あの一件以来、僕はアスカと喋っていない

綾波とも



気持ちの整理を付けるには、10日という時間では全然足りなかった

それは、二人も同じだったのかもしれない

それでも時間は進み、先にあるものは迫ってくる



明日は卒業考査

いよいよ、卒業も間近になっているのに・・・・・・・・



僕は・・・・・・・・・・・・



未だ、何もできていない








君に吹く風

2月28日:大切な人・前編













<中庭>



「今日は、随分冷え込むな」

「そりゃ、冬なんだから」

「まぁ、そうだけど・・・・・・心情的にぼやきたくなるだろ?」



中庭を横切っているのは、加持とミサト

書類やら出席簿やらを手に、教室に向かっている



「こういうときは、酒でも飲んで、体を温めるに限るわね」

「そうだな。今晩あたりどうだ?」

「OK。加持君の奢り?」

「割り勘。いや、確か葛城の書類整理手伝ったときに約束したっけな」

「う」

「今度飲みに行くときは葛城の奢りだって」

「じゃあ、行かない・・・・・・・・・・・・・」

「あ、そぉ。残念だな」



加持の視界に、妙な男の姿が映った

真っ黒なコートに身を包んでいる男

男と言うには、若いような気もするが・・・・・・・

黒いコートとは対照的に、病的に白い肌。緋色の瞳



カヲルだ



「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「何やってるの?加持君」

「あの、何か?」



カヲルが口を開いた



「あ、いや・・・・・・・何でもない」

「では、失礼します」



カヲルは、悠然と立ち去ってゆく

加持は、まるで「落ちる夢」から醒めたような気分を味わっていた



「何なんだ・・・・・・・・一体」










<教室>



「今度は、シンジとアスカに続いて、綾波も沈んでるな」

「せやかて、綾波が喋らんのは、普段と変われへんやんか」

「・・・・・・・でも、また何かあったのかしら?」

「まるで、お通夜よね」

「全くな。喧嘩でもしたか?」

「でも、あの三人に限って喧嘩なんて・・・・・・」

「そうですね・・・・・・・まるで、クリスマス前のアスカさんと変わりません」



話しているのは、ケンスケとトウジとヒカリとマナとムサシとケイタとマユミ



「どうでもいいけど、そろそろ自分のクラスに帰りなさいよ。HR始まるわよ」

「おっと、いっけね!」

「じゃ、また後でね」

「それでは・・・・・・・・・・・」



ミサトが入ってくる



「おっはよー!!みんなー!!!」

「おはようございまーす」×{教室にいる生徒全員−(シンジ+アスカ+レイ)}

「はい!!碇シンジ君!!元気がないわよ!!」

「・・・・・・・おはよう、ございます」

「うっ」



予想外に暗い

ミサトは標的を変えた



「惣流アスカ・ラングレーさん!!朝の挨拶は!!?」

「・・・・・・・・・うるさいわよ・・・・・・・・・・・」

「ううっ!」



押し殺した口調のアスカ

ぎらつく瞳は、まるで



「これ以上、つまらない事言うなら・・・・・・・わかってるわね」



とでも、言っているかのようだ

ミサトはそれでも諦めない



「綾波レイさん!!おっはよう!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

「・・・・・・・・・・・・・で、では、HRを始めます!」
(おっかしーわねー。私、何処でそんなに人望無くしたかしら?)



内心、ミサトはそんなことを考えていた



「さて、明日はいよいよみんなの卒業考査です。
この一年間で学んだこと、訓練の成果を存分に発揮し、みんなで卒業してください。
目標到達階層は、第35階層です。
既に35階層を制覇している生徒は、最下層を目指してください」

「はーい!ミサト先生質問!!」

「何?霧島さん」

「先生は何階層まで行ったんですか!?」

「私?私は・・・・・・・そんなに・・・・・・・・
ま、まぁ、私の話はどうでも良いでしょ?
今日の授業で最後だから、みんなしっかりがっちり物にしましょう!!以上!!」



