「ん・・・ここは?」
起き上がると、自分の居としていた月ドッグにユーチャリスが入っていた事に気がつく。
あの戦いの後・・・
気を失ってしまった自分の応急手当てをして、敵の襲撃を受けるも自力で退けたラピス。
その事をオモイカネが報告してくれた、初代の性格も多分に受け継いでいるらしく、もう一人の瑠璃。
ラピスの活躍が嬉しいらしい。
「それでラピスは今何処に居る?・・イネスは来ているのか?」
『イネスは居ないよ、火星で遺跡に付きっ切り。
今日はエリナが来ていたから・・・うん、ラピスはエリナと一緒に部屋に居るよ』
俺の体の事を、自分の体の事以上に心配してくれた彼女は今ごろユリカの我侭に頭を痛めているだろう。
微笑ましくて良いことだ。
直る見込みの無い事を悟って、死に急ぐような患者の主治医より、精神健全なユリカは良い患者だ。
「そうよ、・・あ、アキト君」
「何をしている?」
「・・・ラピスとお話してたの、ね?」
「・・」
こくん
「そうか、で?今日はアカツキのお使いで来た訳じゃないだろう?」
「・・・うん」
ラピスと話していたエリナは、アキトの姿を認めると椅子から立ち上がり近づこうかと迷い。
いつものように、用件のみを聞かれるのを予想していたが、実際言われると何か思うことがあるのか言葉を濁した。
「ん?ラピス何だ?」
「アキト、痛い?」
「大丈夫だ、手当てありがとう」
「うん」
彼女・・・キンジョウエリナウォンはネルガルの会長秘書であり
ラピスと仲良くしている人物の一人であったが、同時にライバルでもあった。
宣戦布告など・・・ナデシコ色に染まっていないラピスはそれを口に出したことは無かったが
エリナの仕草に、同じ思いを持つ者だと知っていた。
「・・・」
「それで、次の仕事を知らせに来てくれたのか?
まだ今回の仕事が手間取っているんだろう、アカツキもあれで忙しい奴だからな」
アキトとラピスの会話を聞くために、今ここに来たようなものだと内心思う。
私はアキト君に感謝されたいわけじゃない。
私がいつでも側居られない代わりにラピスが居てくれて、大切にされている事を見ていたいのだ。
こんな少女に自分を投影して、幸せを感じている。
そんな自分を嘲笑う性格はもう無かった、アキトに恋をしてからは。
「ええ、そうね・・・ナデシコが新しい任務についたから。
ネルガル本社はそれで猫の手も借りたいほどの忙しさなの。私がここに来た理由は裏の話があるから」
「動きがあったのか?」
「クリムゾンと木連の繋がり、この一週間で切れているのよ。今までゼロという事はなかったのに」
「地球で何か起こす準備が整ったとは思えないが・・・」
「上層部の入れ替えで延命を図ったらしいけど、そこが何かをしているようなの。
注意してるんだけど表向きの情報しか手に入らないから、会長も本業と併せて多忙よ」
アカツキの能力を疑ったことは無い、雌伏の期間を終えたネルガルを引っ張っている。
木連の動きはいつも通り、新しく来た部隊や人物にチェック入れているが・・・。
時間的に合わない、何を行うにしても準備期間が必要なはず・・・どういうことだ?
