ゴートホリー曰く赤い惑星にナデシコが降りようとしていた。
ナノマシンが作った大気に接触し、ディストーションフィールドで守られているとは言え熱くなる艦内。
自分の腕の見せ所、ミナトは嬉しそうに言葉弾ませて見事な操縦を行う。
「サウナになるわよ〜♪」
「でもナノマシンって体に入ってまずくないんですか?」
「大丈夫です、あっアキト〜♪」
「こらっ、艦長らしくちゃんと仕事しろー!?さっきの戦闘は上手くいったと思った俺が馬鹿だった。
ようやく火星に着いて、ユリカ!って褒めてないぞ、おいっ勘違いしてるだろう!?違う!違う!聞け!」
「褒めてくれるの?・・・いやぁ〜んアキトったら、ユリカの頑張りにご褒美くれるのね♪」
「あ〜、いいんですか?」
「別にぃー、いいんじゃない?ねっ?ルリルリ♪」
「・・・ぇ?体に害はありません。あの・・・?」
「ルリが二つでルリルリ、可愛いでしょ♪」
「・・・はぁ、そうですか」
ミナトは満足そうに頷く、予定の軌道に入って楽になったのかメグミとも話し始めた。
「確か火星出身だったわよね〜、テンカワ君と艦長」
「へぇ、艦長もですか?全然知りませんでした、ちっともそんなコト話さなかったですよね〜。
アキトさんが火星生まれなのは知っていたんですが。あの艦長が・・・そうですよね考えてみれば幼馴染だったわけですし」
「お二人とも同じコロニーの出身だそうです」
「十年近く離れていたのに再会して一緒に帰郷、不思議な縁ね〜〜・・・ぇ・・んん♪」
何か会得顔で納得しているメグミ。
お仕事をほぼ終えたミナトが伸びをしていると、隣をふと見ると悪人が一人クスクス笑っていた・・・見なかったことにした。
「そうよ・・・・幼馴染なだけ♪」
「私は火星地表のコロニーや施設など走査しておきます。・・・・・・ばかばっか」
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「むぅぅーー、納得できない!通信士の仕事を放棄して私のアキトとデートなんて!
プロスさん!問題大有りですよね!?今すぐナデシコでユートピアコロニーへ向かいましょう!」
「駄目だよユリカ、ルリちゃんが生存者を探し出してくれてるんだから。待ってないと」
くるくるとオペレーター席の周りに浮いている画像、今現在最新の火星の地表面データである。
ルリがプロスペクターの指示によって、千分の一、一万分の一で解析処理を行っている最中・・・。
それなのに、ミスマルユリカ艦長は利己的で個人的な理由で通信士の逃亡におかんむり。
メグミの逃避行を話題にミナトは隣に居るオペレーターに話し掛ける。
だがルリは顔も向けず、オモイカネとお仕事中。
「ね〜ぇ、ルリルリ。今ごろ二人で何してるのかな?」
「わかりません」
「故郷かぁ・・・確かユートピアコロニーってチューリップが落ちて潰れちゃったんでしょ?」
「はい、見ますか?」
「ううん、いい。お仕事の邪魔でしょ?」
「いいえ、簡単な画像処理ですから」
今までは一向に合わせる気も義理も無かったが、この人との意思疎通方法はこの数ヶ月間の航海で学んでいたし・・・。
何よりルリは、多くの言葉かけくれ、愛称までつけてくれる操舵士の女性に興味を持ちはじめていた。
「火星に人助けに来たわけですから、はい」
一段高いところではプロスペクターがご高説、その隣で駄々をこねる艦長とそれを諌める副長。
ここが敵勢力の支配下だと言うのに緊張感の欠片もない、ナデシコという戦艦らしいが・・・。
ただひとり、フクベ提督だけが厳しい表情をしていた。
「見つけました」
パッと大きなウインドウが表示される。
その場所にはまったく破壊された様子の無い施設が写る。
「難を逃れているのはココだけですか、ルリさん?」
「はい、探索可能範囲内では他のコロニーは例に漏れなく瓦礫のみです。もちろんネルガルの施設も」
「はぁ残念ですねぇ・・・・でしたら仕方ありません」
「取りあえず、真っ先にここに向かった方が良さそうだな」
最悪、全滅を覚悟していましたが・・・研究成果や重要人物を無事に確保できるかもしれませんね。
「そうですねゴートさん・・・・艦長?」
「アキトの回収は、行くその途中にできますよね?」
「エステに連絡を入れれば良いでしょう、それさえ時間惜しいかも知れません。
進路と速度を考えて・・・強制介入して、すぐにナデシコに戻って貰った方が良いですな」
「それグッドアイデアです!プロスさん。ルリちゃんお願い♪」
「はい」
帰還命令を受けて、アキトは機嫌良い密航者と共にナデシコに帰ってきた。
