_
_
_
_
_
──────────────────────────────
──────────────────────────────

黒のラピスラズリ   第四・五話「明日の為に、出来る事を成す為に」

──────────────────────────────
──────────────────────────────
|
|
|
|
|
_
_
_
_
_
-----A part
_
_
_
_
_
|
|
|
|
|

地球、サセボ、商店街の一角・・・近所でちょっと有名な雪谷食堂にテンカワアキトは居た。
朝の準備をしている。
食材を取り出して・・・火星じゃこんな野菜なかった、ここで働かせてもらってもう一ヶ月近くになる。
地球に着てから一年近く・・・放浪した。
理由はさまざま、蜥蜴を恐れて発作のように絶叫した事。IFS処理受けた証の見習コックである事。半人前である事。
何かが阻んで前に進めない日々が続いていた、やはりあれだ・・・女の子を目の前で助けれなかった事が尾を引いているんだ。


「ふぅ・・今日もいい天気になりそうだな」


高い空、雲が白い。
テーブル拭きと掃除、小さな食堂だすぐに終わる最後のテーブルを拭き終えて椅子を綺麗に並べる。
手のナノマシンの証はもう無視する事に決めていた、何も出来ない子どもから抜け出す為に受けた処理。
あれは・・・誰の為だったのだろう?
幼い頃の火星の思い出、誰かが居たような・・・。


「さてと」


すっかり綺麗になった食堂、一人で生きてきた為にこの類の作業は一通りできる。
子どもの時から一人で何かをする事が好きだった、誰かに邪魔される事が嫌いだった。
この性格は孤児となる前に固まっていたと思う。
俺には両親は居ない、木星蜥蜴に潰されたユートピアコロニーの一角にあった孤児院にいた。
数年、そこで暮らして身に付けた炊事と家事、そして掃除。
学校に通っていたがトカゲの侵攻と共に何もかも消滅して、いつまにか地球に来て・・。


「仕込み始めるぞーアキトー」

「はーい行きまーす」

「今日は少し調子が悪いからな、近くの電気屋じゃ無理らしいから使うなよ」

「うわっ重い・・」


奥に置いてある巨大な冷蔵庫の一部が使えないので地下へ運んでおく、戦時ゆえ食料は貯蔵しているのだ。
少しでも良い物を安く買い付けるため、地下の施設はサイゾウの宝物。
がちゃりと開けて3つの箱に入った食料を戻していく、先週出したばかりなのにめんどうだが仕方ない。
いったん外へ、そして地下への入り口へ。
・・・あ、珍しいな。
こんな所に高級車が一台止まっていた、アキトが顔を向けると走り出して行った。
どんな人間が乗っていたのだろう?確かこの近くには、無闇に巨大な建物があった、詳しくは知らないがその関係者だろう。

_
_
_
_
_


「頑張ってたな」


さっき、車の中から見た過去の自分を評して一言。
テンカワアキトがさまざまな障害に悩みながらも夢を追っている姿は、正直羨ましかった。
もはや自分にできない生き方だ、そしてそれはアキトだけのもの。
私にはアカツキアキナとしての生き方がある。
これから向かう研究所には、ナデシコに乗せるスーパーコンピューター『オモイカネ』がある。
あと3日でナデシコへ移動させるが、今日は最適化と幾つかの機密に属する機能を加えるために来たのだ。


「はじめましてオモイカネ」

「(アキナ行くよ、オモイカネを良い子にしようね)」


久しぶりにラピスと共にナノマシンを稼動状態に、フルパワーでコードを処理していく
とんでもない情報処理速度に研究員たちが驚きの声をあげる。
ボォと体内のナノマシンの光が零れる。
髪の色が薄く、桃色の光輝いて・・・。
雪のような肌に、金色になっている瞳。
周りに浮かぶディスプレーには、常人には目視できないほどの情報の流れ。
研究員が呟いた。
これがネルガルの誇る遺伝子操作の結晶、時代が変わる・・・と。


「驚いてたねぇ」
もぐもぐ

「(当然、私たちはそれだけの力がある・・・アキナと共に居れば)」
もぐもぐ

「んー、もーおわりか・・・」
くー

「(・・・お腹すいた)」


ちょっと腹ペコになっている、研究施設の食堂で一人前食べおわってしまった。
勿論足りない、しかし・・・
さっきあれだけ注目を集めて、ここでもう一度伝説を作りたいとは思わない。
今も何処かで護衛しているはずの、シークレットサービスにたかってみようかと思案する。可哀相なので却下。
しかし、ん?おおっ!
名案が浮かんだ、アキトに出前を・・・やめとこ、死ぬ量を運ばせるほど鬼じゃない。
出向いてみようか?
午後の予定は少なかったはず、それに雑事だったから私が離れても研究員達だけでもOKだよね?
食堂の壁にある時計は1時半をさしていた、時間はある。

