横目で見ながら膝を叩いて笑っている

リツコとマヤは可能な限り表情を変えぬよう、努めていた

笑いを堪えているのだ



「くっくっくっく・・・・・良いだろう。許可する。
授業料などは全て『特務機関ネルフ』が出す。それで良いか?」

「はい!ありがとうございます!!」

「しかし・・・・・急に寮には入ることができないと思うが・・・・・」

「今日は、私が面倒を見ます」

「そうか。では、正式な手続きが終わり次第、連絡しよう」

「はい!!」



二人は、退室していった

冬月が、表情を曇らせる



「・・・・・・妙だ」

「どうした?冬月」

「あの子供、妙な感じだ」

「じーさん呼ばわりされたことが、そんなにショックだったのか?」

「違う!!もっと真剣なことだ!!」

「ムキになるな・・・・・・それで、何が妙だと?」

「・・・・・・・・・・改造人間。かもしれんぞ」



考え込むゲンドウ



「万一の際には、頼むぞ。私とユイは今晩は予定がある」

「何?」

「たまには、豪華なディナーだ」



学園長室から罵り合う声が聞こえ、校舎中に響き渡ったという










<研究室>



「良かったわね、フユカちゃん。今日からあなたは一人じゃないわ」

「うん」



マヤの言葉に、フユカは頷く

しかし、どこか無表情だ



「マヤ、フユカの相手も良いけど、こっちも手伝って」

「何をしてるんですか?」

「エヴァの最終調整よ。
明日か明後日には、起動実験を始めるわ」

「誰が、操機するんですか?」

「・・・・・・・学園内の誰か。私達教員と生徒の誰か。
その中にシンクロ率が高い生徒がいれば、その子が適格者よ」

「そうですか・・・・・・・・・・え、最終調整って、もう動かせるんですか!!!?」

「えぇ、完成はしてるから」

「先輩、すごいです!!ほとんど一人でこんな仕事を!!!」

「褒めてくれるのはありがたいけど、手伝って・・・・・・・・・」




















研究室で、爆発が起こった










<発令所>



緊急警報が鳴り響く

夕暮れ時ののんびりした空気は叩き壊され、オペレーターの仕事が急増する

発令所に足を運んでいた冬月は大声で怒鳴った



「何があった!!!?」

「校舎内、研究室で爆発です!!」

「救護班に出動を要請しました!救護が完了次第、防火隔壁を下ろします!!」

「うむ」



これで、事態は収拾するかに見えた

しかし、入ってきた通信に、一同は度肝を抜かれた



(な、何だ!!?)

(化け物・・・・・!!!!)

(発令所!!!助けてくれ!!!!研究室から、ばけ)



ゥウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



その咆吼に、通信の声が掻き消される

何かを叩きつけ、厚い布を引き裂くような音

悲鳴

何かが潰れるような音



「映像はどうした!!?」

「駄目です。カメラが壊れています!」

「被害区域より正体不明の移動物体を確認!!数、1!!」



モニターに投影される校舎内の通路に、“UNKNOWN”が一つ現れる



「使徒か!!?」

「駄目です、確認できません!!」

「最優先警報だ!エンジェル・ハイロゥとブリュン・ヒルドは警戒待機!!
校舎内の抗戦可能な教員生徒は現場に急行せよ!!」



冬月は、ひとしきり指示を出すと、踵を返した



「理事長!どちらへ!!?」

「私も出る!!」



冬月は自分のロッカーの鍵を開け、中から杖を取り出す

“ヴェイン・デザイア”と銘打たれた魔杖

最後に使ったのは16年前だが、長い間世話になった自分の得物だ

すぐに、掌は昔の感覚を思い出し、馴染んでゆく



「日向君!!後の指示は頼むぞ!!!」



困った顔のマコトを残して、冬月は現場に向かう










<廊下>



「くっ!!何なの!?あれ!!」



炎の中の目標に向かって、ミサトは弾丸を放つ

隣では、加持がナイフを構えて待機している



「くっそ!!こうなったらディスポで一気に・・・・・・」

「馬鹿!!やめろ!!リッちゃんやマヤちゃんがどうなるかわからないだろ!!!」

「死にはしないわよ!!!」

「あぁぁっ!!一旦後退だ!!」



炎の中から、人影が現れる



身長は約3m弱

体型は意外なほど華奢だ

手には、研究室で強奪したのであろう、パレットライフルとプログレッシブナイフを握っている



「ま、まさか・・・・・・・」



加持の表情が凍り付く

よく見ると、華奢な身体は装甲に覆われている

顔の中心が、赤く光った

目だ



「エヴァンゲリオン・・・・・零号機、か!?」

「な、何よそれ!!!?」

「葛城!!逃げるぞ!!!こんな装備じゃ死にに行くだけだ!!!」

「何言ってるのよ!!!そう簡単に・・・・・・・」



ミサトが銃を向ける

しかし、零号機の反応速度はミサトをも上回っていた

パレットライフルを撃つ



「くっそ!!!」



加持はナイフのコアからATフィールドを展開して、防御しようとした

しかし、展開できない



「ぐああああっ!!!」



加持の肩や足を、銃弾が貫通してゆく

致命傷ではないが、戦うことはできない



「中和された、のか・・・・・・くそっ!!」



零号機の単眼が、立ちつくしているミサトを捕らえる

ミサトは咄嗟に加持を担いで逃げ出した





零号機改は、そのまま校舎から出てゆく










<校庭>



「・・・・・・・出てきた」



植え込みに潜んでいるマナが、静かに呟く

新調したアサルトライフル“グングニル”のセイフティを解除

スコープのレティクルに零号機の頭を重ねる



「突入準備、良い?」

「OK、やって」



静かなやりとりは、どうやらアスカと交わされているらしい

マナの潜んでいる植え込みの後ろには、全員がしゃがみ込んでいた

訓練場から慌てて教室に戻り、押っ取り刀で駆けつけようとしたが、既に遅し

よって、校庭の片隅から狙撃、後に強襲という結論になったらしい



「・・・・・・・・・・・魔法は駄目?」

「駄目。きっと、ATフィールドを探知される」

「わかった・・・・・・・・・・・・・っ!」



バスッ・・・・・・・・・・・・カキン



視認できるほどの強力なATフィールドだった

銃弾はあっさりと跳ね返り、零号機が前傾姿勢で走り込んでくる



「散開!!」



その場にいた10人は、蜘蛛の子を散らすように動く

走りながら、ケンスケは“パレットライフルmkU”のフルオートで零号機を射撃



「委員長!!中和!!」

「やってるわ!!」



それでも、ATフィールドは若干薄くなっただけだった

銃弾は、全弾止められてしまう



「マジックプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:11!!
グラビティ・ブレス:ドライブ!!」



