●.19


凛が焦るほど自分が優位に立てる、それなら落ち着かせて隙を与えるつもりなかった。確かに情報交換といっ
たが実質これは情報戦以外の何ものでもない。遠坂凛を不安にさせる事件を選んで話をつづけた。ここで邪魔
口を開かせては逆にやられる。
屋敷での一戦目に続いて情報戦とはいえ二戦目、またもや傷ついて血が足りない私と違い、遠坂凛は血に濡れ
たもう立派な魔術師になっていて、そのサーヴァントは私をずっと血に飢えた目で観察し続けていた。嫌悪感
がわく、あの養父にもそんな風に思った事はないのに。


「(深刻そうな顔しているな信じられなくても仕方ない。わたしが教会の役目継ぐと理解してもらえたか、冬木
のオーナー?いいか続けるぞ、反応見て私は判断するが・・・こちらにも聞かせて貰いたい事あるのだがな)」

「(まだ何かあるの?)」

「(まただ・・・弓道部に所属している美綴綾子という生徒だ)」

「(・・・え?綾子まで!?藤村先生に後輩の間桐桜、確かに私がエミヤの屋敷であなたと戦う前に学園でも戦
ったけど。まさかマスターだとでも言うの?弓道部の主将になる前からの知り合いよ、気が合ったからよく話
していたわ、そんなはずない。魔術師なはず)」

「違う、だが決まりか。消えたと家族から届出があった。
一昨日から帰ってないそうだ・・・藤村先生とほぼ同時刻だからキャスターと推測している)」

「(外来の魔術師が絡んでるとしたら絶望的な状況ね、言峰シオン?あなたは一般人を救うのでしょ美綴さんを
見つけたら私に連絡してくれかしら役割務めてくれるなら信用する。私は先に柳洞寺に直接確かめに行くわ!
教会の情報だから確かなんでしょうけど)」

「(冷静になれ言葉に心惑わされるな、凛。
信用などもってのほかだぞ教会の神父が参加しているだけでも許せることではないだろう)」

「(酷い言われようね・・・戦闘だけじゃなく助言も与えるくれるなんて英雄サマを使い魔にできるなんて、聖
杯戦争とは本当の奇跡で、遠坂さんは至れり尽せりのこんなサーヴァントを得れて幸運だこと)」

「(皮肉屋だけどね、信頼してるわ)」

「(ぁそ・・・まだ私を疑ってるのなら警察署にでも使い魔とばして確かめに行かせたら?綺礼の書斎にも盗聴
機を仕掛けているんだけど、本当アイツ中々尻尾出しやがらない悪魔だから苦労するわ。一番重要なことは・・
・このままじゃ聖杯は私が用意するしかないか)」

シオンの言う聖杯には興味引かれたが教会と冬木のオーナーの間の契約は守るはずだ。そしてエミヤの屋敷は
言峰シオンとエミヤキリツグの問題で私の介入は間違いで謝るべきだ、その借りは絶対に返す。
白いシスターは嘘はつかないと思われた。
それでもどこか信用できないように思えるのは裏切られっぱなしの聖杯戦争に参加してるからだろうか?

「(聖杯が気になっているなら私が代わりに一度行ってみましょうか、アインツベルンの動向も気になるでしょ?
エミヤと一緒に街に降りてきてるのよ、郊外の森じゃくて屋敷にね知ってたでしょうけど)」

「(・・・いいえ結構、確保するだけだから)」

「(確保だと。まさか横取りするつもりではあるまいな)」

「(アーチャー何か知ってるようだけど、開くことがそんなに簡単なことじゃないのはわかってるでしょ)」

苦虫を噛み潰したような顔で生意気な皮肉屋が黙る。何?アーチャーもシオンも知ってて私が知らない、ちょっ
とそれはどういうこと?シオンはこれ以上語ることはないと凛の視線無視してここで一息、暖かいコーヒーを口
にして凛にも勧めるが首振って拒否された。敵の送った塩は拒否する・・・毒かもしれないから。

「ほぅ知らなかった珍しいなあの教師に限って、急用でもあったのか。
柳洞寺にいるという女性に振り回されたのかな」

「あははは、愚痴なんて柳洞寺くんが珍しいから覚えてる。
でもほんと二時間連続で自習なんて珍しいよね。
藤村先生も遅刻じゃなかったんだって、言峰さんは・・・えっと」

「教会の仕事、急に入ったのよ」


由紀香が気を回してくれたのを理解して話を合わせたシオン。
ホッとさせる雰囲気が作られた、それを見て同席したのに黙りっぱなしは悪いと思い話しに加わる、出来うる
限り綺麗に微笑んで三枝と氷室を安心させ、自然に耳にした言峰シオンのプロフィールに話を移した。