ルリが報告をすると早速コミュケを使って、浮気と騒ぐ人物が一人・・・と反撃する一人。
「テンカワ機収容完了。チューリップなど警戒しつつ、速度上げて進みます」
「アキト、早くお邪魔虫から離れて!私とユートピアコロニーのおはなししよーよ。
勝手にお仕事サボってついて行くなんてぇー・・・プロスさん!職務怠慢通信士のお給料差っ引いちゃって下さい!!」
マントの中から電卓を出してプロスペクターに押し付けるユリカ。
「ああっ、それは無くしたと思っていた私の電卓!?」
「え、ちょっと借りてただけですけど?」
きょとんとする艦長、天真爛漫な彼女のこと・・・故意ではないのだろうがプロスはため息。
不幸で幸薄の副長は、アキトとメグミが今だ密着してする事に暴走するユリカのなだめ役に忙しかった。
「な、なにを!?それを言うなら艦長は思いっきり遅刻したじゃないですか?
あの時と今とではナデシコに迫る危険は格段の違いです。
それに〜アキトさんといいお話もできましたし〜♪艦長が呼び出さなければ・・・」ぽっ
「まっ♪何かあったの?ほどほどにしてあげてね、副長が大変だから」
「そう・・・ですね、可哀想すぎますね。それにしてもミナトさんって先生みたいです」
「メグちゃん感良いわね、実は教員資格も持ってるのよ」
「ユリカ〜、抑えて抑えて〜。プロスさんも計算してないでユリカを止めてくださいよ!」
「な、な・・・早くそこから降りなさぁーーいっ!!艦長命令です!ふ、ふたりきりで・・・ベタベタしてぇー!!」
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Princess of life 03
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やっと平常に戻ったブリッジ、索敵を行いつつ目的地に近づいていた。
休眠中と思われるチューリップを刺激しないように避けて通ったり、エステの準備状況を確認したり。
「もうすぐ見えてきますな、無事だと良いのですが」
「でもさ〜おかしくない?火星であそこだけ、どうして攻撃受けてないの?」
「そうだよ、ユートピアコロニー然り破壊されてない所なんて何処にも無かったのに。変だよ、ユリカ」
「罠、ですか?」
ミナトさんの疑問に同調する副長のジュンさん、超積極的な艦長とは違い慎重派のアオイさんの意見。
・・・・私も補足します、いきなり撃沈は嫌ですから。
「う〜ん困りましたな〜、当初の目的地であるオリュンポスの研究所は遠いですし折角ここまで来て」
「時間は限られている。火星全域をまわるわけにもいかない、チューリップも意外に多い」
「どうするね艦長?」
「うーん、兎に角行ってみましょう。避難した人たちがいる可能性が高い所ですし、罠の場合は撃破するのみです。
虎穴にいらずんば虎子を得ずです!もっとも火星にトラなんて居ませんけど」
艦長、戦闘オブザーバー、提督、会計士が相談します。
アオイ副長は輪に加われてません・・・もっと主張しないと発言力無くなりますよ。
「動物園とか植物園もなかったの?あ、そっか艦長は火星育ちってワケじゃないのよね」
「資料にはそのような施設はありません」
「人が住めるようになったばかりで、文化施設の充実まで手をまわしていませんでしたからなー」
「アキトさんと別れて十年の月日の流れを感じません?艦長?」
「メグちゃん、喧嘩腰にならないで・・・艦長の故郷には違い無いんだから、ね?」
「・・・ミナトさんがそう言うなら」
「目的地が肉眼で確認できる距離となりました」
「つきましたか」
地形は円形に窪んでいました、中心には急造と思われる建物が幾つか。
ヒナギクの準備をしてテンカワさん、リョーコさん、プロスさんが降りて調査することになりました。
ナデシコはここで暫く様子見。
火星に降下してから蜥蜴とは出会ってませんが、この場所を動かないとなるとレーダーに注意した方が良さそうですね。
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「さて武器は準備できてますね、蜥蜴が作った施設かも知れません。
ナデシコ自体罠にはまらぬよう十キロほど離れたところで停止。それからヒナギクでの移動、エステはバッテリー積みましたね?」
「ああ、これで何かあってもナデシコまで戻ってこれるだろ」
「じゃ、行って来ます。ウリバタケさん」
「帰ってこいよ」
ヒナギクは何故か会計士が操縦し、パイロットは主に往く地を見ているだけ。
「吉と出るか、凶と出るか・・・蜥蜴の罠に二度もはまるのは勘弁願いたいぜ」