_
_
_
_
_


「ちょっと遅れたけど時間あるよね?」


エリナに選んでもらった可愛い腕時計を確認、天使が4時過ぎをさしている。うん大丈夫。
あの後、許可を取りに責任者に会いに行ったら、オモイカネに手こずっていた。
生まれたばかり、アキナに一気にレベル上げされたのがストレスになったらしく、おこもり。ユリカじゃあるまいし。
ああ、AIって何?スーパーコンピューターって何?役割って?アキナって鬼?スパルタヤダよぉ・・・。
やりすぎたらしい。
ヘコんで自問自答しているとの事だったので、ごめんねと謝って少し褒めてあげた。
ナデシコで考えなさい、そうしましょとあやしたら、不幸な副が似合う人のように簡単に納得してくれた。
・・・女の子に弱いのかもしれない、オモイカネってルリにも弱かったし。


「他人から見てアキトってどうなのかしら?」

「(知らない、アキトはアキト。私はアキナでいい)」

「そうありがと」


店まで数十メートルの所、車は離れたところに止めた。
太陽も傾きかけてはいるが、未だ熱いので木陰を探して休憩しててと護衛に言って。
アキトの勤める雪谷食堂はまだ客が居る様子、時間的にとても少ないが・・・・・・悲鳴が聞こえた。


「?」

「(?)」

「・・・ああっ!?」


悲鳴を聞くまですっかり忘れていた。
アキナは慣れてしまっていたが、地球では日常と化しているトカゲとの戦闘音がアキトにはトラウマになっていた事を。
それは人の死と繋がる音だから、心体強くなりきれなかったアキトには恐怖を押さえつけれない。


「懐かしーなぁ、こんな怯えて・・・」

「(これがアキト?どうして怯えてるの?)」

「ああ、トラウマになってるんだ〜。バッタがねー、んくんく・・おいし」

「(アキトってトラウマ多いんだね。アキナになって良かったね、私とひとつになって良かったね)」

「ぇ、ぇ〜・・さぁ?」


経緯経過を考えると、この状態をラピスに喜ばれて複雑な気持ち。適当に相槌打って誤魔化した。
自覚はしてたと思うけど、凄い怖がり様だなぁ・・・。
恐怖心を取り除かないと、ナデシコの初戦で満足に囮できないかも・・・と思わせるほどの恐怖を顔に浮かべている。
生存率上げる努力、私がしてあげないと。
だからと言ってどんな風にすれば?言葉かけて、この心理状態を直してあげれるかな?
元自分に助言を与える事は楽に思えたので、実行する事にした。


「・・おいし、追加おねがいしまーす」

「はいよっ」


震えるアキトを物珍しそうに人垣を作って客たちが見ている、その中にアキナも混ざっていたりする。
時間帯もあってか店の中はガラガラ、サイゾウも壁にもたれて小休憩していた。
毎度の事ながらアキトの怖がり様にため息をついて、一人の女の子が入れた注文を作るため鍋を手に取る。
珍しい・・な、この時間に女の子一人で・・量も多えし。
食べれるのか?
アキトの観察に飽きたサイゾウは、興味深げにアキナの食べっぷりを観察・・・美味しそうに食う娘だな。


「うわぁぁぁぁっ、あーーーっ!!!」


バカ野郎、人がイー気分でいたのに・・・あー・・・またかよ。
そろそろ事情知りてぇよ、アキト。どうして料理人目指してるかぐらい話したって・・・ばちは当たらねぇと思うぜ?


+
+
+
+
+


夕焼けが見える、今日も馬鹿の一つ覚えみたいにココに来ていた。
サイゾウさんに頭冷やして来いと言われて来た草原、風が吹いてこの時間になると結構涼しい。
誰も居ない所でようやく気を抜ける。


「はぁ〜・・どうして俺ってこんなに不幸なんだろ?」


地球で生きる事がこんなにも難しいなんて知らなかった、知り合いも居ないので愚痴を聞いて貰う事もできない。
雇い主のサイゾウさんには相談しにくいし。
駄目なんだよ、あの事を思い出すたびに・・・くっ、くそっ。なんでっ。どうしてっ。


「もうこんな時間、忙しくなるから帰らないと」


夕日が傾いて、結構時間経っちゃったな・・・帰ろ。
・・ん?こんな所に女の子?俺より3つくらい下で、長い黒髪を風が揺らして結構美人だ。
じっとこっちを見て上げてる。
珍しいなぁ、見たことない娘だけど・・・その娘は俺に用事があるように思えた。


「君」

「・・俺?」


意外ではないけれど、なんだろう?
見知った人間に声をかけられたような、この感じ・・・。
その娘は近づいて質問してきた。


「落ち込んでどうしたの?さっき叫んでたよね?」

「あ、あれは・・」


見られていたのか、食堂に来ていたのなら俺の後をつけて来たんだろう。
どうして?
・・・そうか、なんだ。・・・珍しい、珍獣扱いかよ。・・・仕方ないじゃないか。
でも、その後の彼女の言葉に凍りついた。