「どちらにしろ、俺の仕事は変わらないがな」
会話は終わり。
彼は包帯巻かれた手を見つめていたがラピスに目を移すと、退室を促す。
ラピスとの無言の会話は、ナノマシンを使ったリンクによるもの。
「・・・」
「・・・」
二人きりになるが二人の間に言葉は無い。
どちらからとも話そうとはしない、一分は経ったと思われる時間ののちエリナがゆっくり歩み寄る。
内に秘める熱い思いをおもてに出せないまま・・・自分より背の高く大きいアキトの体を抱き寄せた。
目も合わせずキスも無い、勿論アキトから何もしたことは無い。
「・・・」
「・・・」
アキトがされるがままの、これ以上進まないあやふやな二人の関係。
これまでも、これからも・・・ずっとずっと。
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Princess of life 02
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ラピスが部屋に戻ったとき、そこにはエリナだけだった、アキトはブラックサレナの修理に立会いに行っているらしい。
今日の仕事はもう無い、エリナとお風呂に入って寝るだけ。
「エリナ?」
「・・・ん、ラピス?・・・あぁそういえばそうね」
ぼぉーっしていたらしい、アキトと二人きりの後はいつもこうだった。
ラピスの手を取って二人でバスルームに入り、体を洗わせて湯に浸からせ・・・
そして、ベッドへと寝かせる。
カチッ
「・・・おやすみなさいラピス」
「オヤスミエリナ」
私が月から離れる時間が近づいている、別れの挨拶をしようとブリッジに向かった。
まだアキトはハンガーにいるようだ。
この船のオモイカネに声をかけると暗闇にポッとウィンドゥが作られる。
「オモイカネ、どう?」
『はいラピスは良い方向に成長していますよ・・・それともアキトの事ですか?』
「・・・まぁね、でもラピスのことも報告して」
少し探るような質問の仕方。
相手がイネスだったら反発しているだろう、けれどナデシコそのものと言って良い存在に嘘はつきたくなかった。
あの頃、その一員でいて楽しかったのは本当なのだから。
『アキトはいつも通りです、戦闘中も戦闘後も。
今回戦った敵は今までに無い強さでしたが、ラピスの成長や
ナデシコCのデータ活用とユーチャリスの強化もあり、切り抜けました』
南雲という男の率いていた部隊は単艦で相手するには強すぎた、A級ジャンパーである
アキトの戦闘能力があって逃げることが可能だったわけで。
その報告を聞いてエリナの心配は積もっていくばかりだった、そして不安は的中。
突然、暗かったブリッジに大量のウィンドウが現れる。
『敵襲』『危険』『ボソン増大』『出現』『戦艦八隻、増加中』『ジャンプ』
「え?」
『エリナ、敵襲です!アキトに知らせます、ラピスを連れてきて!』
今さっき寝入ったばかりなのに!また戦い!?
悔しい思いを抱いてラピスの元へ走るエリナ。この連戦続き、この奇襲・・・早すぎる。
「わかったわ、奴らがここに来る理由・・・まさか!?」
『敵は包囲しつつ一定の距離を保っています、準備・・・アキト、サレナで出ました』
いくらなんでも奇妙だ。
ここを見つけた事、この素早さ、誰かの意図を考えざる終えない。
そして、狙いは・・・。
「伝えて、絶対に深追いしないで!って、奴らの狙いは・・狙いは」
アキト君なのよ!
敵の動きが計画的過ぎる、伝えて上手く立ち回れるだろうか?誰かの意図に乗せられてしまうのではないか?
「アキト君なの、絶対に無理しないでって伝えて!罠があるかもしれないって」
彼方が逝ってしまうなんて考えたくない。
「ラピス、ラピス起きてブリッジに行くわよ。敵が来たの!アキト君が出てるわ」
「敵!?わかった急いで」
ベッドからラピスを抱きかかえ走る、アカツキの秘書の仕事は体力がないと続かない。
息も切らせずに走り、ラピスをブリッジへ送り届けて急いでユーチャリスを降りる。
今、自分には他に出来ることがある。
このドッグにある駆逐艦や、基地全体に指示を出して迎撃体制を作ること。
ユーチャリスはワンマンオペレーション艦、ラピスさえ居れば良い。
自分はそこで役に立つことが出来ないから、後方支援を全力を行って敵と戦い、勝利を手にする。
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「ちっ、素早い」
整備終えたばかりのサレナを駆って戦闘に入ると、早速近くにいた戦艦を落とす。
ユーチャリスが出るまではサレナに攻撃が集中してくるが、今は凌ぎ切らないとドッグが危険だ。
移動した空間にはすぐに敵のグラビティブラストが通過する、逃げつつももう一つ戦艦を落としにかかった。
ゴゥ、ババッバッ
機動兵器が二機で迎撃してきたが、性能からしてステルンクーゲルなどブラックサレナの敵ではない。
ようやく孤立戦闘の終わりを告げる爆発が敵正面起こった、ユーチャリスが
基地の中から放つグラビティブラストが二隻を直撃したのだ。小破程度だがもう戦闘には参加できないだろう。
「ラピス、側面は任せる」
「了解」
包囲しようと動いている艦隊、ユーチャリスをナビゲート、ジャンプさせて側面をなぎ払わせる。
そして、旗艦に向かうアキト。
『アキト、気をつけて敵の目的はアキトだから』
「・・・」
『エリナが絶対に無理しないで、アキト!?返事して!』
「・・・」
かまわない、奴らがここに攻め込む手段に用いた時点で退路は立たれているのだ。
黒百合の根元を狙ってきた理由は数え切れないほどあるだろうが・・・お前達の手で殺される義理は無い。
まだ小回り利くステルンクーゲルや駆逐艦が邪魔をしてくるが、もうすぐ旗艦だ。よし堕ちろ。
『アキト、危険。機動兵器二十五機接近、逃げて』
「整ったか?」
『ようやく、だから』
「ユーチャリスの援護にまわろう」
旗艦のエンジンを打ち抜いたわけではないので、まだ落ちない。
だが時間が惜しい、ネルガルの隠しドッグを守るために他の駆逐艦を相手にしながらユーチャリスの援護にまわる。
月から後方支援が始まり戦力比で互角に持ち込んだが、思ったより頑強な戦線は崩れない・・・熾烈を極める戦闘。
残弾を考えていると駆逐艦の特攻を受けそうになる。
敵は何かを焦っている、互角に持ち込まれた事にか?
