<ヘヴン:最下層>



「・・・・・・・・・アダムよ、深淵より来たりし神よ!聞こえるか!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「契約を交わしたい。知恵の実と引き替えに」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「我が最愛の妹をよみがえらせろ。それが願いだ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・まもなく、時が来る



「・・・・・・・・・・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・約を違えし時は、貴様一人の魂で済むと思うな



「・・・・・・・・わかっている」






君に吹く風

2月19日:嫉妬













<ヘヴン:第35階層>



驚異的だった

何が驚異的かというと、使徒の強さも驚異的

シンジ達の速さも驚異的だった

教員さえも舌を巻くような強さになっている



しかし、最近、アスカの調子がおかしくなっている



「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

「はぁ、はぁ、何とか、勝てたわね」

「無茶をしすぎよ」



三人の前には、獣の使徒の死骸が累々と横たわっている

息を切らしているシンジとアスカ

レイは、若干非難するような口調でアスカに言った



「無鉄砲すぎるわ。こんな戦い方は、無茶よ。
他にやり過ごす方法はあったはず」

「そんなの・・・・・・はぁ・・・・・もう、良いじゃない」

「良くないわ。アスカは一人で戦っているわけじゃないもの」

「・・・・・・何よ・・・・はぁ・・・・つっかかるわね!」

「・・・・・・・・・・・碇君も、危険な目に遭うのよ」



アスカは、息を飲んだ

先の戦闘で一番傷を負ったのは、シンジなのだ



「ぼ、僕は・・・・ぜぇ・・・・大丈夫だから」

「そんな風には見えない。手当するわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



レイが、シンジの手当をしている

慣れた手つきで汚れを落とし、膏薬を塗り込み、包帯を巻く

自分には、あんな真似ができるだろうか

あんな風に、優しく手当をしてあげることができるだろうか



アスカの心の中に、苛立ちが満ちてゆく

心に刺さった小さな棘は、今や槍となって、アスカの心を穿っていた










<教員室>



「卒業式まで、残り1ヶ月・・・・・・早かったわね」

「短かったわね。1年間って」

「あぁ、今年は特にな」



三年生担任教員三人組、ミサトとリツコと加持だ



「今年の三年生は“当たり”だったよな」

「そうよね。騒動が絶えなくて、面白かったわ」

「でも、私の仕事は急増よ」



溜息と一緒に、リツコは言葉を吐き出した



「ま、落第が確定してる生徒はいないし、卒業考査も良い成績を収めてくれるでしょうね」

「あれ?皆さん揃って何の話ですか?」



マコトとシゲル

それにマヤだ



「あぁ、いよいよ、三年生も卒業だなって話をね」

「今年一年って、早かったですね」

「何が一番印象に残ってるかなぁ・・・・・・・やっぱり、学園祭かな」

「あぁ、『亡国の詩』?」

「大盛況だったものね」

「その影では葛城とリッちゃんは二人で戦ってたんだよなぁ。何で相談してくれなかったんだ?
他にも、色々やり方はあっただろ?」

「ん〜・・・・・・エンジェル・ハイロゥやブリュン・ヒルドは信用できなかったわ。
鎮圧は早いと思うけど、どんな手段を取るかわからなかったから」

「だからって、一人で、先輩と二人で行ったんですか!?」

「ま、それは良いじゃん。結局、演劇はできたし、その上大成功だったんだから」

「ま、アレは俺達の力じゃないな。シンジ君のお陰だろ」

「あれがあって、シンジ君は急に人気が出たって言いますし」

「女子の後輩達の憧れの的さ。演劇でも主役。短剣と刀を使わせれば生徒の中でも5本指に入る」

「憧れるのも、無理はないわね」

「でも、あの子って1、2年の時は筆記しかできなかったのよね。
実技なんて、ほとんど。訓練科目にもばらつきがあったから尚更ね」

「ま、何かきっかけがあったんだろ。何でも、初めてセントラルドグマに降りた日に、
フェンリルに遭遇したって言うじゃないか。それで、誰かに助けられたらしいから・・・・・・」