「リョーコさんは良かったんですか?エステバリスに乗らなくても」
「規則、規則と好きじゃないが・・・オッサンあんた一人生身で行かせる気はねぇからな」
「よよよ、こんなおぢさんを気遣ってくれるなんて実は良い人だったんですね〜」
「あん!?煽てたってのらねーよ、あの契約書には納得してないからな!あれは帰りの航路じゃ抹消して貰うからな!」
「はぁ・・・中間管理職の心労を誰もわかってはくれないのですね〜」
通信から聞こえていたが口出すことはしない、ユリカはともかく、メグミの話題ではやぶ蛇になりそうだから。
スバルリョーコがエステに乗らなかったのは、口で言う理由だけじゃないだろうし・・・
パイロットとして半端者であるし、生身でも彼女には敵わない。つまり消去法だ。
目的地が近づいて来た。
「人?」
「間違いない、人ですよ!プロスさん」
「へー、本当だ。助けに来たこと分かって出てきたんだぜ」
アキトは興奮気味に喋る。
つらい思い残したまま火星から地球に来て一年、これでようやくトラウマが克服できるかもしれない。
助けに来れた!と心沸き立ち急いでエステを降りると、全速力で走って誰よりも早く声をかける。
「良かった、生きてたんだ!・・・はぁ・・はぁ・・・みんなを助けに来たんだ!はぁ・・はぁ・・」
「君は誰?名前くらい教えてくれない?」
「あ、俺はテンカワアキト。地球から助けに来たんだ!」
相手は全員コートにフード、全身覆う実に火星の環境に適した服装だがやはり怪しかった。
しかし興奮気味のアキトは気にならないようだ、名乗っているとプロスたちが追いつきアキトの後ろから名刺を渡す。
「私はプロスペクター、と言います。あ、ペンネームみたいなもので」
「スバルリョーコ」
「じゃ私も名乗らないと駄目ね、私はイネス、イネスフレサンジュ・・あの戦艦はネルガルのでしょう?」
「察しの良い方ですな、ナデシコです。・・・貴女の設計した」
「「設計者!?」」
「・・・そう、そのとおり」
そこでようやく顔を見せ、プロスペクターの問いを肯定した。
知的な素顔で観察するような視線で三人を見てから、進み前に出て名刺を受け取った。
「立ち話もなんでしょう?ナデシコを上空に待機させたらいいわ、蜥蜴のこともあるでしょうし」
「そうですな、色々知りたい事がありますが人が居ると分かった以上ナデシコを呼び寄せましょう」
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ナデシコへ行く前に相談すべき人間がいる、とイネスが言うので三人は施設内を案内されていた。
アキトは単純に火星で人が生き残っていた事を喜んでいたが、プロスペクターとリョーコはどうしても解せなかった。
蜥蜴によって全滅との情報は間違いではなかったはずだ。
軍に身を置くパイロットのリョーコは、裏知る上層部ではないが地球のおかれている立場を実戦で知っていた。
火星の状況は想像していた通り、なのに・・・。
そしてプロスペクターは、民間とはいえ地球圏最大企業の幹部の一人。
その企業は早くから火星に進出し、最新情報はもとより駐留軍関係の情報も誰よりも何処よりも知っている、はずだった。
例え火星会戦時の戦力を掻き集めたとしても、この場所を守れるはずない。
だが現実は・・・。
「ここには何人、人がいるのですか?」
「ざっと200人くらいかしら、減って行くばかりよ。薬の欠乏でね」
「ではナデシコに」
「残念だけど今は乗れないわ、ナデシコは・・」
「え!?そりゃどういうこ」
通路抜けて一つの頑丈そうな扉の前に来ると、食って掛かったリョーコを静止させ扉を開ける。
その向こうには一本の道があった、両側に多数のバッタが鎮座している以外はごく普通の道。
道の先には一つの巨大なロボット。
「こ、これは」
「安心して、死んでるわ。改造して人を襲わないようにしているから」
「そ、そうなんですか・・はぁ」
「ホントか?いきなり動き出したりしないだろーな・・テンカワ?」
「・・・・・・・」
つかつかと進むイネスの後を戦々恐々と進むナデシコ組の一同。
その中でもアキトの態度は一番奇妙だったといえよう、急に無口になり視線を彷徨わせる。
「あなた達が木星蜥蜴と呼ぶ敵から協力者を得たのよ、私たちは。
だからここが攻撃されなかった、だからこれだけ多くの人間が生き残っているの、彼女は逃亡者を名乗って」
「説明はそこら辺にしておけ」
「こちらの方は?イネス博士の・・」
「違うわ。紹介の途中だったのよ、登場を待っていてくれないの?
