「やぁ、待っていたよ。シンジ君」
「・・・・・・・・・・・・・・・・カヲルさん」
「その後、調子はどうだい?卒業は何とかなりそうかな?」
手に持っている紅いねじれた槍。ロンギヌスの槍を弄びながらカヲルは言った
その口調は、まるで世間話の口調だった
顔には笑みさえ浮かべている
場所さえ違えば、全く違和感はなかったであろう
しかし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「カヲルさん、なんですか?こんな事をしたのは・・・・・・・・・」
「そうだよ」
至極当然、と言わんばかりの返事
シンジは、ほとんど涙声で、絶叫に近い声で言う
「どうしてこんな事をするんですか!!!!!!?」
カヲルは、静かだった
表情が、変わる
微笑みは、寂しそうな笑顔にしか見えなくなった
「いつか、言っただろう。僕には妹がいると」
「・・・・・・・・・・」
「妹を、サヲリを生き返らせるためさ。
その為に、アダムを目覚めさせる事ができる存在。
つまり彼女、『知恵の実』が必要だからね」
「・・・・・・そんな・・・・・」
「シンジ君。僕はサヲリのためならどんなことだってできる覚悟がある。
その為に、何かを犠牲にしても、自分が危険な目に遭うとしても、僕は躊躇わない。
例え、世界が滅ぶことになるとしても、サヲリが生き返るのならば構わない」
緋色の瞳が、シンジを射抜く
「アダム、セカンドインパクトの元凶にして最初の使徒。
覚醒すれば、サードインパクトが起こって世界は滅ぶかもしれない」
「・・・・・・・・・・」
「それでも、構わない。
サヲリのためなら、僕は悪魔だって利用してみせるさ」
カヲルは、ロンギヌスの槍を祭壇に置くと、刀の柄に手を掛けた
そして、ゆっくりと口を開く
「シンジ君。例え君だとしても、邪魔するつもりなら死んでもらう」
君に吹く風
2月28日:大切な人・中編
<迷宮昇降口>
「何とか、一段落と言うところか」
「そうですね」
ゲンドウが、刀にべっとりと付いた血を振り払って、呟く
ユイもそれに同調した
他の人間は、疲れ切って立つこともできないでいる
死者が出ていないのは奇跡かもしれない
「・・・・・・・・まぁ、小休止、だな」
「はい」
ゲンドウはその場にどっかりと腰を下ろす
ユイもその隣にちょこんと座った
「・・・・・・・シンジが戦っている相手はアダムなのだろうか・・・・・・・」
「それとも、別の何かという可能性も?」
「無いとはいえん。万一に備えて、『御霊鎮』を預けた」
「・・・・・・・・・・・対を持つ者が、敵なのかもしれません」
「『荒御霊』、か」
「元を正せば、『荒御霊』と『御霊鎮』がバラバラになったのはあなたのせいなんですよ!」
「・・・・・・・・・・うむ、済まない」
「まったく・・・・・・」
溜息をつくユイ
ゲンドウの懐で携帯電話が鳴った
「私だ」
(こちら、発令所!)
<発令所>
「セントラルドグマより大規模羽化反応を確認しました!!
およそ20分後に地上に到達します!!!」
(こちら学園長、了解だ。
校庭の戦力と合流し、掃討する。エンジェル・ハイロゥとブリュン・ヒルドの状況は?)