「自分の弱さを知ったんでしょう」

「それでも、彼は逃げなかった。そういうところに、敬意を表するわ」

「へぇ、リツコの口から敬意なんて言葉が聞けるなんてね」

「どういう意味よ」

「だって、リツコって“自分が一番”って感じじゃない?」

「そんなこと無いわよ。
科学者としても、技術者としても、母さんには敵わなかった。
スペルは一番だと思っていたわ。でも、理事長は桁違いだったわよ」

「そうそう!!理事長って、何者なんでしょうね!?」

「あんな魔法の使い方、聞いたことも無いッスよ!」

「コーヒー、淹れましたよ」

「あ、サンキュ。マヤちゃん」

「ありがとう。マヤ」



ずずーっ×6



「そう言えば、聖夜祭の時、リツコはどうしてたの?」

「ぶっ!!!」

「うわっ!!?」

「ご、ごめんなさい・・・・・・・せ、聖夜祭の時?」

「そうよ。何焦ってるの?」

「ちょ、ちょっと、その、あの時は・・・・・・」

「あ、せ、先輩は、風邪!風邪を引いていたんです!!」

「そ、そうなのよ。参ったわ。熱が40°近くも・・・・・・」

「ふ〜ん。で、何でマヤちゃんが知ってるの?」

「そ、そ、そ、そ、それは、み、見舞いです!!お見舞いに行ったんです!!!」

「それで、聖夜祭の方には一度も顔を出さなかったの?」

「そ、それは、付きっきりで看護を・・・・・・・」

「あ〜や〜し〜い〜な〜・・・・・・・マヤちゃん、顔真っ赤じゃない」

「そ、そんなことないです!!!!」

「ホントにぃ?でも、おかしいわよ?」

「せ、聖夜祭の話はどうでも良いでしょう!!」

「ふ〜ん・・・・・・あ、そう」

「聖夜祭と言えば、葛城だって人のことは言えないんじゃないのか?」

「何?何があったの?」

「こいつ、人に書類整理手伝わせて聖夜祭に言ったら、もう、生徒に飲ませまくるから、
仕方がないから気絶させて寮に放り込んだんだよな」

「あ、あれは・・・・・・」

「急性アルコール中毒で死にかけた生徒がいたのを忘れたのか?
学園長の裁量次第で、お前はここにはいられなかったかもしれないんだぜ?少しは反省しろ」

「・・・・・・・はぁい」

「でも、ホントこの一年って色んな事がありすぎましたよね?」

「そうね。
4月の、フェンリル騒ぎに始まり、戦自の士官学校から転校生が来て
5月は、セントラルドグマの大停電。
6月は、一学期中間考査に、羽化拠点騒動。
7月は、一学期期末試験に、結界が破られて使徒の侵攻を許し、指揮個体なんて存在も確認。
8月は、戦略自衛隊士官学校との交換留学。それに対する殴り込み。
9月は、学園長の立派すぎる演説事件。
10月は、二学期中間考査。森林区画で謎の戦闘の痕跡の確認に、学園祭の準備。
11月は、学園祭に、ベルセルク感染者の発生。
12月は、二学期期末試験に聖誕祭。
1月は、三学期中間考査に、改造人間騒動が二度も。お陰で零号機は消滅。
2月は一体何が起こるかしら?」

