それが起こったのはまだ火星会戦の兆候も見られない頃の話、一人の研究者が所属する組織から
とある重要な遺伝子をライバルへと売り渡した事から始まった。
その遺伝子は強化され、何千回もの試験を通過し人道に反する実験の生贄となっていった・・・。
やがて、その実験は政府の知る所となり法律で禁止されるまでになったが、その遺伝子の有用性を
熟知していた企業は・・・密かに接触していた、存在さえ認められていなかった惑星国家に実験の継続を依頼した。
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今現在はその計画を完全に中止しているネルガルも、得られる成果の利用は諦めたわけではなかった。
同じく敵対する勢力も研究の遅れを取り戻すために様々な方法を採用して果実を得ようとしていた。
その中に生体次元跳躍実験がある。
実験の責任者となった男は、その惑星の知性の一、二を争う科学者。
次元跳躍門に付加機能を与えたり、木星圏に点在する先史時代の遺産解析をしていたが
今は友から送られてきた物に興味持ちプロジェクトを立ち上げて、私人としても全力を傾けていた。
プラントの利用によって、遺伝子操作技術は木星で人類が生きるために
必要な技術ではなかったが、戦争を始めた今は技術力向上のために盛んに、しかし密かに実験は行われ続けた。
地球圏ではチューリップと呼称される次元跳躍門。
通常の状態で内部にワームホールを開いたまま持つ、しかしそれを介すると人は死んでしまう。
それでは作戦に幅が持たす事ができないと一部の軍人は言っていたが、上層部は余裕の表情で戦争を始めた。
・・・根っから科学者だった男はそんなことはどうでも良かった、ただ・・・
実験の継続のため、無人兵器の量産コストを片手間に下げたり袖の下も・・・
優秀だか科学者に過ぎない男が何処から大金を得ているかというと、地球のお友達が彼の研究に代価を払っていたりする。
それに木連で生き残るすべは、未知のオーバーテクノロジーの利用しかない。
それを地で行っていた際、一人の人物に目をかけられた。
木連で最も重要な幹部の一人、草壁中将。
その援助で生まれた、木星のプラントから発見された未知のナノマシンを利用したマシンチャイルド。
次元跳躍門を自由に生きたまま越える第一号となるはずだった。
失敗に終わるはずだった。
いくら弄っても火星のナノマシンではありえないのだから。
跳躍の際、未知の不安定な介入がなければ木連の歴史にも残らないはずだった。
史実ではその研究は次世代に移る事もなく・・・木星の遺伝子操作研究は曲がりかど期へ
優人部隊誕生までは日の目を見ることは無かった。
当面の作戦は、ただ生産した無人兵器と次元跳躍門を地球に送り込むだけになる。
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こぽり・・・ゆらゆら・・・水中を空気の玉が昇って行く。
それは漏れた言葉のせい、試験管の中で生まれた命から漏れた想い詰まった言葉の。
「・・ぅ」
夢を見ていた、現実感が無い夢を。
目の代わりにナノマシンを使い、機械を通して見ているから、そう感じるのだろうか?
死に人となったはずの人物が生きて、機械仕掛けの目の前でいつか見た仕草で喋っていた。
だからこれは夢・・・それとも此処が地獄なのか?