「現在、ジオフロント内の使徒を掃討中です」
(了解。援護は不要と伝えておいてくれ)
「了解。健闘を祈ります」
(それと、全員に召集を。場所は校庭に)
「了解」
マコトは、通信を切った
そして、隣の席に座っているはずのシゲルに声を掛ける
「おい、シゲル。俺達も・・・・・・・・」
「ん、呼んだか?」
「・・・・・・・・・・お前、いつの間に着替えたんだ?」
シゲルの姿は、職員用の制服ではない
くたびれたGパンに、鋲付きの革ジャン
額に巻かれているのは真っ赤なバンダナ
傍らに置いているギターケースに入っているのは、ギターではなく彼の武器
「戦闘準備、完了。ってな。どうだい?マヤちゃん」
「!!!!こ、こんな時に何巫山戯てるんですか!!!!」
「ふ、巫山戯てるわけじゃないぜ!!!俺なりの戦闘準備だよ!!」
言い争う二人の声を聞きながら、マコトは溜息をついた
放送機器のスイッチを入れマイクに向かって喋った
「こちら発令所。こちら発令所。
校内における全生徒、教員は校庭に集まってください。
繰り返します。校内における全生徒、教員は校庭に集まってください」
<校庭>
「ぜぇ、はぁ・・・・・・おい、何が始まるんだろうな?」
「・・・・・くっ、はぁ・・・・知らないわよ。私に聞かないで!」
息を切らしているムサシ
既に装具も身体も傷だらけだ
マナも、傷口が痛むらしい
顔をしかめている
「ケイタ・・・・お前、大丈夫か?」
「・・・・・・はぁはぁ・・・・・何とか」
「山、岸さんは?」
「・・・・はい・・・・・・・大丈夫です」
へたり込んだままのケイタとマユミ
そうしていると、迷宮昇降口からぞろぞろ生徒達が現れた
「おぅ、ムサシ!」
「トウジ!まだ、生きてやがったか!」
「へっへー、舐めるんやないで!!」
「馬鹿な事言ってないで、召集掛かってるでしょ!」
「せやったな」
「立てるか?みんな」
「ん、大丈夫よ」
「僕も」
「私も」
「んじゃ、行こうぜ」
朝礼台に、ゲンドウが立っている
ぼろぼろの生徒達は、辛うじて立っているという様子だ
何とか整列している
「諸君!!」
ゲンドウの第一声
その言葉に、生徒教員は身が締まるような思いがした
「今、セントラルドグマにて大規模羽化反応を確認した。
あと、15分ほどで地上に出てくるだろう!」
悲鳴のような声が至るところから聞こえてきた
しかし、ゲンドウは吼えるように言う
「ネルフは、日本政府、及び国連に空爆を要請した!!」
「何だって!!!!?」
「万が一、我らが敗れるときは第三新東京市、ならびにジオフロント!
そして、我らがジオフロント立ネルフ学園が消滅するときである!!!!!」
「そんな・・・・・・・・・」
「各自の判断で、己の命の使い方を決めよ!!
強制はしない、戦う意志がある者のみ、この場に残れ!!
2分後に詳細を伝達する、以上!!」
ゲンドウは朝礼台から降りた
誰一人、動かない
揺るがない
「あなた。きっと、誰も動きませんよ」
「・・・・・・・・・・」
「ここは、この学校は、あの子達の家ですもの」
「・・・・・・・・・・・・・」
「きっと、みんなそれをわかってるんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は、購買に帰っておきますから」
ユイが、静かにそう言った
そのまま、2分が経過した
誰も動かない
ゲンドウは、再び朝礼台に上がる
「・・・・・・・・諸君の勇気に、心より感謝する」
「気にすること無いぜ、学園長ー!!!!!」
誰かが列の中から叫んだ
きっと、ムサシだ
流石のゲンドウもこれには驚いた
「俺達は、ジオフロント立ネルフ学園冒険科の生徒だ!!!」
「使徒殲滅は、最優先任務!!!」
「そうだ、そうだ!!!」
「俺達の学園は、俺達で護るんだ!!!」
「おーっ!!!」
その檄は、次々と生徒達に伝播した
ぼろぼろのよろよろだが、決して挫けない意志の強さと、深い絆がそこにはある
「・・・・・・・・・では、部隊を分ける!
各担任教員の指示に従い、各部署に分かれよ!!