「君、火星出身者でしょう?」

「どうして!?それを・・・。IFSで?軍人じゃない・・・・ほっといてくれ、だから何、だよ」

「私もそうなの、あいつらを怖がるのは当然の事よ。
それに無くしたから当然よね・・・だから私が君に会いに来たのよ」

「・・・」


何が言いたいのか分からないけど、敵意があるわけじゃないらしい。
それに無くしたって・・・一体?
彼女は髪を掻き分け両手を首後ろにまわすと、見覚えあるペンダントを手にしていた。
青い一つの輝石を使ったペンダント。
それを俺に渡すと


「もう無くしちゃ駄目だよ」


そう言って駆けて行ってしまった、追いかけようとしたが彼女はまるで風のように去ってしまった。
残されたアキトはただ唖然と、手にの中に確かにある。青い輝石を見ていた。

|
|
|
|
|
_
_
_
_
_
|
|
|
|
|


「んー?ふ、ふぁぁぁっ・・・」


寝ぼけ眼でベッドから抜け出す、洗面台で顔を洗って
スポーツドリンクを飲みつつニュースを見るのが日課になっていた。エリナはまだ起きていない。
ラピスはまだ夢の中、アキナとてまだ半分寝ている、証拠に寝癖もパジャマの乱れも直していない。
今日の予定を考えつつ朝食の準備、鍋に水、お米研いでセットして必要材料を揃えてから野菜を切る。


「んーと、今日は・・アカツキ・・会長に呼ばれてたよね?なんだろう?」


予定では内容は真っ白、何も詳細は聞いてない。
アカツキが何考えて呼んだのか想像しながら、朝の炊事と家事に追われたアキナ。
頭に手を当てて起きて来たエリナに予定を聞くが、二日酔いらしく愚痴を聞かされただけだった。
離れていたとはいえ、会いに行くのだからいつもの服とは違うのを選んだ。
この前、エリナと事件にあったショッピングで買った腕通した事の無い服はまだ沢山ある。眩暈がするほど。
・・・そう言えばユリカもコレくらい大量の服をあの四畳半に持ち込もうとしてたな。


「・・あ、そうそう。今日の予定だったわね、ココでパーティーに出席よ」

「・・・はい?」

「政府主催の奴、会長とその義妹として」

「ちょっ、ちょっと待ってください。私そんな、そんなの出れない・・前みたいな事」

「立場上ねぇ・・欠席は困るんだけど、何が嫌なの?マナーは教えたでしょう?
危険は無くすわよ勿論、主催してる政府も気使ってくれてるし・・・会長本人とプロスも居るから大丈夫よ」


テーブルマナーはエリナの指導され覚えた、月臣のしごきよりきつかったけど・・・なんとか。
親ネルガルの政府主催で、会長自らが出席するパーティーなのだから、確かに警備も万全だろう。
その上、シークレットサービスの長まで出席となれば鬼に金棒。
でもプロスペクターは、政府要人ほか軍関係者にネルガルの商品の売り込みをしていそうな予感がする。
妹として出席させるアカツキの意図が分からない。
最大限アキナという人間を利用して利を得る事を考えていると思う、具体的に何を考えているんだろう?
ネルガルに保護されているという立場上、強くは拒否できないし。


「・・・行きます、けどパーティーなんて始めてです。
どんな態度で臨めば良いんですか?お喋りしてるだけでも良いんですか?」

「・・・たぶん何も喋らなくてもいいわ、全て会長がして下さるだろうから」

「ソレって何するか知ってるんですね?そうなんですね?」

「会長に任せておけばいいわ、本当よ」


エリナの疲れた様子が気になったが、エリナが選び着せてくれた深い緑のドレスを着て出かけた。
アクセサリーは腕時計のみ。
少ない胸には白いリボン、化粧は顔の作りがまだ子どもっぽく、しても似合わないので軽くリップを塗っただけ。
会場となる建物に来るとアカツキ自ら迎えに来た、何かある。
そう直感し、気を・・


「アキナぁ〜、よく来たね。待ち焦がれたよ〜お兄ちゃん、元気にしていたかい?
仕事がきついんじゃないか?って心配していたんだ、過労で倒れられないよう。僕に言うんだよ?」

「お、おにぃ・・ちゃん?」


・・引き締めれなかった。
間抜け顔で混乱しているアキナの手を掴んで建物の中へ移動しつつ、話し掛けてくるアカツキ。
直接会うのは、この体になってから二回目。
一回目は普通だった・・・何があったんだ?
久しぶりに会う親友の変わり様に、アキナの中にあるアキトの精神体は放心状態。
以前から知っていた人間の変わり様に、驚いているのはラピスラズリも同じ。何も言葉が出ない。


「服似合ってるよアキナ。こんなに可愛くなって男が寄って来て大変だろうから今日は僕と一緒にいるんだよ。
そうそう、僕はいつものスーツでいいかなって、エリナ君にはここの所、毎日確認したんだけど・・」