・・・ああ、時間がなかったのよね。残念。プロスペクターさん、報告は届いてるはずだけど?」
「アキト、誰?」
「「え?」」
「ふむ・・・・・相談というのは?このお二人と?」
「そうね、保護者してるから二人も連れて行きたいけど」
「博士にはネルガル社員の義務もありますし・・・」
後から現れた桃色の少女、呼ぶ名前にドキリとする人間が複数。
イネスはプロスと話を進めてナデシコへ行くことを約束した、社員の義務を出すプロスに苦笑し
そんな状況認識かとナデシコの行く末に一抹の不安を覚えたが。
プロスは次にラピスに向き合うと、眼鏡を片手に笑み浮かべて挨拶。
わざわざ同じ高さの目線で、子どもと侮ってはいない所に好感が持てる。
「・・こんにちわ、お嬢さん。報告に在った少女はこちらの方ですよね?増えたんですか?」
「勝手にね、詳しい事は報告書にして出すわ。色々ありすぎて、事の始まりは簡潔に言えるけど」
ラピスを砂漠で見つけたと、簡単に。
施設を見回すプロスペクター。
「ここは・・・何か見つかりましたか?」
「特に何も出なかったわ」
「ナデシコは資産回収に向かう予定ですが・・・火星の他の研究所は?破壊されたと?
はぁ〜予想していたとは言え困りましたなぁ〜、情報の確保もナデシコの目的の一つでして」
「破壊されたのよ。・・・木星蜥蜴に一つ残らず」
オリンポスはアキトにね。
「私はオマケだった?それに一隻でよくも・・・ナデシコでそれを行えて?火星を脱出できるかしら?」
「耳が痛い話ですが、地球ではどーもこーもならなくなりまして」
「その敗北必至の地球から来たあなた達が私たちを連れ帰りたいと?
なるほど納得できたわ、私達の発掘した技術が必要というわけね、いいわナデシコへ行きましょう」
「乗られるのですか?さっきは・・」
「既に予想してたの、ナデシコが敵を引き連れてくる事も含めてね。さぁ時間がないわ急いで!」
イネスの指示受けて慌しくなる周囲、バッタに電源入れて機材物資が運ばれだした。
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火星側代表者として三名がブリッジに招かれていた。
正確にはネルガルの人間のイネス博士だけだったが、無理矢理ついてきた同行者が二人。
一人は桃色の髪を持ち、一人は輝くブロンドで・・・二人とも幼く可愛らしかった。
「ほら離して」
白衣の両端を掴んで離さない、そんな事しているラピスを微笑ましげに見ていた一人の女性。
早速、近づき警戒心抱かせないようにスマイルで声をかけた。
「ま、かわいいわね〜・・こんにちは、はじまして私はハルカミナト。あなたはなんていうの?」
「・・・ラピス、ラピスラズリ」
「今度一緒にお話しましょ♪今は無理だけど、絶対おいしーものおごって上げるからね♪」
狩人の目をしてたミナトの予想通りといえば、通りの行動にメグミは半笑い。
ルリは・・・何事か呟いていた。
「隣の娘も一緒にね♪」
「・・・」
「・・・・・・うん♪最初にしては上出来」
保護者イネスに促され、定位置へ帰るミナトは妖精が三人に増えたことを単純に喜ぶ。
新しい三人目の娘は無口で手ごわそうだったが・・・戦地の火星にいたのだから、警戒されて当然だろうと納得した。
イネスがやっとラピスの手から開放される、当然ラピスの手はアキトに移っただけ。
「ホント・・・予想通り、戦況をまったく理解してないようね。現実を知らないというのは気楽なことね」
一言目からツンと誇り高い獣のように周りを威圧するイネス、内心少しは期待していただけに失望は大きく、
だから、ナデシコクルーに一回の配慮無い言葉をわざと選んで喋る。
プライド傷つけられてイの一番に激昂するタイプのスバルリョーコは、両の手を捕まえられていた。
当然だろう、戦場で死に一番近い位置に常にいたのは彼女なのだから。・・・コックはやや憮然としただけ。
「あのーだれですか?トラさん?」
ボケをかます小娘にイネスがムッとして目を向ける、仕官服、キャップまで・・・
艦橋にいて・・居並ぶ順番でかなりの優先席、そしてこの服装は、艦長!?