『ボソン増大、何かか出てきます。質量計測・・・次々と出てきます、データ照会します。
・・・南雲将校率いる艦隊です、追いつかれました』
新手はあの無視して逃げた精鋭艦隊。
サレナやユーチャリスはあの時と比べれば良い状態だが、ラピスのコンディションや戦闘域は不利。
その一翼が早速攻撃してきた。
積尸気か・・・ステルンクーゲルと違いEOSではなくIFSである分、パイロットの技量が良ければ強敵に成りえる。
前回の戦闘では手に余ったが、今回はどうだ?
「・・・フッ」
付いて来い、全部相手にしてやろう。
「援護はいらない」
「・・・わかった」
積尸気とはいえ一流のパイロットを乗せているのだ、ユーチャリス搭載のバッタでは足止めできないだろう。
それほどの精鋭を揃えて黒百合を散らしに来る奴、憶えておこう・・・南雲将校。
一機落としたら、敵の動きが良くなった。
仲間だったらしいな・・・甘い、怒りに任せて接近してきた奴を落として。
意識の中では後続を警戒しつつ、二十五機すべてを藻屑とかえる。
積尸気と共にいたリアトリスに接近し、爆発させジャンプ。
「ラピス、エリナ達と合流しろ」
「アキトは?」
「・・・」
「アキト?」
「ラピスと一緒に一翼となろう」
本当は南雲を叩きに行くべきだろう、だが戦況はジリジリと好転している。
あえて危険を冒してまで切り込む必要は無くなっていた。
「離脱した艦が戻って来てる・・?」
「何だ?」
「これは・・・?エンジンを暴走させてる?アキト!早く逃げて!」
相転移エンジンを暴走させ自爆させる・・・捨て身の技。
過去に月臣が採った方法だが、これは特別なジャンパー措置を受けた優人部隊だから使えたに過ぎない。
それにリアトリス級の戦艦一隻を満足に動かすには、多くの訓練された人間が必要なはずだ。
そしてその全員がジャンパーで無ければ・・・南雲が草壁の懐刀とは言え、それだけの人材は集めれるわけが無い。
死なば諸共・・・狙いは特攻か?