総員・・・・・・・」
第一種戦闘配置
そう、言おうとして、そんなことよりも先に言うべき言葉があることを思い出した
「・・・・・・・・・死ぬな。必ず生き残れ。
生きて帰ってこそ、我らの勝利と知れ!!
総員、第一種戦闘配置!!!!」
生徒達が沸いた
怒号に等しい雄叫びで己を鼓舞し、
拳を突き上げて決意を固める
そして、生徒の大半が校舎、購買に向かって走り出す
何はなくとも、武器が要る
<購買>
そこは、既に武器庫と化していた
倉庫から運び出された装具、銃火器、弾薬、あらゆる物が並んでいる
「あらあら、まぁまぁ。みんな張り切っちゃって」
「ユイさん!!!ライフルスラッグ有りませんか!!!?」
「そこの陳列棚よ」
「アーマーの類は何処ですかー!!!!?」
「倉庫の中よ。入ってすぐの所に出してあるわ」
「重火器お願いします!!!!」
「右手のボックスの中に入ってるわ。気に入ったのを持って行きなさい」
「ポジトロンライフルの燃料電池、持てるだけ持って!!!」
「おいおい、どれだけ持って行きゃ良いんだよ?」
「持てるだけよっ!!!」
「コアが消耗している生徒は新しい武器に換えるか、研究室に行きなさい!!
予備の武器が要る生徒はここから持っていけばいいわ!!
代金は、生きて帰った子だけ、ただにまけてあげるから安心しなさい!」
はっ、として、全員の動きが止まった
真っ直ぐ、ユイの瞳を見る
その瞳もまた、真っ直ぐ全員の瞳を映していた
「わかったら、配置に付きなさい!!時間はもう幾らもないわよ!!」
ユイの声に、生徒全員が
「了解!!!」×全員
応じた
<同時刻:最下層>
カヲルは、刀を抜いた
漆黒の刃がシンジに向けられる
それでも、シンジは動かない
「・・・・・・どうしたんだい?」
「・・・・・・・・・・・同じなんだ。カヲルさん」
「?」
シンジは、静かに御霊鎮を構える
そして、話し出した
「カヲルさんが、大切な人のために戦うって言うのと、同じなんだ。僕も」
「・・・・・・シンジ」
アスカが剣を持って駆け寄ろうとするのを、シンジは片手で合図した
大丈夫。下がってて
「カヲルさんが、妹さんの、サヲリさんのために戦うことと、同じなんだ。
僕にとっても、綾波は、大切な人だから。
だから、僕も世界が滅ぶとか、そんなことはどうでも良いんだ。
はっきり言って、そういうのはピンと来ないし」
無茶苦茶なことを言っていると思う
それでも、大切なことだ
「僕は、綾波を助ける。
そのために、カヲルさんと、戦うことになるとしても、僕は退かない!」
「・・・・・・・・そうか・・・・・・・・」
カヲルは、ふっと微笑みを浮かべた
「お互い、大切な人のため・・・・・・・・か」
彼の手の中で、漆黒の刀、『荒御霊』が震えている
カヲルも、刀を構えた
試合のように、対峙する
シンジの手の中にあるのは、『御霊鎮』
本来ならば一対の刀が、決闘という場面でようやく相見えた
「シンジ君。今、ここで君と戦うということに、何の恐怖も感じない。
いつか、こんな日が来るかもしれないと思っていたのに、何故だろうね・・・・・・・」
「・・・・・・・きっと、お互い、同じ気持ちだからでしょう。
僕は綾波のために」
「僕はサヲリのために」
顔を見合わせた
これから殺し合いを繰り広げるというのに、二人は笑った
「アスカは、下がってて。僕が決着を付けなきゃいけないことでもあるから」
「そんな!!!シンジ、まさか・・・・・」
「大丈夫だよ。差し違えようなんて考えていないから」
視線をカヲルに戻す
「もう、良いのかい?」
「はい」
「では、始めよう!」
カヲルの身体が疾風と化して、シンジに襲いかかった
シンジは素早く反応し、最初の一撃を受け止めると、負けじと斬撃を放つ
二人の戦いが始まった