クラスに、ざわめきが戻る

そんな中、アスカは静かに立ち上がるとレイの所へ行った



「レイ。昼休み、屋上に来て」










<昼休み:屋上>



「・・・・・・・あたし、何やってるんだろ・・・・・・・」



冷たい風が吹き付ける屋上で、アスカはフェンスにもたれて考えていた

シンジのこと

レイのこと

自分のこと

卒業試験のこと



「あたしじゃ・・・・・・・・駄目よね。やっぱり」



勝手に、そう決めつけた

それが、彼女の答え

屋上の重いドアが開いて、彼女の親友が姿を現す



「・・・・・・ごめん。呼び出したりして」

「何?アスカ」

「・・・・・・・・実は、レイに話したいことがあって・・・・・・」

「碇君のこと?」

「!!!!・・・・・・・・・やっぱり、わかるね。
あたし、シンジと付き合ってるって、前言ったわよね」

「えぇ」

「・・・・・・・・・もぅ、別れようと思って」



沈んだ口調のアスカに、レイは聞いた



「何故?どうしてそんな事言うの?」

「・・・・・・・自信がないから・・・・・・レイみたいに優しくないし」

「アスカには、アスカの良いところがあるわ。
アスカは、私にはなれない。私も、アスカにはなれないから」

「・・・・・・・・ありがと、レイ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、あたしもわかるのよ」



アスカは、吹き付ける風に乱される髪を気にもせず、立っている

レイも、アスカの正面に向かい合って立っている



「レイも・・・・・・・あいつの、シンジのこと、好きなんでしょ?」

「!!!」

「・・・・・・・・アイツの手当してるときのレイの顔、すごく幸せそうだった・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・私は・・・・・・」

「あたしなんかより、レイの方がお似合いなのよ。絶対。
あたしは・・・・・・・・・・・・シンジの傍にいても、困らせるだけだし。
やっぱりさ、あたしって可愛くないのよ」

「そんなこと・・・・・・・無いと思うわ」

「・・・・・・・気休めなら、よしてよ」

「そんなこと無いわ・・・・・・・・私は、本当に・・・・・・」



レイが言いかけた時、アスカが叫んだ



「あんたにあたしの気持ちがわかるの!!!!?
言えばいいのよ!!認めればいいのよ!!シンジが好きだって、言えばいいじゃない!!!
どうしてそう言わないのよ!!!それともあたしに気を使ってるつもり!!!?」