マユミの渾身の魔法

しかし、零号機は凄まじい速さで動き、有効範囲から出てしまう

マユミの魔法は、空しく校庭の一部に超重力を生み出しただけに終わった

校庭の土が陥没してゆく



「ケイタ、マナ!!援護頼む!!」

「「了解!」」



ムサシが走る。新調した剣“アークロイヤル”と、楯“メタルリーフ”を携えて

零号機もその動きに反応して、プログナイフを構えた

しかし、そのままで動かない



「いけるっ!!」



ムサシは、渾身の力を込めて、零号機にアークロイヤルをを振り下ろす

しかし、その一撃もATフィールドに受け止められる



「こなくそぉぉぉぉっ!!!!!!」



ムサシはフィールドを全開させる

それでも、中和することができない

クォレルが飛んできて、フィールドに突き刺さった

コアの矢尻が爆発する



「ぐわっ・・・・・ケイタ!!気を付けろよ!!!」

「危ない!!!ムサシ!!」



マナの声

その声が聞こえていなければ、今頃頭から真っ二つだったかもしれない

零号機が振り下ろすプログナイフを、辛うじてメタルリーフで受け止めることができた

左腕に、凄まじい衝撃が走り・・・・・・・・・



「き、斬られる!!!?」

「逃げるのよ!!!」



プログナイフが、メタルリーフを徐々に貫こうとしていた

ムサシは慌てて左腕からそれを外すと、一目散に後退する

追いかけようとする零号機に立ちはだかったのは、トウジだった



「おりゃあーっ!!!」



トウジの重手甲“雷怨”が唸る

心の底でどす黒い衝動、ベルセルクが暴れている

理性でベルセルクを押さえ込んだまま戦って何とかなる相手ではないと判断し、

自ら、ベルセルクの殺戮衝動に身を任せた



「ごあああああああぁぁぁぁっ!!!!!」



血走った瞳で、トウジが吼える

ベルセルクに憑かれた狂戦士が、零号機に飛びかかった

その場にいる全員が中和に集中する

これで、ようやくトウジは零号機と同じ土俵に立てた

フィールドを完全に中和できた、今のトウジなら互角以上だろう

そう思った直後



ガッ、キィン!!!



「嘘だろ!!!」



思わずケンスケが叫ぶ

ベルセルクに憑かれたトウジの拳でも、零号機の身体をとらえることはできなかった

顔面に膝が叩き込まれ、トウジの身体が跳ねる

浮き上がった身体の足を掴んで、零号機はトウジの身体を地面に叩きつける!