<第1迷宮昇降口>
「おりゃああああああ!!!!!!」
「どぇりゃあああああああ!!!!!!」
ムサシとトウジの雄叫びだ
迫り来る使徒を薙ぎ払う
それも、ヒカリの援護があったからこそかもしれないが・・・・・・・・
「まずいわ!!!空に逃げる奴がいる!!!」
「逃がすかーっ!!!!」
ヒカリの言葉に、マナは素早く反応した
スコープを覗き込み、使徒がレティクルに重なったところで引き金を引く
数匹は叩き落とした
それでも、全部は無理だ
銃撃が届かなくなってしまう
「畜生!!」
「私が行きます!!!銃撃は中断してください!!!」
「や、山岸さん?でも、どうやって・・・・・・・・・・・」
「私には、夢魔がいますから」
マユミは、夢魔を呼び出すとその腕につかまった
黒い、蝙蝠のような翼が宙を打ち、夢魔の身体が舞い上がる
空中戦だ
(おらぁっ!!!)
「マジックプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:13!!
フレイム・バスター:ドライブ!!!!」
今では、夢魔と自分のコントロールを別々に行うことができるようになっていた
夢魔の腕に中で、マユミは魔法を使う
杖から迸る炎の柱が、使徒の群を飲み込んでいった
爪が敵を引き裂き、尾が叩き潰す
それでも、対応しきれない
鳥のような、蝙蝠のような使徒がマユミに噛みついた
「きゃあっ!!!」
(く、ごらあぁ!!!!)
マユミの腕に付いた傷と、同じ傷が夢魔の腕にも付いている
それを見てわかったのだろうか
使徒は、マユミだけを狙い始めた
流石の夢魔も防戦一方である
まるで、獲物に群がる禿鷹のように、容赦なく攻め立てる
「山岸さん!!!」
「マユミ!!!」
マユミは、こんな時でも夢魔について考えていた
いつか制御できるようになった頃、腕だけを具現化させたりする事に成功した
勿論、翼だけを具現化することもできたが、マユミ本人に直接戦闘力はない
しかし、“形を変えること”はできないだろうか?
本来夢魔は形を持たない存在だ
今の姿はマユミ自身のイメージに作られた姿
では、“そのイメージを変えてやれば、形は変わるのではないか?”
“今の形をやめれば、この状況を打破できるのではないか?”
決めた
マユミは夢魔を消す
当然、落ちてゆく
悲鳴が聞こえたが、焦ることはない
落下まで数秒ある
今、夢魔は黒い霧のようになっている
「来なさい」
マユミは静かに言った
夢魔の霧が、マユミを包み込んでゆく
かつてはその存在を恐れていた
しかし、これも自分自身だと思えば、平気で触れ合える
意識を集中した
「・・・・・・・・・・・や、山岸さん」
「おいおい・・・・・・夢魔って、こんな事もできるのか?」
「・・・・・・へ、変身した?」
マユミは、夢魔をその身に“纏っていた”
爪先から指の先まで覆う黒い装甲は、レザーのようなそれではなく、キチン質の甲羅のようだった
重さは感じない
背中には、まるで鎌のような形の翼がある
意識を集中して、動かしてみた
落下が止まる
眼鏡は落ちたが、使徒の姿ははっきりと視認できる
頭と顔の上半分を覆っているバイザーのような物が、視力を増幅させているのだろうか
しかし、ここまで来ればあれこれ考える時間はない
「いけっ!」
矢のように、空中を駆ける
突き出された腕に、使徒は反応しきれず叩き落とされている
地上でも、トウジ達は使徒を掃討していた
「コンボプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:12!!
連撃・烈火殺陣拳:ドライブ!!!!」
「スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:12!!