「アスカ・・・・・・・・・・・・」

「あんたなんか、何処にでも行けばいいじゃない!!シンジと一緒に!!!」

「それは困るな」



いきなり、男の声が聞こえた

貯水タンクの裏から聞こえてきたはずだ



「誰よ!!!」

「あぁ、取り込み中に申し訳ない。
・・・・・・・・・・・そこの彼女に用があるんだ」



ゆっくりと姿を現す黒い人影

カヲルだ

レイを指さしている



「私に?」

「僕と、一緒に来てもらう」

「何をっ!!あんたみたいな得体の知れない奴に!!!」

「・・・・・・・・・・・・・はっ!」

「くはっ!!」



レイの身体が、くの字に折れ曲がる

カヲルのATフィールドが、レイの鳩尾を突いたのだろう



「このぉっ!!!!」



アスカは背中にぐったりとしたレイを庇って、殴りかかろうとする

カヲルも、刀の柄に手を掛けた

その時だった



「待てッ!!!!」



ドアを蹴破って出てきたのは・・・・・・・・



「加持先生!!」

「怪しいと思って探っていれば・・・・・・
返答次第で、強硬手段をとらざるを得なくなる。質問に答えろ」

「質問だけなら」

「レイちゃんをどうするつもりだ!」

「生贄になってもらいます」



加持は黙って銃を向けた

カヲルの眉間に正確にポイントする



「おい、巫山戯るな」

「まさか?本気ですよ」



加持は発砲した

一発はカヲルの眉間

一発は左胸

一発は右膝



全て、ATフィールドに叩き落とされた

そして、カヲルが抜刀する



「・・・・・・・・・・消えろ」










何が起こったのか、アスカには理解できなかった

カヲルが抜き放った漆黒の刃が、加持の脇腹から肩に掛けて舐めていた

溢れ出す鮮血

口からも血を吐いて、加持は倒れた



「・・・・・・ぁぁぁ・・・・・・」

「あぁ、下手には動かないで欲しい。君も殺さなきゃいけなくなる」



カヲルはレイの身体を担ぎ上げると、振り返って言った



「・・・・・・・・・この子を取り返したいなら、地下迷宮の最下層に来ると良い。
できれば、シンジ君にそう伝えてくれ」



カヲルは、屋上から跳躍した

ATフィールドが重力を制御し、迷宮昇降口目掛けてゆっくりと落ちてゆく



「・・・・・・・・・・・ふむ」



カヲルは、結界目掛けて刀を一閃させた

普通、結界には触れることもできない

「力の流れ」を見切ったのだ

結界が、澄んだ音を立てて砕け散る



「・・・・・・・・・・ぁぁぁぁ・・・・・レ、レイ・・・・・・」



立ちすくむアスカに、冷たい風が吹き付けた










<教室>



「・・・・・・・・・なぁ、シンジ。気にならんのか?」

「何が?」

「惣流に綾波だよ。二人揃っていなくなってるだろ?」

「・・・・・・・・あ、本当だ」



シンジの言葉に、トウジとケンスケは肩を竦めた



「こりゃ駄目だ」

「重傷やな」

「・・・・・・・・別に、もうどうでもいいんだ」



その時、教室にアスカが駆け込んできた



「シンジ!!!!シンジ!!!!!!」

「・・・・・・・・アスカ・・・・・・・・どうかしたの?」

「レイが、レイがさらわれた!!!!!!」

「何だって!!!?」×教室の生徒達



シンジは、肩で息をしているアスカに問いつめる

決して、嘘ではない

アスカは真剣だ



「屋上にいたら、黒いコートを着た変な奴が・・・・・・レイを・・・・・・・
加持先生も、助けに来てくれたんだけど、やられちゃって・・・・・」

「そんな・・・・・・・・」

「おい!!!先生に報告だ!!!」

「綾波さんを助けに行きましょうよ!!!」



口々に喋り、生徒達は装備一式を担いで教室を出ていく

行く先は、発令所か教員室か迷宮昇降口だ

一斉に、教室を出てゆく



「おら、シンジ!!!何ぼさっとしてるんだよ!!!」

「さっさと準備せんかい!!綾波を助けに行かなあかんやろが!!!!」

「わかってる!!!」



ケンスケとトウジに急かされ、シンジも装備一式を出す

教室を出ようとしたところで、アスカが立ちふさがった



「アスカ、どいてよ!!」

「・・・・・・・・・駄目」

「はぁ?何言うとんのや!!惣流!!!」

「どうして!!?早くしないと、綾波が・・・・・・・」

「行ったら、絶対殺されるわ。加持先生が敵わない相手に、勝てるわけないでしょ!!!!」

「でも、行かなきゃいけないじゃないか!!!!」

「駄目よ!!!絶対に行かせない!!!!」

「アスカ!!!!!僕は、綾波を助けたいんだ!!!!」

「・・・・・・・・やっぱり、レイの方が大事なのよね」



静かに呟いた



「・・・・・・・・・どうせ、あたしといる時でも、レイと比べてたんでしょ?」

「何を・・・・・・・こんな時に何言ってるんだよ!!?」

「ホントは、レイの方が好きなんでしょ!!!?あたしみたいな嫌な女より!!!!」

「アスカ・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・アスカなんて、気を遣って呼ばないでよ・・・・・・・・気持ち悪い」