だからか、酔うエリナなんて珍しいと思っていたが。
毎日、こんなアカツキと仕事していたのか・・・大変だろうな。
ナガレ、なんでこんなになっちゃってるんだ?あのクールで、実は情あるお前は何処に行ってしまったんだ?
その後の事は、頭痛がするので思い出したくなかったが、あのアカツキをお兄ちゃんと呼ぶ羽目になるとは・・・。

+
+
+
+
+

案の定、クタクタになって帰ってきたアキナをベッドに寝かして、いつもの日課に戻るエリナ。
メールの確認をして明日の予定を見ていた。
あのアキナが、普段はクールを突き通すアキナが、疲れきっていた様子を思い出し
アカツキの病気ともいえるあの症状は地だと確信して溜息をつく、幸が一つ逃げた。


「ん?・・・な、なによコレは。あいつ余計な事を」


エリナがチェックするネットワーク上のチャット、それはネット上のネルガルの来賓室にあたる場所での会話。

【ネルガルの会長って】
うさぎ・シスコンって本当?
白うさぎ・見た見た、あんなに若いのもびっくり!玉の輿狙う?
仔犬・でも可愛かったなぁ〜、あの娘。私の妹になってくれるなら狙おうかな〜
鳥1・何?誰よ?レズ?
仔犬・違う、至ってノーマル。だってあの会場じゃオジンたちしかいなかったでしょ?
うさぎ・まぁ、そうね。話し相手はああいう娘が欲しいわね。
仔犬・でしょ?あんな萎びた野菜よりも青くても
鳥1・青くても・・ってアンタ。
うさぎ・レズ横行させてるの誰?
仔犬・甘味ある果実がいいと思うでしょ?
鳥1・だから誰?
仔犬・はーい、それは私。ネルガルのウォンさんでーす。
うさぎ・こんな所で。それはよした方が懸命よ、自己証明。精密アルカの者よ。次
仔犬・ちょっ、ちっょとぉー少しふざけただけ。無かった事に。
白うさぎ・しない、製鉄ハシモトの第二です。
仔犬・酷い・・・悪かったわよぅ。今度『しぉん』のシュークリーム(あまあま〜)を贈呈
鳥1・トゥンイの者ですわ。
鳥1・いますぐ
白うさぎ・同意
仔犬・贈呈〜(泣


子犬から、うさぎ、白うさぎ、鳥1へプレゼント箱が流れていく。
中身はシュークリームだろう、これはこの高機能チャットの目玉の一つ。
そんな議題を誰が挙げたか知らないが・・・知らんわそんな事。もうあんなのに付き合うのはこりごりよ。
クールな会長が懐かしい。
悪戯好きで自らエステのパイロットになるという、権力者に似合わぬ悪癖も持っていたが。


「・・・あのバカ、パーティーで大活躍してくれたようね」


アキナを要人の一人として認めさせるために、ネルガルの秘蔵っ子として社交界デビューをさせたのに
大勢の人間に、会長のシスコンぶりだけが印象に残されてしまったようだ。

_
_
_
_
_


「えっ?」

「違うってば、だから」


共に住み女らしさを身に付けて来たアキナだが、優秀な生徒とは言えなかった。
何故か、おさんどんはプロフェッショナル並みだったけれど。他はてんで駄目、話にならない。
キンジョウエリナウォン女史は、アカツキアキナに女性らしさを身に付けさせる為。
まず武器を隠し持つ事を禁止し、防弾スーツを着込む場合は一定の危険が迫った場合にさせた。


「「・・・はぁ」」


そして今は化粧の練習中、ぐにぐにと口紅が・・・
ため息つく二人の先生。
一人は同居人にして仮保護者のエリナ、もう一人は何故か元シークレットサービスの女性。
この前の誘拐未遂事件で、アキナとこれ以上ない程の衝撃の出会いをしたサワラサチさん。
実はあの後、自分を見つめなおすために転属希望し、人材募集中のエステバリス開発部署に配属。
そこに出向して初日にアキナと再開。
社内だし、エステもアキナもスキャバレリプロジェクトの重要ファクターだし・・・当然の成り行きでした。


「ああっ、鏡見てしなさいよっ」

「ううっ・・難しい」

「この分野の才能枯れてるわ、何ソレ?ラクガキ?
ずっとお子様でいいんじゃない?体のほうもこれで18なんて・・・ねぇ?」

「そんな事・・あるかも。だって・・ねぇ?」

「エリナは私を見捨てるのか?サチは見捨てないよね?ね?」


アキナと親しくなったのもそこで。
ソフト部分の調整の為に訪れたら、テストパイロットに見覚えある顔が居た。
はろーサワラさん♪と、声かけたのが交流の始まり。
以来、アキ、サチと呼び合う良い仲。
よく一緒にいるようになる。
仕事の方は、元々素質あったのかアキナの的確な経験に基づく助言も加わり、パイロットの才能を開花させた。


「ほら落としてあげる」


サチが女性として哀れな事になっているアキナの顔を綺麗にする。
瑞々しい林檎の皮を剥いたような白さの肌から朱の落書きが消し落とされていく、張りもよいし・・・伸びるわねぇ。