「やめてぇっ!!!!」



ヒカリのATフィールド

地面に網のように張り巡らされ、トウジの身体を受け止めた



「行くわよ!シンジ!」

「うん!」

「レイは、援護を・・・・・・・できないのよね」

「ごめんなさい」

「気にしないで良いよ。頑張るから」



杖がないレイにできることはない

シンジとアスカが飛び出した

ベルセルクに憑かれているトウジに近寄るのは賭だが、このままではトウジが殺される

走り込む二人を、銃弾とクォレルが追い抜いていった

援護射撃が零号機のフィールドを僅かでも消費させる

ヒカリとマユミは全力で中和に集中

それでも完全に中和することは敵わない



「シンジ!!やって!!」



アスカのシルファングの一閃が、ATフィールドに喰い込む

更にシンジが刀を打ち込もうとしたときだった

零号機の単眼が怪しく輝き・・・・・・・・・・・・



「アスカっ!!」

「くっ、くぅっ!!!」



零号機の振るった指先からの五筋のATフィールドの刃が迸った

シンジは咄嗟にアスカを抱えると飛びすさった

アスカの赤い髪の毛が僅かに宙を舞う



「おごあっ!!!」



トウジの腹に零号機の掌が入った

強烈なATフィールドが展開され、トウジの身体を弾き飛ばす



「っ!!打つ手は無いの!?」



珍しく、レイは焦った口調で言った

ケンスケとマナとムサシが、攻撃しようとして・・・・・・・・・



「やめたまえ。君達で太刀打ちできる相手ではない」

「り、理事長!!?」



玄関から、冬月が出てきた

杖を携えて、悠然とした足取りで



「後退せよ。後は私がやる」



静かな声だったが、有無を言わせぬ口調だった

シンジ達は、全員後退する

零号機は冬月の方を向き、ナイフを構えた



「いつまでそんなところに潜り込んでいるつもりだ!?アルミサエルの改造人間!」

「改造人間!!?」



零号機の動きが止まる

力を失い、跪いた

そして、その背中から何かが出てくる・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・気付いていたか」

「やはり、君だったか。
はじめから、潜入が目的だったと言うところか?
御苦労なことだ。架空の両親の死亡記録まで偽造していたとはな」



アルミサエルの改造人間

それは、フユカだった

しかし、その声はかつてのフユカの物ではない



「よもやとは思っていたが・・・・・・・エヴァに取り憑くとはな・・・・・・・・
人間に取り憑かなかっただけ、まだマシかもしれんな」

「貴様・・・・・・何故、そこまで知っている!?」

「・・・・・・・どうも、縁があるらしい。私と君達のような存在は・・・・・・・・」

「何!!?」

「目的は、ネルフの技術の奪取か?
いや、零号機の強奪というのは勝手な判断だろう?」

「ぐっ!!」



図星だった

冬月は厳かに、それでいて冷たく呟く



「貴様は、どうあっても倒さねばならない敵だ」

「貴様のような老いぼれが・・・・・・・」



フユカは、嘲笑うような口調で言った

零号機の中に戻り、冬月に向かって・・・・・・・・・・



動けなかった



「動けんだろう?私が目の前に来たときから、既に勝負は付いていた」

「馬鹿な!!!?こ、これは・・・・・・・」



零号機改の足下には、六亡星を描いた魔法陣があった

その中にいる零号機は、身じろぎ一つできなくなっている



「これは、呪縛の結界!!?貴様、何故遺失したはずの呪を行使できる!!!?」

「貴様が知る必要はない」



冬月は杖を掲げると、厳かに、朗々とした声で呪文を詠う

しかし、それは普通の魔法ではない



「我、命ず。
闇の深淵にて数多の怒りと嘆きを司る冥府の神よ。
奈落に響くはの死人の叫び。天を斬り裂くは魔の哄笑。
汝の裁きに慈悲はなく、汝の前に先はなし。
汝、我が命に従い、彼の者に滅びの裁きを与えるべし・・・・・・・・」



マジックプログラムではない

まるで、「本物」の魔法のようだ

詠唱に反応するように、杖のコアから光が溢れ出す



「・・・・・・・・・受けるが良い、暗黒の裁きを・・・・・・・・・!!」

「お、おお!!?うおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!!!」



魔法陣から、漆黒の霧が溢れ出す

その霧は零号機改とフユカを包み込む

冬月は杖を振るい、言葉を放つ

それは、行使できる者がいるはずのない、禁じられた呪

闇が膨れ上がり、零号機とフユカを食い尽くす



「・・・・・・ダークネス・ディザスターッ!!」

「ぬううううううぅぅ!!!!!ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

「最果ての地に、還るがいい・・・・・・・」



断末魔の叫びを背に、冬月は呟いた

杖を片手に、何事もなかったかのように、玄関に向かって歩き出す

誰もが、畏怖をちりばめ、恐れと尊敬を込めた視線を向けている



「あ、あんなプログラムが、どうして・・・・・・・あんな大出力の魔法・・・・・・」



誰もが、呆然と呟く

冬月は「魔法」を使ったのではない

「禁呪」を行使したのだ










<第三新東京市:高級レストラン>



「あら?あなた。冬月先生が禁呪を行使したみたいですよ?」

「そうか・・・・・・・・禁呪を行使せねばならないほどの相手が出てくるようになったか」

「どうするのですか?もう、隠せないのでは?」

「・・・・・・・・・・・・・それか、地下迷宮そのものを閉鎖するべきか・・・・・・・・」



二人の会話は続く

話をしていると、ウェイターの一人が通りすがりに紙切れを置いていった

何喰わぬ顔で、歩いてゆく

ゲンドウは、小さい紙切れを広げた

そこには、万年筆で書かれた手書きの文章があった

かなり短い



「・・・・・・・・・ユイ。やはり、予想は正しかった」



ゲンドウは、ユイに紙切れを渡した

ユイも目を通す



そこには、こう書かれていた





“ゼーレ、及びキール議長は健在”





ゼーレ、キール議長

かつて彼らが戦った組織

かつて彼らが戦った愚かなる老人の名



「・・・・・・・・やはり、アダムか」





つづく





後書き

冬月理事長、大活躍

EVAを一度は出したかったんですけどねぇ・・・・・・・・
何か、中途半端な形になってしまいました
ラストでもう一回出せるかなぁ・・・・・・・・?