次の瞬間

シンジは、アスカの頬を力一杯張り飛ばした

アスカの身体が、崩れ落ちそうになる

それでも、シンジは支えなかった

倒れたアスカを見下ろし、涙声で言う



「・・・・・・・・・最低だよ。“惣流”」

「!!!!」

「行こう!!トウジ!!ケンスケ!!!」

「お、おぅ」

「わかった!!」



三人は、駆けだしてゆく

アスカは、倒れたまま呟いた










「最低・・・・・・か」










<迷宮昇降口>



「なんじゃ、こりゃぁ!!?」



トウジがぼやくのも無理はない

そこは既に使徒の群で溢れかえっていた



「ふん!!!!」



そこでは、数人の生徒と、最前線でゲンドウが大立ち回りを見せている



「鬼哭流・血散斬(けっさざん)!!!」

「す、すげぇ」



ゲンドウの振るう刀によって、使徒の首が幾つも宙に舞う

シンジの方を見て、ゲンドウは言った



「シンジ!!手伝え!!」

「父さん!!、綾波が、綾波がさらわれたんだ!!!!」

「何だと!!?」

「地下迷宮に逃げ込んだはずだから、追いかける!!!
この二人を置いて行くから、見逃して!!!」

「良いだろう」

「お、おい、待てよ!!!」

「何でそうなるんや!!!!」

「ごめん、今度何か奢るから!!!」

「シンジよ!!!」



振り返ったシンジに、ゲンドウは一振りの刀を投げた

群青色の鞘に収められた、刀

銘が打たれている



“御霊鎮”(みたましずめ)



「持って行け!!」

「ありがと!!!父さん!!」



シンジは、迷宮に消えた

ゲンドウは不敵な笑みを見せて、トウジとケンスケに言う



「さぁ、頑張れよ。敵はまだまだいるからな」

「どっひ〜!!!!」

「鬼哭流・虚空斬破!!!!」



衝撃波が使徒を薙ぎ払った

その衝撃波を駆け抜けて、迷宮昇降口に向かう人影が一つ・・・・・・・



「・・・・・・・・・・」

「惣流!!助かった、手伝ってくれ!!!」

「頑張って」

「えっ?」

「おら!!惣流!!!て、手伝ってくれへんのか!!?」



アスカは、一目散にシンジの後を追う

ジオフロント立ネルフ学園の、一番長い一日が始まろうとしていた










<発令所>



そこでは、ミサトが指揮を執っていた



「状況は!!?」

「結界が完全に消えています!!原因不明!!」

「・・・・・・・夏の合宿と同じ手か・・・・・・・・」

「迷宮昇降口より、使徒の侵攻を確認しました!!!」

「何番から!!?」

「ぜ、全部です!!!このままでは!!!」

「最優先警報!!抗戦可能な人員は総員戦闘準備!!
エンジェル・ハイロゥ、ブリュン・ヒルドは緊急出撃!!
小等部生徒及び非戦闘員は総員第三新東京市より退避!!!
第三新東京市にいる市民も全員市外へ避難させて!!!」

「了解!!」

「発令所の管理は全てMAGIに移行!!
ジャミングに備えて通信系は全てカット!!
私も出るわ!!戦える者は続きなさい!!!戦えない者は避難!!いいわね!!!」



アーマージャケットを翻して、ミサトは戦線に向かった










<校庭>



「くっそ!!!何なんだよ!?こいつら!!!」

「倒しても倒しても・・・・・・切りがないわ!!!」

「あ、危ない!!」



ムサシの背中に鉤爪を振り下ろそうとしていた使徒に向かって、ケイタはクォレルを放つ

コアを貫通して、使徒は倒れた



「サンキュー、ケイタ!!」

「でも、どうなってるのよ!!」



ポジトロンスナイパーライフルを連射しながら、マナは叫んでいる

校庭に出てきた使徒は、まだまだいる

夏の合宿の時に出てきたときの比ではない



「まるで、迷宮内の使徒が全部出てきたみたいじゃないか!!」

「もしかしたら、その通りなのかもね!!」

「「スペルコード:エントリー!!タイプ:ユニゾン・シング!!
シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
デッドショット・ラピッドファイア:ドライブ!!!」」



遠くから聞こえてくる、ミサトとリツコの詠唱合わせ

凄まじい大爆発が起こり、校舎の窓が割れる

それでも、使徒はまるで押し寄せる波のように際限なく現れる

校舎の屋上で、冬月が杖を構えている

拡声器を片手に



「総員、撤退せよ!!!!」

「り、理事長!!!?」

「巻き添えを食ってもしらんぞ!!!」

「に、逃げろー!!!!」×無数



冬月は、眼下の使徒の群を見下ろして、禁呪の詠唱を始めた



「古の盟約に従い、我、命ずる。
天空に住まいし幾千の神々よ。
大地の扉に我はあり、天空の扉に汝あり。
汝の怒りは槍となり、数多の敵を討つだろう。
地の底に住まいし者共よ、思い知るがいい・・・・・・・神の雷を!」