白衣服を着た人間達に、五感奪われ脳へではないがナノマシンを入れられる。
我が身に起きた悲劇のリピート、ここで俺は『実験体_SX2_AB1』の役割をしていた。
「おやぁ〜?」
「如何しました博士?そろそろ時間ですよ、五分もないんですから」
「ああうんわかってる、それに気のせいだったよ。それにしても・・・・綺麗だね、良いものを送ってくれたものですねェ♪」
「この実験は木連じゃないとできない事です、取引ですよ博士」
「あれ、来てたんですか?」
「・・・ああ、これを一目見にな。地球の奴らは鉱物の名前をつけたらしい、だが我々は違う。
人に在らざるモノに名は必要無いのではないか?ヤマサキヨシオ博士」
「そのとおりです、『アクア』なんてどーして付けたんです?私達の聖典ではこんな無表情じゃなかったですよ」
「別に良いじゃありませんか。なんてったって、地球から送られて来た遺伝子で製造したんですよ。
敵対する勢力の生まれ・・・・ほら、グッと来ないですか?何か感じるものがあるでしょう?」
「・・・はぁ、私はちょっと」
「ところでヤマサキ、人の技にて生み出されし人形はコレ一体だけか?自分の為にスペアがあるだろう、ヤマサキ?」
「やだなぁ北辰さん、僕は北辰さんの同属じゃありませんよ」
「何を言う、戯れはその顔だけにしろ。俺とお前にどれだけの違いがある?」
ニヤリと笑って、SX2_AB1の入っているガラス管に手を当て中に居る白い肌と艶やかな髪を持つモノに、狂気宿る瞳を向ける。
相手は目を閉じている上、試験体。
それでも恐怖という感情は本能の一部、感じるはずなのだが・・・無反応。
北辰はすぐ死ぬ予定の人形に感情移入はしない癖の持ち主らしい。
「・・・フン、つまらん」
「予定では二つでしたがね、予算獲得名目を監査部に目つけられまして。何とか誤魔化しましたが」
「やはり相変わらずだな、程ほどにしておけ」
世渡り上手いマッドに呆れ、怯えを見せないモノに興味を失ったらしく、北辰は部屋を出て行った。
「さて、そろそろ本当に時間です。折角地球のお友達がくれたものですから
有効利用できれば良いですね、それに・・・ま、頑張ってください」
北辰の後を追うように扉に向かう、チラリと振り返り何か言おうとしたが結局何も言わず出る、
そしてその他の無人戦艦のチェックに向かう。
あらゆる場所で草壁の演説が放送されていた、会場にはうようよと多くの人間が集められ熱狂していた。正義に。
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西暦2195年10月1日、第一次火星会戦。
多数のチューリップが宇宙に散らばり一つの方角に向かって動いていた・・・その推力は不明。
チューリップを中核とした無人兵器群は、木連の先遣隊にすぎなかったが
火星に駐留する軍は士気や質、量において高くなく多くも無かった・・・惨敗する運命にあった。
火星は・・・火星は・・・今戦場となろうとしていた。
「敵の目的が侵略である事は明白である、奴を火星に下ろしてはならん!各艦射程に入ったら撃ちまくれ!」
「敵、尚も前進。有効射程到達まであと20秒」
「撃てぇーーっ!」
「我が方のビーム全て捻じ曲げられました!」
「むぅぅ・・・重力波か」
「敵、チューリップから多数の機動兵器射出」
「レーザー一斉発射!」
「効かない!?」
「チューリップ、衛星軌道に侵入!あと60秒で火星南極点に到達」
「総員退避!本艦をぶつける!」
軌道を変えられたチューリップは眼下に一つのコロニーを捉え、そのまま火星の重力に引かれ直撃。
円形に作られ中心に高いビル、外周縁部に水を湛えていたユートピアコロニーは壊滅した。
チューリップ以外にも予定外の物が火星に落ちていた、それはあの実験艦。
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戦争開始と共に墜落との報告を受けてがっかりともせず、次の計画に取り掛かろうとしたヤマサキ。
そこに予想しない訪問者が現れた。
周りの人間が慌てる中、訪問者に近づいてにこやかな笑みを浮かべて挨拶しようとする。
「失敗ですか・・・、あ・・・シンジョーさん。どうされたんです?ああ、あの件でいらっしゃった?」
「博士・・・残念だ。お前は我々を欺いた、罪は償ってもらおう」
「仕方ありませんね、期待に答えられなかったわけですから・・・。左遷先は何処ですか?エウロパ辺りですか?
ゲキガンガーさえ有れば、出会いが少なくなって残念なんて言わない人間ですから安心して下さい。
あ、それから今度の事は私自身で草壁閣下には直接報告しておきましたから。あとはタカハシ君によろしく」
「・・・抜け目ない男だ、またいつか役に立ってもらうぞ」
悪びれないヤマサキ、自身の能力は得がたいものだと知っているし幹部への趣向ある袖の下・・・根回しは完了済み。
草壁の暗部を進んで取り仕切るシンジョウにもそれは分かっているのか、茶番を打ち切った。
こうして、史実では火星攻略で藻屑と消えた、木連の生体ボソンジャンプ実験の最初の犠牲者の存在は抹消された。
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太陽の光が弱まって行く夕刻の空、既に何千もの星が確認できる。
時が経つにつれ星の光が増えて行く・・・。
数え切れない星々、そのひとつが流れ落ちて行く・・・火星の大地へと。
それは火星の大気によって燃え尽きる事無く、所々損傷を受けつつも本体中心部は無事なまま地面に墜落した。
『作動、開始、・・・』
・・・墜落から数分。
その物体の内部の機械、お世辞にも高性能に見えないソレが状況把握に勤しみ始めた。
使命を果たすために船の各所と周辺の状況を走査、簡単な正答を忠実に実行していく。
生き返り始めた他の機器、この船は実験と作戦の両面の性格を持っている。
「うっ・・ぅ・・くぅ・・」
『正常正常正常正常・・正常、異常・・停止』
パパパパッ、と緑の表示の後に赤が表示され、プスンとソレは停止してしまった。
そして、その隣に設置されていた液体が満たされたガラス管の中で少女は目を覚ます。
「なっ・・コレは」
眼前に在る、何百と言うコードが繋がれているバッタに驚く。
ちょうどその時、液体が抜かれガラス管が開放され始めたので息をつく暇も無く。
「かはっ・・はっ・・はっ、何故?ここは?」
走馬灯の代わりに悪夢を見ていたアキト、北辰、ヤマサキ・・・その続きはバッタとの対面から始まった。
動かないバッタに注意し、周りに人の気配がまったく無いことに安心して。
「これはどういうことだ?」
体が重い、何も身に付けていないというのに。
今の体に完全に馴染んでいないせいだろうか?