「そうでしたねレクイエムはかなり有名ですよ、信心深くない私も知っているぐらいですから」

「ピアノ弾くのか。イメージ通りというか一度聞いてみたいな」

「いつだったかなクリスマスだと思うけど言峰さんの演奏聞いたことあるよ、神秘的だったよ」

「三枝の家は一般的な日本の家庭、その理想みたいなところあるからな。
七五三の写真やら初詣やら私や楓に見せてくれた。今度はこの二人にも見せてやるといい」

「うーん恥ずかしいよ鐘ちゃん」

「可愛がられてるわねー」

「・・・普通なのか?そうか。わたしは生憎わからないな孤児だし信徒だからか普通とは違っている」

なにか自慢げに氷室が三枝さんを誉めるとチャシャ猫凛が目を輝かせた。

「そういえば私もどちらかといえば和風ではないわね、寺社には生徒会長がいるし」

「天敵との認識か?」

「あら鋭い氷室さん、でもご心配なく私は嫌ってなかったですよ」

「え、でもシオンさんと会長は仲悪くないよね」

「ん?柳洞寺のことか?ああそうだな、時に挨拶交わすぐらいの間柄だがついさっきもそこで会ったが生真面目
に今日の素行を詳細に聞かれた。あれは器用ではないアプローチだが、嫌いではない」

「(いまなんて言ったの?)」

「何を、(これで話すほどのことか?学園の裏山で死にかけていたからな、とどめをしっかり刺さない酷い
サーヴァントもいたものだ。記憶は封印したが一応、ん?そう言えば柳洞寺に行くとか言っていたが何か
知っているのか?遠坂家は大聖杯までたどり着いていたのか、意外だ)」

「ふー…セット、スクェリ、ッ゛ガイストピェリ」


波打つ感情をひと息おおきく吐いて落ち着かせて、遠坂凛は唱えた。
びゅる、ざざーぁぁぁぁっっっ
突然放たれた波に半径百メートルほど人間から、ここに魔術師が居るという事実と意識が消し去られた。
次に指をシオンの頭に向けたが、シスターナイフは既に凛の首にあてられて冷たい。
諦めて両手をあげた降伏の意を示した。
しかし、アーチャーがシオンの腕に干将莫邪をあてて微動にもできないようにしていた。


「アーチャーありがと。私の話聞いてくれるわよね。悪い話じゃないし有利に聖杯戦争進めるためにあなたを
利用しようってわけじゃないから。葛木先生が死んだわ、柳洞寺くんも私がね」

「あらそう。失態を私に懺悔するには確かに今しかないわね聞いてあげるわ。それでも乱暴過ぎよオーナー!
この昏睡事件はキャスターのせいにしてあげてもいいけど、あなたが面倒起こすのはこれぐらいにして私の手を
わずらわせないでよ。こんな至近距離で対処できなかったら私まで対処遅れてしまうからね。
・・・。
それとお祈りをするから待っててるれるかしら、うっとおしいサーヴァントにも睨まないようにね」


自分が手にかけた相手の死は確認した。
なのに、生きているという。
祈り捧げてる教会の娘を吸血鬼と疑ったのは笑えない、死徒を闊歩させているのは彼女ではない。
日の下で成長もしてきた彼女が、聖杯戦争に向かうため神父に死徒にさせられ操られているなんて馬鹿な話だ。


「何よ私の棲家を盗った癖に、いい加減敵対やめないと首切り落とすわよ」

「わかった、アーチャー戦闘しないわ。控えて」

シオンが不機嫌にナイフをピタピタとあてて怒りを現してやると、ガント打ってやるぞと指でグリグリとシオン
の頭をつついて挑発し返す凛。見た目麗しい少女と異人風のシスターが最悪な空気をつくっていた。

「仲よくやりましょ」

「同意する」

でも二人とも動こうとはしない。自らは手を引かない。

「・・・それで?私は柳洞寺に行くけど、あなたは何処へ行って何をするか教えてくれるわよね?」

「アインツベルンに連絡とるつもり、今回の聖杯はどうやら前回温存された素材を持って来ているらしいから」

「どんなものか説明は意地でもしないつもりね。
いいわよ、勝ち残れば自動的に私のところに来るものでしょうから。ちゃんと働いてよ」

睨んで退席を促す、先に席を立っては教会に使われる者みたいで嫌だ。シオンを見つけて様子を窺っていたのを
知られているのも嫌だ。遠坂凛は小者ではない。かぶった猫は気高いのだ。
店から出て行ったのを確認して、念のため学友の二人に封印をかけておく・・・アーチャーにも周囲の人間たち
に異常ないか確認させて、シオンと何か縁あったという三枝は・・・特に可愛い寝顔だったのでムカついた。
・・・なんであんなのと知り合いなのか。
自分の飼っている猫を、心の部屋に外に追い出してアーチャーに愚痴り諌められていた。














道路に出ると車が事故を起こしていた、あの女は根本的に何か見落とすらしい。
こんな街道に面した場所で意識を刈り取るとは・・・根回しは大変そうだった。

「ん・・・!?」

歩いてしばらくは死者はいない様子で大事にはなっていなかった、ホッとする。この隙間、心の隙間に倒れてい
る人間たちの中からシオンの背後に入った黒い影。身体を硬直させる。明確な敵意、殺意でないだけましな程度
を背中に突きつけられた。

「…」

動けない私。
対して後ろのそれが動く、話すか、攻撃されるか・・・。








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