第三新東京市の直上に、暗雲が立ちこめる

無数の落雷

ジオフロントの天井に大穴が空いた



「カタストロフ・サンダーッ!!!!!」











<迷宮昇降口>



「あら、冬月先生ね」

「ふっ、年甲斐もなく、派手な真似を・・・・・・」

「私達も、負けてられませんね」

「やるか?」

「はい。共鳴で。閃空怒濤から八手で詰み。いきます」

「了解だ」



頷き合うゲンドウをユイ

ゲンドウは長大な刀“屠竜”を握り直す

ユイは、両手に構えた“月下美人”と“桜吹雪”で身構えた

二人が、詠唱を始める



「「スペルコード:エントリー!!タイプ:レゾナンス・ステップ!!
エッジプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:19!!!!
閃空怒濤:ドライブ!!!」」



二人の身体を、ATフィールドが包み込む

重力の鎖から解き放たれた二人は、凄まじい速度で動いた

レゾナンス・ステップの神髄はこれからなのだ



「「飛燕一閃・杜若!!!」」



ギ、キン!!



澄んだ音がして、使徒の首が飛ぶ



「「幻翔舞・牡丹!!」」



二人の身体がふわりと跳ねる

ゆったりとした動きに似合わず、剣の速度は凄まじい



「「朱雀閃・茜!!!」」



紅い太刀筋から、炎の鳥、朱雀が飛び出してゆく

使徒の群を焼き尽くしていった



「「白虎襲・白蓮!!!」」



白い太刀筋から、稲妻を纏った白虎が現れる

その爪と牙が使徒を屠る



「「青龍牙・竜胆!!!」」



青い太刀筋から、サファイアのように輝く鱗を持った青龍が現れた

顎を開くと、激流が迸る

その水圧は、使徒を押し流すのではなく、叩き潰していた



「「玄武斬・黒百合!!!」」



黒き太刀筋から、強固な甲羅を背負った大地の守護神、玄武が現れた

一声吼えると、たちまち異常な重力が使徒の群にのしかかった



「「麒麟撃・桜花!!!」」



金色の太刀筋から、麒麟が飛び出す

額の角から、浄化の光が溢れ出した

使徒が崩れ去ってゆく



「「夢想斬命・百花、繚乱っ!!!!!!」」



共鳴(レゾナンス)。閃空怒濤から八手で詰み

恐らく、地球上で最大級に高度な「詠唱合わせ」だろう

この技の前に、立っていられる敵は・・・・・・・・・・・・少ない










<発令所>



(こちらエンジェル・ハイロゥ!!エレベーターが動かない!!)

「こちら発令所!!こちらではどうにもできません!!」



半泣きでマヤが叫ぶ

その時、マコトが青ざめた顔で叫んだ



「ジ、ジオフロント内の各所に使徒の発生を確認!!羽化拠点が点在していた模様!!!
敵性目標、00001から17658までを確認!!他、UNKNOWN多数!!」

(こ、こちらエンジェル・ハイロゥ!!それは本当か!!?)

「間違いない!!」

(了解!!これよりブリュン・ヒルドと協力して掃討に向かう!!!学校は頼む!!!)