今の体なら五感が以前よりはあるはずなのに、足元もおぼつかない。
それとも・・・この体もまたヤマサキに弄くられているのだから、儚い希望という事か。
「・・・生きているだけマシか、ラピスとのリンクは生きてるな」
『・・停止、停止・・機動兵器、二機使用不可。計画・・ケイカ・・ク、ピーー・・。』
「ここから出ないと危ないか?・・確か」
微弱だがリンクの存在を感覚で掴むことが出来た、あとは・・・。
考えても今の状態を改善できるわけでなし、動いて身に纏う物を探すことにした。
「・・・、ない・・な」
ユーチャリスの爆発と共に、呪われた体の細胞一つまで消滅したはずだった。
あのとき、最後に願った事はラピスの行く末を見届けること・・・まさか叶うとは思わなかったが。
こんな状態になった原因はわからない。
それにまだラピスの安否も確認していない、急がなければならない。
ラピスの後を追ってこの時代に来たのだから、一刻も早くラピスを迎えに行かないと。
俺と違いラピスは無事にジャンプしたはず・・・リンクを辿ればいいはずだ。
まずはこの船の様子を知る必要があった。
「どうやらコレを動かさないといけないようだな」
繋がっているコードの量が半端ではない、たぶんコレが船の中枢。
壊れているバッタを蹴って動くまで弄る、大抵直る。
『ジギギ・・ギ、通信不能。本船は』
「違う・・・違う、生きてる兵器はないのか。移動方法は・・ん?」
『二機、一機・・投下・・・ピピピ、中央の直下です』
木連の兵器の扱いは慣れてない、バッタを二匹自爆させるなど失敗もあったがようやく目的へと。
「これか」
あの部屋から壁を伝ってやって来た。
情報にあった通りの大きさ、エステより一回り大きな機体。
だが視力が低下している今の状態では見ることも叶わない、乗り込み接続してようやく落ち着いた。
IFS普及していない地球と同じく一般人は遺伝子改造を好まない木星、それでも地下では研究盛んだったようだ。
現に今も、アキトの乗る機動兵器には試作段階とは言えIFSと類似した装備が形となっている。
視力を電子の目で補うと、船体に穴を開けて脱出を図った。
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リンクを感じながら兵器を移動させる、途中で地上の防衛部隊に遭遇したが
ディストーションフィールドで弾き、やむ得ない場合は潰して突破した。
相手は申し訳程度の装備しかない兵器なので、火力がそもそも足りていないのだ、防衛に徹していた。
避ければいいが、アキトには情報を得る手段が無かったし、今死ぬわけにはいかなかった。
何度かの戦闘を経てようやく、ラピスの存在を明確に感じた。
「近くにいる」
この兵器を降りればたちまちに無防備になってしまう、ラピスの安全を確保するまでは降りるわけには行かない。
のちに木星トカゲと命名される存在の、姿のままラピスの元へと飛ぶアキト。
そして、一つの研究所に辿り着く。
周囲に囲む様にチューリップが並び刺さる大地に・・・デジャビュを感じた。
間違いに無い、ここはオリンポス。
「ラピス、ラピス・・ラピスラピス!」
以前より会話がスムーズではないが、迎えに来たことを知らせるため、名前を呼ぶ。
きっと届いているはず。
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どうしてこんなことになったの?