「や、やめて・・」

「エリナこれ良いわよ、欲しいなぁ〜」

「・・いいわ」


アキナのほっぺはとても柔らかそうで、触り心地も良さそうだが・・・
自分の持ち物と比べてしまうのがイヤなので遠慮した。
サチにおもちゃにされた頬を抑えながら鏡を見る、実はここで始めて自分の顔をまじまじと見る事になったアキナ。
黒い瞳と眉、唇と観察。


「アキってナルシスト?」

「い、え・・違いますよぉ、・・」


記憶に中にある、アキトの顔のパーツとラピスの顔のパーツ。
組み合わせるとこんな感じになるのか〜・・と考えていた。
男性であった頃を随分昔のように感じるようになっていた、事態がうまく進んでも元の体に・・・
やめよう、考えないようにしよう。最後はラピスに選ばせよう、数年もかかるわけじゃない。


「でもアキナって、どうしてこんなに極端なの?色事に縁無いのも変よ?」

「火星育ちゆえ〜」

「えっそうなの?へー」

「秘密にしておいてよ、まったく兄弟そろって自覚に欠けて困るわ・・・」

「えー?でもサチはナデシコ組でしょ?」

「そうね、でも組ってのはお子ちゃま過ぎでしょ?アキナじゃないんだから」


それがあながち間違いじゃ無いんだよ、エリナ。
艦長さんからしてアレだから・・・エリナはプロフィールだけは知ってるから誤解してるけど。
・・・伴侶に対してその表現は困りもの、なのだけれど
今はこんな可愛い女の子してますから、仕方ないですね。
サチに化粧されながら、設問に答えるように自分の設定を言うアキナ。
エリナは何かまだ愚痴をこぼしている、その間にもサチの作業は続き髪まで終える。


「・・・変わらないわね」


手を加えたのに変化が少ないのでサチはがっかりしているし、エリナは納得している。
『いろは』を教えても使い道がないのだ、顔の輪郭がまだ子どものアキナには。
衣服でも同年代のモデルが見事に着こなしている物は無理。
何故なら18歳にて15歳をしているよーな体が、袖を余らせたり、収まるべき所がスカスカになってしまったりする。
顔では負けていないのだが・・・。


「でもまぁアレですよ、男どもに色目使われないだけ気楽じゃ・・・・・・・・あ」

「シスコンって言っていいわよ、私は減点しないし」

「お兄ちゃんがどうかしたんですか?変な二人。
あーいうお兄ちゃんって良いと思いません♪可愛いじゃないですか?」


さらりと言える様に必死の思いで練習した甲斐があった、二人とも勘違いしてくれている。
バッとアキナから離れて信じられないものを見る目で問い掛けてくれた。


「「・・・マジ?」」

「マジ♪」


笑って答える。過去に深い中になったエリナのそんな視線が辛くても、アキナは目的の為に手段を選ばないつもりだ。
アカツキを利用できる最良の策だろうし、使わない選択はしない。
・・・もしかしら、それはとても危険な賭けだったかもしれないけれど。


「あんたの悪い処、二つ目やっと見つけたわ。
奴に甘い処よ、そのせいで私の労働環境が悪化したのよ・・・言ったところで処置なしだけど」

「それは・・・エリナさんがお兄ちゃんを働かせすぎな」

「あー、あるある」

「ちがうっ!ってサチも頷いてんじゃないの!」

「会長に会った事なんてないから分からないけど、プロスの人が愚痴ってたもん」

「の人って、上司でしょ!?・・今は違うか。
プロスペクターね、意外と正直者なのね・・・昼あんどんよりは」


秘書のエリナに大関スケコマシ以外に幾つ名前を貰っているんだ?

_
_
_
_
_

今日は仕事が長引き、幾人かの技術者たちと昼食を取りつつ意見の交換をしていた。
その内の何人かは仕事よりも、アキナに人体の不思議を見せ付けられて呆然としていたりする。


「だからね、んぐん・・そのるーとだとねー」

「こちらの事も考えて頂かないと、言ってる事は分かりますがただそれだと」

「それを如何にかしてえ・・んん」


ちょっと喉につまったので水を流し込む、ほんとパクパクとよく食べる人である。
彼女を知る女性社員の多くにとって、ある意味スキャンダルなのかもしれない。


「・・・何処に入ってくの?」

「うぇぇーん、私のアキナちゃんがーーうそだぁーーー!ハハ・・・悪い夢見てるよ私」


お姉さまな人が一人泣きだしてしまったり、食べることも忘れて、ただただ不思議がる人もいる。
アキナの居るテーブルの周りは、老若男女関わらずギャラリーが集まっていた。