まずいな、一隻じゃない・・・次々と。
アキトはジャンプで後退しつつ敵艦を破壊して、影響の少ない宙域に誘導しようとしたが数が多すぎる。
「接近してくる船から逃げろ!こんな方法を採って、どういうつもりだ!?」
苦々しく吐き捨てる。
憎んでいた草壁中将さえ、自分の部下の命だけは守ったというのに。
巨大なミサイルと化した戦艦、軌道外れた幾つかが月にクレーターを作る。
「・・・くっ」
ユーチャリスの迎撃で爆発するものもあるが、そのまま突っ込んでくるものもある。
防ぐには、ディストーションフィールド無くしミサイルと化した戦艦を無理矢理ジャンプさせるしかなかった。
ある時期を火星で過ごさない限り、CCを使用してもボソンジャンプ可能なA級と呼べる体質にはならない。
生体でフィールド無しのジャンプは即、死を意味する。
誘拐しA級ジャンパーを礎とした火星の後継者にとって、それは皮肉な死に様だろう。
だが、戦艦ほどの質量のナビゲートはアキトの命をも削る、体力の消耗が激しい。
「はぁっ、くっ・・はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」
要請されたCCの放出作業を終えて、消滅していく艦隊を見てラピスはアキトの身を心配していた。
自分はジャンパー体質とはいえB級、連戦の疲れはあるが戦っている・・・でもアキトの『役に立てていない』・・・。
ラピスが小さな胸を痛めていた頃、もう一人同じように思い焦る人物が居た。
「あの攻撃を止めるすべは無いわ、密集してはダメよ・・早く」
「左翼側、一隻離脱を求めていますが」
「許可します、ユーチャリスを後方に移しつつ旗艦に攻撃を集中して!あれさえ落とせば楽になるわ」
「機動兵器射程に入りました、発射します」
「突っ込んできたリアトリスを二隻撃沈、包囲戦に移りますか?」
「ええお願い、出来るだけ早く」
旗艦の防御力だけは他と違っていた、ただの木連型戦艦ではないようだ。
構造物の数も通常の倍以上ある、相転移エンジンの強化をしてあるのかもしれない。
最前線にあれを持ってこられたら特攻だけで手一杯の戦線が瓦解する、近づかせないように実弾も投入するが・・・。
「変です、このコース・・スピード・・・・危険です!敵艦止まりません、来ます!」
「退避できるものは退避してっ!衝突だけは、キャァァー」
「うわわぁーーっ、何かに捕まって下さい」
「わ、わかってる・・現状報告して」
「突出して我が部隊内部に入り込まれました、攻撃をしていますが・・・被害軽微の模様」
同士討ちを避けるため、グラビティブラストの出力を下げ連射攻撃をしているが堪えていない様子。
決定打が無いまま数分・・・敵に次の手を打たれてしまう。
その木連型戦艦に搭載された相転移エンジンが異常な出力をみせると、旗艦のフィールドが弱まっていった。
「攻撃効き始めました・・・敵艦のフィールド減少、何だ?これは・・エネルギー反応上昇?」
「なんですって!?」
「如何してこんな値が・・・最初から、まずい、これが狙い!最大出力で離脱!」
「アキト君、聞いたでしょ!?早くユーチャリスに戻って!」
「まだ上がり続けています、爆発予測域から逃げ切れません!なんでこんな・・・」
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「こんな結末しか用意できないのか」
「仕方ありません、魔女に屈した友邦国と我が国の内部事情を考えれば」
「・・・」
「御武運を」
「ああ」
火星の後継者の服を着た学者風の男に見送られる南雲、変わりつつある戦況を見てブリッジを後にした。
会う全員に敬礼をされるが、固い決心を表すように表情は崩れなかった。
・・・決着をつけよう、火星で生まれた者よ、将の一人に過ぎない私の全てを賭けて。
閣下の決起を最初は歓迎した本国だったが、ナデシコのセンセーショナルな活躍に風向きは変わってしまった。
クリムゾンは約束した援助を放棄し、何か他の方法で攻め入るらしいが・・・
それよりも我々は内部の安定を図らねばならなかった、統合軍から吸収した勢力の士気低下と戦線離脱。
ボソンジャンプという技術を宇宙軍に奪取されて始まってしまった内部分裂、何が残った?
・・・こうして、木連から駆けつける間に勝負は決してしまった。
自分が居ても変化しなかっただろう結果を、今から変える方法はこれしなかった。
月を破壊して、連合の失態と宣言し新たなる秩序の礎を・・・いや言い訳だ、これは草壁中将の敵討ちだ。テンカワアキト!
ゲキガンガーに乗り込み、跳躍の準備をする。イメージ。
「出撃する、跳躍」
ジャンプアウトすると八名の直属の精鋭が準備を終えて出迎えた、この宙域にはもう奴は居ないようだ。
我らの命を賭けた攻撃に臆して、あの白い戦艦に戻ったか?
貴様は絶対に殺す、そうすればミスマルユリカを遺跡に再び融合させて自由に夢を操れるだろう。
「時が来ます、我らは」
「あの艦の近くに居よう、そこで奴の死を見届けなければ」
「・・・は」
遂に旗艦が溜め込んだエネルギーを放出し混沌が、現れた。
幾筋も黒い稲妻が空間を走って、後から爆発が襲い敵味方問わず破壊していく・・・。
「行こう、何人生き残った?」
「俺生きてます、大丈夫か?」
「・・生きて・・・・ですが・・・ぐっ・・・」
「・・・、っ・・」
「向こうも無事では居まい・・・しかし一人か、援護を頼む」
生き残った戦艦は少ない、フィールドの強度が強かったものだけが中破程度の被害を負って動いている。
目指すはユーチャリス。
フル出力でフィールドを破り突き進む、内部にテンカワアキトを探していると防衛のためだろうバッタが出てきた。
「ここは任せた」
「わかりました」
「何処に居る?聞こえているだろう、もう逃げ場は無いぞ!テンカワアキト!出て来い!」
破壊して進むとブリッジについた、誰も居ない、この艦も終わりだ。
マシンチャイルドと逃亡したのか?