わからない、でもここから出たい、逃げ出したい。
ここは・・・何処なの?そうだイネスならきっと助けてくれる、早く来て。
「・・・」
「ようやくデータが取れる、ブロックしていたのか?ふむ」
誘拐され連れて来られた部屋で、苦い思い出を繰り返されたラピス。
男は科学者だった、この研究所では干されていたが埋もれさせるには惜しい実力があった。
ネルガルで冷遇されるようになったのは、この数年のこと。
マシンチャイルドの製造計画の中心近くに居たこともあったが、現会長に目をつけられて火星に飛ばされてきた。
「完璧だ、素晴らしいサンプルが手に入った。これを地球に持ち帰れれば、私はトップになれる。
そうだ、シャトルを今すぐに手配しよう。いや・・この容姿は目立つ。専用機の確保は・・」
上手く奪い取れた、これで地球に帰ればイネスフレサンジュに味わされた屈辱は晴れる。
火星ともあの女ともオサラバだ、おっと俺も早くしないと危ないかな?
「・・」
「さぁ行くぞ、早くしろ・・な!?くそもう来たか?」
「アキト?」
液体が抜かれていく速度は変わらないのだが、イネスもそろそろ気が付いてもおかしくない頃。
突然、激震が研究所を襲った。
ロックしていなかったドアが開く、あいつがいた。ヤバイ。
「ブライフ!ラピスは何処!」
「く」
バシュ
「次は外さない、大人しくなさい」
「・・わかった、命は惜しいからな。ほら出ろ」
冷静に考えて懐にある銃を抜いても、自分は素人。同じ素人とはいえ構えているイネスに先んじることは無理。
その間にも破壊音は近づいている。
早く、早く、早く逃げ出さないと・・・緊張の糸が張り詰める中。
ガラス管の中から出たラピスが、何かに気が付いたように轟音する方向を見つめた。
「・・・アキトだ」
「ラピス!早く来て!ブライフ、今、妙な真似しない方がいいわよ。私結構緊張してるから」
ドゴォォッ
「ラピスこっちに来て、早く!」
「馬鹿が、死ね」
男の元離れイネスの方に行く途中、ついに兵器が部屋の中へと入ってきた。
それがラピスを見つけると手を伸ばそうとする、ラピスを守るためイネスは走り寄って・・・。
ラピスに気をとられた瞬間をブライフは見逃さなかった、銃弾放たれイネスの体に。
キンッ
「ディストーションフィールド!?」
「なんだ?なんだと!?この、このォ!」
「やはり持っていたのね、もっと研究したかったけれど・・」
何も無い場所でソレは弾き返された、この目で見るのは始めてだが間違いなくコレは空間歪曲場。
思ったより素早い兵器の動きに捕まってしまった、そしてゆっくりと指が迫ってくる。
死を間近に、思うことは未知の遺跡の技術の研究のこと。
ラピスを助けれなかった事・・・、え?
「アキト、迎えに来てくれた。うん・・・イネス。アキトだよ」
私達を守るように包む手、外では必死にブライフが銃を乱射している。
どうして?
ラピスがまるで誰かと会話をするように兵器に向かって話す、コレに人が乗っている?
「ひゃあ、ぁああ」
「っ!?見ちゃダメっ!」
ブライフが捕まって・・・ぅ、なんてこと。
嫌な音をラピスに聞かせないようにする、やはり敵は容赦ない。
どういうつもりで私を生かすのだろう、ラピスが目的のようだし・・・
私がラピスに抱きついているから、生かしてもらえるのかしら?そもそも敵は話の通じる相手?
ゴォォォ、ォォォ・・
飛行には適さない形状のボディだがスムーズに上昇していく兵器、何処へ移動するのかしら?母船?
私はラピスの命の事が心配だった、武器はある。
かなりの速度で移動していの兵器の手の中、ぐっと懐の武器を握り締めて。
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「ここは遺跡?人の手は入っていないようだけど・・・どういう事?今はそれどころじゃなかったわね。
それで?あなたは私をここに連れてきてどうしようとしているの?」
「アキト?」
「アキト?・・・あなたが?答えたらどうなの?喋れるんでしょう?」
裸のラピスに白衣を着せて、抱きしめて母が子を守るように誘拐犯に冷たい視線をぶつけるイネス。
相手が、さっき目の前で殺戮と破壊を行った兵器だろうと怯むつもりはないらしい。
「答えて、どうしてラピスを狙うの?」
「イネス・・・それは俺の生きている証だからだ」
「ようやく喋ったわね、どういうつもり?ラピスとあなたは一体どうして火星に来たの?私の名前を」
「降りよう、銃はそのままでいい。それともここは無防備を要求した方が納得して貰えるかな?」
合成音声が気に障るが、少なくとも顔を出さない奴よりはマシ。
少し迷ったが、ラピスと歩いて少し距離をとるとゆっくりと装甲が動いていく。
「いいわ」
「・・ありがとう」
何故かラピスに礼を言われた、アキトという人間はラピスの特別な人というのは本当らしい。
殺人はラピスにとってそれ程のことではない・・・のだろうか?