+
+
+
+
+


「は、だぁっ・・はぁはぁはぁはぁ」

「(もうすぐ時間)」


トレーニングすること二時間、今日はもう帰宅する時間になっていた事をラピスが伝えてくる。
ネルガルに身を置いて以来、自分の持つ遺伝子強化体質の能力関係で色々と忙しく体を鍛える時間がなかった。
ようやく、今こうして訓練中と言うワケ。
日々の鍛錬を怠ったせいで、日常生活で使わない筋肉が衰えていたので
アキナは明日のことも考え、軽い筋肉痛になる程度の負荷をかける運動をした後、
無くした木連式柔術に代わる、己の武器となる技に磨きをかけていた。


「や、やっぱり・・前のようには行かない・・か。はぁ・・はぁ・・ふぅ。
どぉ〜しよ?私がエステに乗れないなんて、いけると思ったんだけどなぁ」

「(成長遅れてる女の子の体だから、無理だと思う。
でもアキナがサポートしなくても、火星までは上手く行けるはず)」

「・・・うん、でもね。問題は帰りなの、私は別にいーけど。うーん、困ったなぁ・・・。
・・・うーん駄目だ。思いつかない。帰ろう、考えても無理なものは無理だし。他の方法が見つかるよ、きっと」

「(そうだね、でも早く帰らないとエリナが帰ってくる時間だと思う。エリナの手料理は食べたくないよ)」

「・・・うん」


流れる冷たい汗をタオルで拭きとって息を整える。
顔にへばりつく髪の毛をうっとおしそうに後ろへ流して、シャワー室へ足を向けるアキナ。
運動の為にポニーテールにしていた髪をといてシャワーを浴びる。
もう、男性部分の意識は割り切っていられるようになっていたので、ラピスに代わりを頼む事もなくなっていた。
しかしここでラピスと話すことは稀だった、ラピスから話し掛ける事も含めて。


「(アキトが料理人になった理由って・・・火星産食材以外にも理由があったんだね)」

「・・・うん」


何かと思えばさっきの話題の続きでもある、料理の事だった。
過去のちょっと辛い話だが、ラピスはそれでも聞きたいようなので、言葉を切りながらも続ける。


「(言って)」

「ナデシコのクルーは才能重視故に、性格が考慮されなかったのは教えたよね?
私は違うよ飛込みだったし、プロスペクターさんの気まぐれで・・・馴染んでたけどね」

「(・・・)」

「補足から言っちゃったけど、戦艦に家庭的な女の子は居なかったと言う事なの、わかる?」

「(つまり料理が下手と)」

「ラピスぅ・・・あの忘れられない過去を一言で表現しないで、マジ辛かったのよ〜」


ユリカにメグミ、リョーコに味わされ泣かされた辛い日々を
同情してくれると思っていたのに、ラピスにさらりと流されてへこむアキナ。
ほこほこと火照る体に衣服を纏い施設から出ると、そこに女性社員が通りかかり。


「子ども?もしかして迷子?」

「いえ、違い」

「私がインフォに連れて行ってあげよう!私って良い社員、模範ね!可愛いし手繋いで行きましょう!」


何か勘違いされてしまった。
彼女は躁の状態のエリナに似ている・・・なんかもう引きずられてるし。
アキナは幼い顔立ちなので、彼女の事情知らぬネルガル社員に会うとよくこんな事態が進行しそうになる。
いつもは寸前で止めれたが、今回の相手は可愛い物好きのハルカミナトと同じ空気を持ってヤバげ。


「ちょっと邪な気持ちなんてのも、ありありで声をかけたけど。
こんな可愛い娘を迷子にするなんて、お姉さんが許さないわ。安心してすぐにインフォにつくから」

「だから違いますってば、私は〜」


暴走中?
話が通じないので仕方なく彼女と共にインフォに行き、パスを確認させて開放してもらえた。
モノ欲しそうに最後まで見られていたが・・・。


「え?じゃあ令嬢?可愛いのにぃ〜?それにスレンダーで・・・いいなぁ、アカツキアキナちゃんかぁ・・・
何処に所属してるのかな〜、転属届出そうかなぁ〜」

「・・・じゃ私は失礼しまーす」


不穏な発言を最後に聞かせてくれた彼女。
彼女にはとても近い将来に再開することなる、とはこの時アキナだけが思いませんでした。

+
+
+
+
+


「はーい」

「おはよーアキナ、また来たよー。元気にしてた?」

「また来たんかい・・・」


ちょうど朝ごはんができた、その時間を狙ってやってくるノーテンキを座った視線で突き刺すエリナ。
しかしそう長くは続かなかった。
何故か・・・そう何故か、仕事をはかどらせる事が出来るからだ。
最初の頃はシスコンの演技の練習するナガレに呆れていたが、ここまで徹底するとさすがと思う。侮れない奴、と。
それも毎日のように、四六時中アキナと一緒に居ようとするようになると呆れるしかなかった。


「うんいい味」


笑顔で自分の作った朝食を食べるアキナも侮れない奴リストに加えている。
何故なら、その才能に豊かさに脅威を感じざる終えないのだ。
今は私の懐刀でいてくれるだろう、しかし成長し自立した彼女はライバルとなる可能性が高い。
何処の陣営も、彼女を取り込もうとしているが成功してはいない。モルモットと侮って交渉しては。