「平和に卒業して欲しいわよ」

「できることなら、それが一番だな」



卒業考査は、三月一日

それまで、何も起こらなければいいのだが・・・・・・・・・










<ヘヴン:第32階層>



「トウジ。大丈夫か?」

「あぁ・・・・・・大丈夫や。ベルセルクなんぞに負けんで」

「鈴原、気を付けて」

「おおきに、委員長。ほな、援護、頼むでぇ!!!!」



トウジの雷怨が、青く放電する

スタン・エッジと同じ要領で、改造して貰ったのだ

スタン・フィストを内蔵した雷怨を構えた

籠手の中から空になった電池がイジェクトされる



「どぁりゃあああああ!!!!」



電撃と共に襲いかかる衝撃に、使徒が吹き飛ばされてゆく



「マジックプログラム:ファンクション!フィールドレベル:12!
シックス・センス:ドライブ!!」



ヒカリの魔法

トウジの第六感とも言うべき、勘を鋭くする

全てを予知しているかのように、トウジは全ての攻撃をかわす

ケンスケの援護射撃

フィールドを纏った弾丸が連続して打ち出される



「いけっ!!」



右手に構えたポジトロンライフルの有効範囲に釘付けにし、陽電子の光条を放つ

ポジトロンライフルに魔法は使えない

燃料電池を消費して、エネルギーを作り出す

そしてその爆発を突っ切って踏み込んだトウジが、魔法を唱えた



「コンボプログラム:ファンクション!フィールドレベル:12!!
連撃拳・怒号魔破:ドライブ!!!」



まるで、トウジの拳が膨れ上がったかのように見えた

フィールドを纏った拳は、フルオートで撃ち出される弾丸のような速度で繰り出される

使徒を叩き潰すのに、そう時間はかからなかった










<ヘヴン:第31階層>



「うっわ〜。すごいわね。羽化拠点って」



マナの大声が広間に反響する

辺りは、繭がびっしりと覆っている

ムサシとケイタは戦々恐々としていた



「しーっ!静かにしろよ!」

「そうだよ。繭でいる内に仕留めなきゃ!」

「わーかったわよ。で、どうするの?」

「任せた。残って出てきた奴は、俺とケイタで叩く」

「じゃ、下がって下がって」



広間の入り口まで下がる三人

マナは、背中に背負っていたバッグの中から何かを組み立てる



「でーきたっと」

「・・・・・・・・・・相変わらず、物騒な代物だよな」

「んじゃ、派手に行くわよー!!!」



マナが地面に置いたのは、狙撃用陽電子砲“ポジトロンスナイパーライフル”

ポジトロンライフルもそうだが、陽電子砲は全種類、生徒に使用許可はなかった

エンジェル・ハイロゥとブリュン・ヒルドだけが使っていた装備だが・・・・・・・・

今のように羽化拠点に遭遇した際に、自力で破壊できるようにと、使用許可が出たのだ



「撃鉄。OK!どこからやる?」



ヒューズが装填され、射撃準備が整った

マナはその場に伏せてスコープを覗き込む



「片っ端から」

「りょーかい」



ズヴァシュッ!!!!!!



大爆発

羽化が始まった

ヒューズを交換し、マガジン代わりに突き刺さっている燃料電池を抜く

新しい燃料電池を突き刺して、第二射を放つ



スヴァシュッ!!!!!!



使徒が動き出す

そろそろ来るだろう

ヒューズと燃料電池を交換する

第三射



「もういっちょぉ!!!!」



スヴァシュッ!!!!!!



「あとお願い!!」

「うん。任せて」

「ほらほら、そのデカブツとっとと下げろ」

「わかったわよ。こら!!蹴るんじゃない!!」

「ムサシ!!来るよ!!」

「OK。派手に行くぜ!」

「・・・・・・あたしの受け売り?そのセリフ」

「うるさいやい」



実はその通りだったのだ

ムサシは、照れ隠しに呪文を詠唱する



「ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!!!!!!
スラッシュプログラム:ファンクション!!!フィールドレベル:11!!!
ロスト・ギルティ:ドッラーイブ!!!!!!!」