「ラピス待たせたな」
「あ、あなた・・マシンチャイルドだったの?ちょっと大丈夫!?・・ああ何て事・・・」
「アキト、ここにいるよ」
「ああ・・ラピス、無事のようだな」
どんなモノが出て来るのか注意していたが、これは予想外だった。
駆け寄って行くラピスの後を追ってアキトと呼ばれた少女の元へ、抱擁を始める二人を
見ていたが二人とも裸同然だったので、いそいそと服を脱いで与えた。
その時に気が付いたのだが、彼女の瞳は青いビー玉のようで物を見ることができないようだった。
どういうこと?この兵器は動いていた、この娘の操縦で。
操縦席と思われる中を覗くと見慣れないデザインであるものの、IFSと思われるものがあった。
「あなた・・・その体でコレをよく動かせたわね」
「ラピスと会うために使えるものを使っただけ、それとあなたの事はラピスから聞いている」
「・・アキト、あの男から私を救ってくれた。悪くない」
「アイツを殺したことについては色々言いたい事あるけど・・・ラピスと貴女は何処から来たの?
そして、どうして私の名前を知っているの?」
九年の時を経て、私と出会った二人の少女。
科学者として大切な直感が、これは運命だと言っているような気がした。
「・・・それにはまず、謎の宇宙人の正体から話そうか?」
「そう、貴女が鍵なのね?こんなことはしたくない。でも・・・私の質問から答えて欲しいわ、最初の質問。
こんなもの持つ私の前に、どうして無防備な姿を晒したの?それともまだ勝算があるの?」
武器を持っていることを示すイネス、見えていないだろうけど
それに・・・素顔を知ってしまったから、イネスに刺々しい敵意は無くなっていた。
「俺とラピスは一つ、貴女の思いは知っている」
「アキトと一つ」
「・・・そう、この兵器は?謎の宇宙人が貸してくれたの?」
「正しくは木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ、及び他衛星国家間反地球連合体の実験艦の搭載兵器だ」
「木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ、及び他衛星国家間反地球連合体?」
「さすがは博士」
口元をほころばせるアキトにイネスは少し安心し、茶目っ気をだして返答した。
「あら私を誰だと思っていたの?」
「いや流石だと感心した」
「それで?名前から察するにそちらは恨んでるようだけど、こっちは残念ながら知らないよね」
「人間の国家だ、歴史から消されているがな。それに俺は逃亡者でね・・・いや廃棄処分が正しいか」
「やめなさい、本当の事ばかりは辛すぎない?」
「いや、もう慣れた。戦争を知らないイネスにはこの先の事は分からないだろうが、この兵器を扱えば」
「戦争?その口ぶりからすると火星はどうなるの?」
「・・・全滅だ」
この星に住む数百万の人々の運命は軍隊にかかっている、そこまで残酷な結末をアキトは淡々と話した
早く行動しなければ、木連の小型無人兵器が数日で狩りを終えてしまう事も含めて。
「この兵器があれば、敵の目をごまかせる、役に立てると思う」
「最後にひとつ。もう一度聞くわ、どうして『私』を知っていたの?」
「・・・」
明確な理由は無い、けれどラピスと同じく『私』を『知っている』そんな気がしていた。
沈黙はその証だろうか?
木星から逃亡して来たと主張する彼女。
信じられないが・・・もし仮に木星に私の過去を知っている人が居るなら、会ってみたいと思う。
話の通じる相手なら。
え?・・・何?ラピスと視線を交わらせて・・・会話してる?
「・・さっき言ったとおりだ、ラピスは俺と二人で一つの存在だ」
「そう・・・。私は貴女を守ってあげる、信頼の置ける人間と連絡とる。
ズバリそうして欲しいんでしょう?だからもう貴女は戦わないで欲しいわ・・・」
「・・・できたらな」
ラピスの無事さえ確認できれば良かったが、あの男のした事に復讐鬼は黙っていられなかった。
何をした!?この娘は私の大切な宝物なんだ、傷つけて・・・報いを受けろ!
・・・その思いに囚われた昂揚感が胸を疼かせる。
だから、イネスの言葉に曖昧に答えた。
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Ver 1.1