「そういえばアキナ・・・」

「なにエリナさん?」


私ってば子どもを手なずける要領、才能にも恵まれていていたのかしらね?運もあるかもだけど。
でも私は正解だったわけね、図らずも。
同居という手は。


「アンタ、男の話しないわね」

「うん・・まぁ、お兄ちゃんが居るし」

「・・・そうか、ほっ」

「ほっ、じゃないわよ。ほっ、じゃ。
このグロアマシスコン男が、アキナはね男がいないんじゃなくて
女としか話できないようにしてるのはあんた、あんたでしょう?」

「アキナに余計な虫がつかないようにだね、配慮して仕事も上手く行ってるだろう!」


ぼこぼこだぁ。会長と秘書のけんかを少し離れたところから観戦して食事を続けた。
野菜、肉、が揃ったのでいつか作ろうと思っていた火星丼。今日の夕食のレシピを考えてみたり。
あーあー、体を鍛えてるのにまだ並程度。
力とスピード共にまだ足りないなーとか二の腕つかんで思ってみたり、平和な朝の食卓でした。


「ああ、スッキリした」

「・・・」


明らかに言い負かされてへこんでいらっしゃる会長さん、と良い汗かいたわ♪
と、美味しく残りの食事を平らげる秘書さん。
屍になっていたので、仕方なくアカツキの手をとって一緒に出社、急に元気になるロンゲに呆れながらも
黒百合の協力者で居てくれたナガレの思いも知っている。
アカツキは家族を諦めているのだ。
五感を無くし、妻も失い、復讐鬼となったテンカワアキトに父親との事を話してくれた。
だから・・・アキナという存在に拘わってくれているのだろう。

|
|
|
|
|
_
_
_
_
_
|
|
|
|
|


「きゃっ!」

「どうしたの!?」

「あ、ととと。ふぅ・・考え事しててぼーっと、だいじょぶです」

「そう・・貴女、この頃落ち着き無いわね?何かあった?」


エリナと共にいる時間が以前より増して、朝食も同じ席でとっていた。
忙しさは変わっていないはずなのに、時間を合わせてくれているようだ。・・・スキャバレリも最終段階に近いのにおかしな話だ。
おかしいと言えばナデシコへの招待状がまだ届かない事。
ラピスプラス黒百合の能力は大きく、ナデシコの強化にもってこいのはずなのに。実は少し焦っていた。


「何も・・・ないですよ」

「そう。で、イイヒトでもできた?会長の耳に入らないようにね」

「な、ななな・なに言ってるんですか!私はそんな事しない、絶対しないっ・・しません!」

「ふふっ面白いわね」

「・・・」


ぶんぶんと首振って必死に否定するアキナ、その様子を愉快に感じて笑う。
普段、外見と違ってお子様ではない言動ばかり目に付くアキナ、そのアキナが唯一動揺するのは色恋の話題だけ。
・・・真っ赤になって黙り込んでしまっている。


「あ、そうそう。ハイこれ」


母親とだけ生きてきた、男性なんて興味なしというより得体の知れない物ってことかしらね?
あのバカ殿には男の扱いしてないし、妙に扱い上手いのよね〜兄弟だから?それにアレはシスコンだしね。
作ってもらったスープとサラダを食べて、昨日渋るアカツキにようやく了承させた事柄に関する物をバッグから取り出して渡す。


「・・・パンフレット・・・ですか?」


知っている、表紙にナデシコのマーク・・・けっこう厚い。
こんなものが存在したのか・・・民間企業らしい、裏を見ると企画製本プロスペクターとある。


「・・・」

「そう読んでおいて、根回しって奴」


本来のスカウト担当はプロスペクター、これはエリナの仕事ではない。
・・・ないが、この娘は鋭いので事前に色々と情報を与える必要がある。護衛吹き飛ばした前例もあることだし。


「・・・はぁ」


いろんな意味で呆れつつ中を見る。
カラフルな冊子、オモイカネと思われるキャラクターがナデシコのスペックや搭載された相転移エンジンの説明をしている。
いいのか?超極秘プロジェクトなのに。
・・・軍向けの商売用パンフだったようだ、エステとセットでおいくらと紹介されている。
プロスペクターらしい。

+
+
+
+
+

アキナに駄々こねられる事を少しは期待していたかもしれない、何も変わらないとしても。
ようやく懐いてきたアキナを手離すのはイヤだったが、企業人としてNoとは言えない立場。


「火星へ行くんですよね?」

「わが社の一大プロジェクト、それに参加してもらいたいわけでして。
まして貴女は火星出身者、そして多才で貴重な存在。会長秘書さんからもどうかひとつ」

「・・・わかってるわ。離れ離れになるけれどしっかり」

「しないと行けないのはどっちかな〜?お腹がたるんじゃったって〜」

「や、やめ!やめ!くっ、馬鹿にして」


慌ててアキナの口を閉じさせる。
エリナがただ唯一気後れする、年頃の女の子におさんどんさせている事実・・・其処だけは痛かった。
あ、それとアカツキの仕事量を増やせなくなる事も痛いと言えば痛い。