ダイナソア・チャージ:ドライブ!!!!!」
「ふ、二人とも、無茶しないで・・・・・・・・」
「オラァッ!!!」
「無駄ぁっ!!!」
ヒカリの声なんて聞こえちゃいない
ケンスケも、マナ、ケイタも、ディスポをこめて一撃を放つ
「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
ガンファイア・ギャリック:ドライブ!!」
「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
シャイニィ・ジャベリン:ドライブ!!」
エイミングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
ホライゾン・バーン:ドライブ!!」
大爆発が起こる
使徒の群と、最前線の生徒の数人が飲み込まれた
しかし、生徒達は平気な顔だ
「馬鹿なんだからっ・・・・・・!!!
この、大馬鹿!!!!」
ヒカリも杖を振り上げて、呪文の詠唱を始めた
<第2迷宮昇降口>
「聞くが良い。
我が綴るは破滅への序曲。
汝に捧ぐるは無慈悲なる終末。
その旋律は呪となりて、汝を永劫の闇へと導くであろう。
死出の旅路へ赴くが良い・・・・・・・・・招かれざる者達よ!!」
使徒が溢れ出す迷宮昇降口に向かって、冬月は禁呪を使う
漆黒の、闇の塊としか言いようの無い物が飛び出した
「イービル・レクイエム!!!」
闇の塊が、溢れ出す数百の使徒を飲み込んでゆく
これが、禁忌の力なのだ
冬月は油断無く身構えると、再び杖を構える
粉塵の中から、使徒が出てきた
「私の前には出るな!!銃撃で時間を稼げ!!!」
冬月の後ろに整列したガンナー達が一斉に銃弾を放つ
使徒の動きを止め、冬月の禁呪の有効範囲に釘付けにした
「今だ還らざる者よ。
安息の地を持たざる者よ。
汝の安息の地はここではない。
最後の扉を開け放ち、原初の姿へと還るが良い。
そして聞け!!大いなる福音を!!!」
禁呪が完成した
しかし、それを放つのと同時にラミエルが荷粒子砲を放った
禁呪に集中している冬月にできることは二つ
このまま禁呪を放つ
或いは、禁呪の集中を解除して防御する
冬月は、前者を選んだ
「エターナル・ゴスペル!!・・・・・・・・ぐああぁっ!!!!」
光の奔流が溢れ出すと同時に、冬月は右胸を貫かれた
<第3迷宮昇降口>
「マジックプログラム:ファンクション!フィールドレベル:17!!
インフェルノ・ディサイド:ドライブ!!!!」
リツコが放った爆炎が、使徒の群を包み込む
ミサトはナイフと拳銃を片手に奮戦しているが、何分、数で負けているのが痛い
「ちっ!!くそっ!!!」
使徒の攻撃は絶え間ない
今は何とか持ちこたえているが、いつ戦線が崩れてもおかしくはない
「くっそ!!こんな時、加持が居たら・・・・・・・」
「泣き言を言っちゃ、お終いだな。葛城」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!
凄まじい銃撃だった
振り返ると、そこにはヘビーマシンガンを抱え、足下にはロケットランチャーを置いている加持の姿
着崩したシャツから、紅く染まった包帯が覗いている
射撃の反動で、傷口が開いたのだろうか?
ヘビーマシンガンの反動は、それほど凄まじいのだ
「馬鹿!!!怪我人はおとなしくしてなさい!!!」
「おいおい、それがさっきまで泣き言言ってた奴のセリフかよ?」
「うっさい!!!」
加持はぼやきながら、ロケットランチャーを担ぎ上げた
照準を迷宮昇降口に合わせ、引き金を引く
バシュン!!!