余裕あるのは今だけでしょう、今から話す内容は火星の置かれている現実を知らせる事なのだから。
きょとんと見つめる仕草が子どもっぽい、本当に理解してくれるかしら?
でも思い知らせる必要がある、イネスはまず皮肉たっぷりに質問をした。
「なによ失礼な小娘ね、まぁ慣れてるけど・・・艦長は何処なの?」
嫌々慣れたアキトの傲慢で無愛想な態度に比べれば、純真爛漫で可愛げあるだけマシ。
確かに兵器改造や戦地という諸所の理由でイネスのブロンドは汚れていたが、それをトラと表現するユリカもユリカである。
ちなみに、虎子はイネスの背中に二人もいる。
目の前に居る人気取りで選ばれたような娘が艦長だと知らないフリまでして、プロスに問う。
「プロスペクター?」
「ええっと、こちらが我が戦艦ナデシコの艦長でして・・」
「そうだよ、艦長さんは私ミスマルユリカなの!」
「そう、はじめまして。私はイネスフレサンジュ、もう聞いていると思うけどこのフネの設計者よ」
「それでは博士。まずは持ち込んで来た『アレ』の説明をして貰いたい」
「本当はもっと詳しく言いたいけど・・・後ろにこわぁ〜い人がいるから簡潔に言うわね。
これから来るであろうあなたたちが木星蜥蜴と呼ぶ無人兵器対策よ、このフネにある『オモイカネ』を活用させて貰いたいの」
「うーむ、しかし・・ちょっと待って下さい、いくらネルガル所属の博士の言葉でも得体の知れないものを『オモイカネ』に」
「信用できない?そうよね、紹介しましょうか。木星蜥蜴からの逃亡者を」
それは重要機密に属する話題になってしまう、プロスに配慮しそこで話題変える。
「・・・でもそれは次にしましょう、あなたたちの力では蜥蜴に勝てない理由と私の推論・・」
「ナデシコは勝ってきましたよ、だからこうしてここにいるんです」
「そうだよ、それに火星に居たっていつか木星蜥蜴に」
せっかく用意した計画を話そうとしたのに、ミスマルユリカ、テンカワアキトに制されてキッと攻撃の矛先を定めた。
「あなたたちは木星蜥蜴について何を知っているの?あれだけ高度な無人兵器がどうして作られたか?
何ひとつ知らないでしょう?慢心は普通、自分では気がつけないものね。
例えば君!君の心を解説してあげようか? 『少しばかり戦いに勝って、かわいい女の子とデートして、俺は何でも出来る!』」
説明おばさんことイネスフレサンジュの最初の犠牲者になりかけるが、その言葉に
真っ先に艦長が反論をし、またもや通信士と口喧嘩を始める。
しかし、アキトの悔しそうな戸惑いある言葉に二人とも口を閉じる。ヒーロー願望は確かにアキトにもあった。
「彼女?違います!アキトは私の王子さま!」
「艦長、何を口から出まかせ言うんですか?それにアキトさんは・・」
「そ、そんなじゃ・・ない。たぶん」
静まった所で本題に戻そうとプロスペクターが口を開き、艦長の言葉に副長が加勢する。
「まぁまぁみなさん抑えて、それに今は言い争わず仲よく地球に帰りましょー。
蜥蜴対策のために彼女がネルガルには必要なんですよ。ナデシコだって火星で試作されたんです」
「そうなんですか?でもナデシコは蜥蜴に勝ち進んで来たんですし、自分の作ったものに自信がないんですか?