「火星へ何しに行くんですか?戦艦一隻って事は戦果の期待はしていない」

「・・・鋭いわね」

「調査、というわけでして納得して頂けませんか?」

「・・・何か、誰かを探してって事ですか?私みたいに火星で生きてる可能性のある誰か・・とか。
でも・・・いいですよ行きます、それに二人揃ってって事は」

「決定事項と言うわけ、隠したって無駄ね。ついでにもう一つ、情報を与えるわ。
確保してきて欲しい人間がいるのよ。木星トカゲの技術を開発できたチームを率いた若き天才イネス・フレサンジュ。
貴女にはどうしても行って欲しいの、帰還できる確率がなり変わるから」

「そ、そんな・・エリナさん。私の仕事を、あの噂のアキナさんと交渉するチャンスを」

「プロス、アキナは手強いわよ。止めときなさいって、素直に要求を受けた方が・・」

「噂?」

「知らないほうがいいわよ。会長の素行に関係してる、ろくでもない噂よ」

「ですが全部受け入れるのは商売人ではありませんよ。
私の生きがいを奪わないで頂きたい、まずお給料はコレくらいでどうです?」

「生きがい?」

「生きがいよ、誤魔化しようもない。真っ白な本当」


涙さえするプロスペクターに呆れつつ、アキナは『決定事項』を手札に何処まで
ネルガルを動かせるか試そうと思案する。示された金額に驚きながらも交渉を続けた結果。


戦艦は最低でも2つ・・・連合軍にでも借りれば?と提案。
プロス首振って、「様々な事情もありますが・・・傲慢な連合軍相手に交渉は出来ません。目的が火星ですし。」


それが駄目なら作らないと、目的が火星奪取じゃなくて調査回収でも一隻じゃマズイでしょ?と提案。
プロス首振って、「社長派が五月蝿いんですよ、予算追加は難しいですねぇ・・・。来期、時期なら」


じゃあ、遅れてもいいから作って後方支援できる奴!と強く提案。
プロス考え込んで、「それならできると思います、会長の指示さえあれば・・・なにぶん会長もお忙しい物ですから」


「仕事ためてるのよ・・・誰かにばかりかまけてね・・・」
怒りを貯めるエリナ嬢、プロスとアキナは触らぬ神に祟り無しだった。


_
_
_
_
_


「DNA解析の結果アキナには特殊なナノマシンが投与されている事が判明しました、どのマシンチャイルドとも違います。
瞳と髪は特別な処理が施されているようで伝達率を上げると、このように」


写真には金色の瞳、髪から光の雫降らせるアキナが写っていた。
それに見るアカツキ、カナーリ見続けてる。
アカツキが見とれているのでは?と疑問をもちつつも秘書に徹する。


「特別?木連からでも逃げてきたのかな?スパイ?僕を暗殺するにしてもおかしな話だ」

「確かに、あの容姿は日系中心の木連の趣味に合いそうですが・・・。
わかりません、彼女の証言だけですから、それを裏付ける資料は火星にだけ・・・。
しかし、どちらにしてもスキャバレリプロジェクトに参加は決定ですか?造反される恐れは確かに少なく有能ですが・・・」


ロンゲの兄弟には見えぬ顔の輪郭。
そして、多方面に才能を開花させている事を考えるとやはり手元におきたいが。
火星行きは決定済みのことだ、私の力で変える事は出来ないし無理を突き通す理由がない・・・何処か不安なのだけれど。
彼女に不安を感じている自分を消し去って仕事に徹する。
アカツキが席を立ち窓の側に寄り、夕焼けを眺めて続ける。エリナはその後姿を不満そうに見る。


「くどいね、君らしくない。それにますます良いじゃないか?プロス君の言葉を借りるなら腕が確かなら他は不問。
それにネルガルにとって利益ある話をわざわざ捻じ曲げなくてもいいじゃない。不満かい?彼女を手放すのは」

「いえ・・・」

「僕との血縁は否定されたけど味方で居て欲しいからね、戸籍はそのまま。いろいろ優遇してやってくれ」

「はい」

「・・・」


彼らしい言い方。
最初、シスコンは油断させるためのフリだったらしいが、満更でもなかったらしい。
ネルガルという巨大組織の長、会長と言う地位抜きで親しく出来る人間はいなかった。
軽い台詞と飄々とした態度、そして会長としての冷酷な顔以外で話ができる人物・・・。アカツキアキナと名乗る少女。


「・・・」

「・・・うぅ、アキナぁ〜」


そんな事を考えて居るとアカツキがハンカチ片手に夕日を見ていた、後姿も心なしか寂しげ♪
な、泣いてる?・・・演技だったんでしょ?この馬鹿、しっかり本気になってんじゃないわよーー。
あの演技は、その態度は、エリナに言わせれば寵愛とか溺愛とかだったし。

_
_
_
_
_
next Ver 1.0