発射の衝撃に、傷が無茶無茶痛んだ
「っ!!っくぅっ!!!!」
「無理してるんなら引っ込んでなさいよ!!!」
「そう言うわけにもいかないだろぉ・・・・・・・いったたた」
「はいはい。夫婦喧嘩は後でやってね」
「わかったわよ!!あたしが出るから援護して!!」
「俺も行こうか?」
「あんたは後衛!!頼むわよ!!!」
疾走するミサトを、銃弾と魔法が追い抜いてゆく
「だあああーっ!!!!!!」
<第4迷宮昇降口>
「二人だけでも、何とかなるな」
「はい」
第4迷宮昇降口に立っているのは、ゲンドウとユイ
二人だけだった
津波のように押し寄せる使徒を何の苦もなく切り払っている
「エッジプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:17!!
鬼哭流・屍山血河:ドライブ!!!」
ゲンドウが、屠竜を振るう
紅いATフィールドは圧倒的な破壊力を秘めた奔流となり、使徒の群を滅ぼしてゆく
「もぉ、張り切っちゃって」
「ふん」
「じゃ、私もやらせてもらおうかしら」
「ぎく」
ゲンドウは、慌ててその場を後退した
巻き添えを食っては敵わないからだ
ユイが詠唱を始める
「エッジプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:19!!
山紫水明:ドライブ!!!!
ユイの短刀、月下美人の一閃が、使徒を屠る
そして、桜吹雪に込められたATフィールドが・・・・・・・
「二連!!!!」
追い打ちを掛けた
迷宮昇降口そのものを破壊するほどの威力だった
「あらあら、終わっちゃったかしら?」
「いや、そうでもないらしい」
瓦礫を突き破って、まだまだ使徒の群は溢れ出す
ゲンドウは、刀を握り直した
「気を付けろよ。ユイ」
「わかってますよ」
<最下層>
「ぐあぁっ!!」
「シンジっ!!!」
吹き飛ばされたシンジは、壁に叩きつけられた
やはり、実力には差がある
武器の条件は同じだ
しかし、技術と経験の差は歴然としていた
「どうしたんだい?シンジ君」
「くっ、この程度で!!!」
シンジは御霊鎮を構えて突っ込む
脇から斬り上げるような斬撃を見舞うものの
「まだまだ、踏み込みが甘いね」
「一歩一歩の先を読まなければ、無駄な体力を使う」
「もっとしっかり狙わないければ」
「そんな膂力では、揺るがすこともできない」
「動きを読むんだ。そうしなければ勝てる戦いでも勝てなくなる」
「切っ先の速度が鈍いよ。もう疲れたのかい」
「どうしたんだい?その程度で僕に勝つつもりだったとは・・・・・・・笑わせてくれるね」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
カヲルは、余裕でシンジの斬撃を避け続ける
「君の気持ちはその程度か?
大切な人を護ろうとする想いは、その程度なのか!!?」
「っ!!!うああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
アスカは、二人の戦いをじっと見ていた
そして、気付いた
カヲルには、殺気がない
どういう考えなのか、本気でシンジを殺す気がないというのだろうか
シンジはまた吹き飛ばされた
口から血を吐き、意味を無くした装具を外してカヲルを睨み付ける
「おや?そろそろ時間のようだ」
「何!!?」
「アダムが覚醒の準備を完了したのさ。
あとは、彼女・・・・・・『知恵の実』を取り込めば、アダムは覚醒する」
「そんなこと、させるか!!」
「邪魔はさせない。サヲリのためにも」
アダムの仮面が剥がれ落ちる
そこには、空虚な人間の表情があった
祭壇に横たわっているレイを見ると、ニヤリと笑う
「レイ!!!」
「やめろぉぉぉっ!!!!!!!!!!」
その瞬間を、シンジは憶えていない
誰の目にも、捉えることができなかった
カヲルが展開したATフィールドを突き破って
シンジが振るった御霊鎮はカヲルの肩口から脇腹にかけて斬り裂いていた
つづく
後書き
次回で決着です
シンジとカヲルも、
アスカとレイも、
アダムとの決着も、次回でつけます