アキトも私も故郷の人たちを見捨た連合軍を振り切ってここまで来ました、どうして勝てないなんて?」
「僕は一度連合軍に加わってナデシコの火星行きを阻止しようとしました。地球からの助けなんて、軍はしない・・・ですから」
「ふぅ・・仮にも艦長がパイロット一人を贔屓するような発言、色恋を艦橋で口にするなんて艦長失格ね。
副長、君は顔に似合わず苦悩してるらしいから信用してあげても良いけど。今回は分が悪い相手だわ」
木星の少女は正確な戦力を示してナデシコが来ても、地球には帰れないと告げた。その対応策も。
なのに艦長ときたら、命令一つで生死決める立場なのに贔屓などして・・・
まぁ、ミスマルユリカ艦長の場合『王子様』に過剰な戦果の期待を背負わさせているだけかもしれない。
艦内での鬼ごっこを贔屓とは呼ばないのは確かだろう、それを羨ましがる影の薄い人が居たりするがライバルになっていないし。
「軍じゃない、それは評価しましょう。でも本当にここは戦艦なのかしら?」
「どーいう意味だよ?戦って勝ち進んで」
「上にたつ人間がこんなで、良くここまで・・・運良くここまでって事。本当に戦争してきたの?
艦長、確か火星生まれと言ったわね・・・フフッ。火星生まれじゃ話にならない、火星育ちはいないの?」
「・・・」
「アキトさんがいます、戦争始まった時に火星に居たんです!」
「ふぅん・・・・・アキト?」
大人の女性にまじまじと見つめられて、赤くもなり戸惑うが言うべきことがあった。
メグミも後押ししてくれているし。
気持ちよく演説続けるイネスに、饒舌なイネスに、アキトは口を挟んだ。それがどれだけ怖いことかも知らずに。
「俺だって怖かったけど、戦って来たんだ。
・・ナデシコなら、火星を見捨てた軍じゃなくナデシコならって。・・・信じてくれないのか?」
「設計者としてこのフネの実力を知り尽くして過信していない私と、君の言葉・・・・どっらが真実だと思う?
それに君は何時の間にか、地球の色に染まって甘っちょろいこと言うようになったのね?
私達はあの会戦からずっとここにいた・・・沢山の無抵抗の人が死んだ・・・私たちの目の前で・・・」
視線の先は艦橋上部のあの人・・・。
思考はすっかり二人の幼い元テロリストに影響されていた、本当に残酷な事が多くあったのも確かだけれど。
説明好きで科学者で(リアリスト)現実主義者でさえある人間は手におえない。
「私の言葉に反論できる材料としては不足ね。ねぇ?そう思うわよね?」
後ろにいた少女に問い掛け、同意を得る。
「で、でもナデシコなら火星を脱出」
「できない」
「ナデシコならできる、希望を捨てちゃ駄目だ!助かるって信じなきゃ」
まだ熱血を信じていた過去の自分に励まされても、非情な真実を知っているアキトは冷めた思考。
助かる・・・か。
何度も強く願って叶わないコトが多くあった、あり過ぎた。
その末に遺跡とその先にあるものを見て、神なんて信じなくなった。
過去の自分はアイちゃんのことで心傷ついて癒えないのに、まだその一線を踏み越えてはいないようだ。
一生懸命に幸せ求めて進み出でようとコックとパイロットしている、その姿は好感持てるけど。
「イネス無駄だ」
「そうね。話し合っても無駄みたいね、まぁ許可はフクベ提督に出して頂きましょう?」
「・・・ああいいだろう」
「時間押しているから失礼するわ、では失礼します。フクベ提督」
「提督!?なぜ」
「なんだね?こう何度も指揮権使われては迷惑かね、ではこれ限りで控えるようにしよう」
用が済んだとばかり、くるりと入って来た扉から出て行ったイネス、後追うように二人の少女も駆けて出ていった。
そしてようやく両腕開放されたリョーコが悪態ついて、イネス出て行った扉睨んでいた。
「高くとまって、何だよアレ・・」
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Ver 1.11