入り口に殺到しようとしていた使徒の波を打ち砕く



「もぉぉいっちょぉぉぉっ!!!!!!」

「あ、あははは・・・・・・・・」

「ど派手にいくわよぉぉぉっ!!!!!!」



暴れる二人に挟まれて、ケイタには渇いた笑いしかできない

またまた、大爆発










<ヘヴン:第33階層>



「・・・・・・・・なかなかの数ですね。まだ、気付いていませんか・・・・・・」



マユミは、眼前の使徒の群をそう判断した

夢魔を呼び出そうとして、ふと思い出したことがある

バッグの中を探り、一冊の古ぼけた書を取りだした



「・・・・・・・・・『禁呪』の力・・・・・・・」



それは、魔導書だった

図書室の書庫の一番奥にひっそりと安置されていた本

きっと、正当な持ち主は冬月なのだろう

マユミは、それを黙って持ち出し、読んでいた

今持っている杖では、大した『禁呪』は使えないだろう

それでも、『禁呪』の破壊力は絶大だ

マユミは、杖を掲げると魔導書を片手に詠唱し始めた



「汝には聞こうるか。
風の咆吼、大気の叫び。
彼の獣は虚空の爪と牙をもて、荒ぶる汝を打ち砕かん!
・・・・・・・・・来たれ!疾風の魔獣!!」



杖の先端を使徒の一団に向ける

コアが強烈な光を放ち、『禁呪』の力が完成した

マユミは、その言葉を言い放つ

その言葉は疾風となり、使徒を引き裂くだろう



「エアリアル・ロアー!」



不可視の力が放たれた

それは、空気の刃。ソニックブームなどという生易しいものではない

目標となった全ての使徒は、細切れになって千切れ飛んだ

一瞬だった



「・・・・・ぁ・・・・・あぁ・・・・・・・」



両膝に震えが来る

とんでもない力だ

『禁呪』が『禁呪』とされるわけを、彼女は知った

きっと、今現在『禁呪』の使い手である冬月が、最凶の『禁呪』を使ったらどうなるか

ページをめくる

最後のページに書かれているもの



「・・・・・・・・・・・エンドレス・カラミティ・・・・・終わり無き惨禍・・・・・」



史上最悪の天変地異を引き起こす『禁呪』

その力は星の命を削るほどだと記載されている

過去に、誰かがこんな『禁呪』を使い、全てを無に帰したのだろうか

それは、誰にもわからないことだ

しかし・・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・私に、使いこなす自信はない・・・・・・・」



マユミは、本を閉じた

杖が、粉々に砕け散る










<ヘヴン:第35階層>



「エッジプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:12!!
朱雀閃・茜:ドライブ!!!」



シンジの九頭竜から紅の刃が飛び出してゆく

既にコアの光は消えかけ、シンジ自信もかなり消耗している



「まだいるわね・・・・・・・行くわよ!シンジ!!」

「・・・・・っくっ・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

「シンジ!!何やってるのよ!!!?」

「わかった・・・・・・すぐに・・・・・!!!」



両膝が地に落ちた

限界だ

刀にすがって倒れないようにするので精一杯だ



「アスカ、行って!!援護するから!!」

「お願い!!」



レイの言葉に、アスカは走った

通路の奥にはシンジが仕留め損なった使徒が3匹

シルファングのフィールドを全開させ、旋風のように斬り刻む



「マジックプログラム:ファンクション!フィールドレベル:11!
フィールド・レインフォース:ドライブ!」

「だぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



最後の一匹を脳天から唐竹割りにした

勝利の余韻に浸る暇もなく、アスカはシンジの元へ向かう



「シンジ!!!」

「・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・ごめん・・・・・・動けなかった・・・・・・」

「アスカ」



レイの緋色の瞳が、冷たい力をもってアスカを射抜く

一歩たじろいた



「今日は、この位にしましょう。もう、碇君も限界だし。私のコアも切れかけてるわ」

「・・・・・・・・仕方ないわね」

「仕方なくない。アスカは焦り過ぎよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「無茶なことはさせないで」



三人は、地上に戻る










<迷宮昇降口>



シンジに肩を貸したレイと、アスカが出てきた

しかし、アスカの顔は暗い

12月の時のような顔だ



「碇君、急いで保健室に・・・・・・・」

「あ、大丈夫だよ。何とも、無いから・・・・・・・」



レイの手から放れた途端、倒れそうになるシンジ

慌ててレイはそれを支えた



「駄目。無理をしてもわかるわ。急ぎましょう」

「・・・・・・・あ、うん」



アスカの心が、爆発した

髪の毛が逆立つのではないかと言うほど憤怒の表情を現したアスカは、強引にシンジを奪い取る



「行くわよ!!シンジ!!」

「あっ・・・・・・・・」

「ア、アスカ!!?」

「保健室でしょ!!急いで連れていってあげるから!!!!」

「ま、待ってよ!ちょっと、アスカ!!!?」










<廊下>



「は、離してよ!アスカ!!」

「いやよ!!!!」

「どうしたんだよ!!わざと綾波にあんなことするなんて!!!」

「うるさい!!!人が心配してやってるのよ!!!」

「アスカっ!!!!!」



シンジは、ふらつく身体をおして、アスカを振り解いた



「おかしいよ・・・・・どうしちゃったんだよ!?」

「・・・・・・・・」

「綾波とは、友達なのに、どうしてあんな意地悪なことするんだよ!?」

「あんたが・・・・・・・奪われそうだからよ」

「?」



アスカは顔を上げて、激しい口調で言う

目には、涙が浮かんでいた



「あたしは、剣を使うしか能がない男女だから、レイにみたいには優しくできないから!!!
あんただって、がさつなあたしより優しいレイの方が良いんでしょ?はっきり言いなさいよ!!!」

「・・・・・・・・・・アスカ」

「レイだって、あんたが好きなのよ・・・・・・気付いてるんでしょ!?
嫌よね。こんな女。
馬鹿みたいに短気で、馬鹿みたいに嫉妬して、レイも、シンジさえも信じられないで」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・ごめん。レイには謝りに行くから・・・・・・・」

「アスカ・・・・・・・・・」

「さよなら」



彼女の心に突き刺さっていた小さな棘

それは、親友に対する羨望と嫉妬だった





つづく





後書き

痛い
痛すぎるかもしれない

・・・・・・・・次回から、決戦に突入です