「く、っ・・・油断した」
「貴様が南雲か、どういうつもり・・・ぅ、くっ・・ラピスすぐ済む」
「これで・・ようやく・・・。テンカワアキト、大人しく死んで貰おう!草壁閣下の仇、討たせてもらう!はぁっっ」
「ぐっ・・・うぅ、理想はどうした?俺ひとりのために犠牲を出しすぎだろう?」
「もう終わったことだぁっ」
「クリムゾンに切り捨てられたのか、裏切られたのか・・・無益な」
「黙れ。ふっ、傷負って尚ここまで動けるとは!だぁっ、はぁーっ」
突然壁を突き破って現れたブラックサレナに、艦外に弾き飛ばされたが
なんとか体勢を立て直し船体に降り立ち構えるゲキガンガー。
だが夜天光ほどの機動力持たないジンタイプは、高速で動くサレナに翻弄される。
勝負にならないと思われたが・・・攻撃停止するサレナ。
実はサレナにはラピスも同乗しているのだ、短時間で決着をつけなければならない、そのハンディキャップは大きい。
ギギギッ、ぶつかり合い、弾かれる、三度目の接触。
強烈なGにラピスの呼吸が速くなってきていた、アキトも度重なるジャンプに力が出ない。
「貴様を殺して正しき道に修正させて貰う!」
「次で決める」
何年も率いてきた艦隊が周りで爆発し、戦場を明るくする。
その光景を心に刻んで、テンカワアキト操るブラックサレナに挑む南雲。
閣下の理想を潰えさせないために。
圧倒的不利な立場に追い込まれた我々には統合軍相手に戦えない・・・これしか残されていない。
・・・帰るべき故郷に嫌われた俺は。
「望むところ・・・勝負!」
「・・・・・・っ・・ラ・ピス!」
何とか敵を撃破したものの、連戦を強いられたサレナには腕の良い整備士では見抜けなかった箇所が存在していた。
ウリバタケ、イネス共にミスマルユリカと遺跡システムのため不在だったのが運の尽き。
ディストーションフィールドが消え、鎧へのエネルギー供給が絶たれてしまった。
それはつまり、サレナでのジャンプはできなくなったことを意味する。
脚部、胸部、所々で過負荷が起きピリピリと機体に電流が走る。そして遂に内部エステの死をウィンドウが知らせた。
「・・・いよいよ駄目か・・・ラピス、よく聞くんだ。
イメージはラピスがしてくれ、生きて欲しいんだ・・・自分らしく」
「どうして?アキト。どうして?そんな酷いこと言うの。
アキトいない場所なんて嫌・・・できない。アキトがいないとできないよ・・・」
「・・・」
あの激しい戦いによって朦朧としているラピスラズリに、死につつある黒百合の現状を知らせる。
そして、別れを告げた。
A級ジャンパーでない彼女が無事に往けるだろうか?
しかし、もぅ、あと一回ナビゲートできるかどうか・・・ジャンプフィールドを発生させるアキト。
「・・・う・・頼む安定してくれ」
「アキト!アキト、やだっ。一緒に、お願いだからアキトー!ア」
ブゥン・・・
アキトの顔に光のすじ、しかしそれは儚げな光・・・命が尽きようとしている証のように見える。
それでもフィールドは安定してくれた、泣き顔のラピスが一瞬で消えた。
「・・・さよなら、ごめんなラピス」
最後まで、こんな俺につきあわせちゃ・・・って・・・・。
終末を機動兵器の中で迎えることは、彼にとって幸せなのだろうか?
暗闇に包まれたピット内部、不思議な燐光が満ち始めていたが誰もそれを知ることはできなかった。
そして数分後、あの攻撃を生き残ったエリナによって主の居ない黒百合が回収されたが
記録は決戦時で途切れており、二人の行方は知ることが出来なかった。
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ver 1.1