「発令所、了解!!頑張ってくれ!!」










<ヘヴン:第38階層>



少し、時間を遡る

シンジが迷宮昇降口に駆け込んだときは、まだエレベーターは動いていた

このエレベーターが止まっていたら、レイ救出は絶望的になっていただろう

最下層は第40階層

あと、2階層だ



「たああぁぁぁっ!!!!!」



シンジの振るう九頭竜が、使徒の命を確実に奪い取ってゆく

御霊鎮はまだ、腰に吊したままだ

刀を振るう

敵を屠る

それの繰り返し

もしかしたら、無限に続くのではないか

もしかしたら、最下層には行けないのではないか

もしかしたら、レイを助けることはできないのではないか



「違うっ!!そんなことない!!!!」



己の心に浮かんだ考えを否定し、シンジは一歩一歩、進む

すると、目の前に変な使徒が現れた

丸い球体で、白黒の模様がある

シンジは、躊躇わず斬りかかった

それが、レリエルと言う名を持つ使徒であると言うことを知らなかったから

外敵に接触されると、ディラックの海と呼ばれる虚数空間に敵を閉じこめるという能力を持つ



シンジは引っかかった



「うわぁっ!!!な、何だよこれ!!!?」



足が、影に埋まってゆく

必死で刀をレリエルに振るうが、届かない



「く、くそぉっ!!!」



シンジは、虚数空間に飲み込まれてしまった

何もない空間で、シンジは床に拳を叩きつけようとして



「わぁっ!!」



何もないんだから、床もなかった

拳は空しく空振り

重力も全くないのか、落下感はない

しかし、地に足が着かないと全く落ち着かない

シンジは、授業で習った事を思い出した



「さっきの、レリエルだったのか!!」



今、わかったようだ

授業の時、教えてもらったレリエルの弱点は・・・・・・・・



「・・・・・・虚数空間に閉じこめている存在があるときは、レリエルの実体を斬ることができる」



絶望的だ

シンジはそう思った

一人で来てしまったからだ

このままでは、餓死か衰弱死か・・・・・・・・・

そう考えていると、虚数空間が揺らいだ



「!?出られるのか?」



虚数空間に亀裂が入っていき、視界が徐々に暗くなってゆく









蘇った視界に、真っ先に入ったのはアスカの姿だった



「・・・・・・シンジ」

「惣流・・・・・・・・・助けてくれたんだ。ありがとう」

「さっきは、ごめん・・・・・・・・あたし、酷い事言ってたんだね」



俯いたまま、アスカは呟く



「・・・・・・・・・・・・・・自分でレイを見捨てようとするなんて、
そんなこと、どうしてそんな馬鹿なこと・・・・・・・・考えたんだろう・・・・・・」

「・・・・・・・・僕を、止めに来たの?惣流」

「違う。
あたしも、一緒に行くわ」



その顔に、落ち込みはない



「でも、危険だよ?生きて帰れるかどうかはわからない」

「承知の上よ。
あたしは、剣を振るう自分が嫌いだった。でも、剣を振るう意味を、思い出した。
大切な人がいて、大切な人のために、あたしは剣を使う。
それに、レイはあたしにとっても、大切な友達だから」

「・・・・・・・・惣流」

「だから、もう逃げたりしない。だから、一緒に行かせて!!」



そう言って、アスカはシンジに頭を下げた

シンジは、静かにアスカの肩を叩いて声を掛ける



「・・・・・・・・・ありがとう。“アスカ”」

「!・・・・・今、アスカって・・・・・・」

「最下層へ急ごう!!綾波を助ける!!」

「OK!!!」



二人は走り出した

目の前の敵を斬り伏せながら

その程度の障害など、実力で排除する二人にとっては、風の前の塵に等しい存在であった











<最下層>



「はぁはぁ・・・・・・・いよいよ、って感じだね」



二人は、重厚な扉の前に立っていた

やたら頑丈な扉は、頑丈な鎖で封印してあったらしい

今は、断ち切られている

鋭利な刃物で切られた跡がある

そして、扉の隣にはコンソールがあった



パスワードが必要だった

表示されている言葉は



GOD’S IN HIS HEAVEN



そして、「LOCK」の表示



「・・・・・・・アスカ、覚悟は良い?」

「上等よ」

「じゃあ、開けるよ」



シンジは、迷わずその言葉を入力する

これで間違いないはずだった



ALL’S RIGHT WITH THE WORLD



それは、ネルフ学園の校章に入っている一文



ピー



その音と共に、「LOCK」が「UNLOCK」に変わる

ゆっくりと、扉が開いた



「・・・・・・何?ここ」



アスカが、呆然と呟く

そこは、天井までは数十mは有ろうかという巨大な広間だった

その呟きに答えず、シンジは扉の向こうに足を踏み入れた










そこにいたのは、黒いコートの男

祭壇のような所に寝かされているレイ



そして、闇の中に浮かび上がる、仮面をかぶり、十字架に張り付けられた白い巨体

セカンドインパクトの元凶となった最初にして最強の使徒、封印されしアダム



黒いコートの男が、振り返った










「やぁ、待っていたよ。シンジ君」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・カヲルさん」





つづく





後書き

最終決戦、勃発
恐らく、3部くらいに別れるでしょう

さぁ、最下層でいよいよ対面したシンジとカヲル!
戦いの果てに勝利を掴む者は・・・・・・・・・・・?

乞うご期待!