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黒のラピスラズリ   第六話「彼女接触」

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-----A part
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サセボのネルガル保有のドック。
何度か検問所を通り、まだ出来たばかりの真新しいナデシコを懐かしげに見上げるアキナ。
後ろから声をかけられた。
プロスペクターとゴート、ネルガルでも顔見知りの二人だった。
当然、ただのコックとして乗艦するアキナの裏知る馴染みの二人でもある。


「時間通りですな〜、嬉しい限りです。しかもお届け物まで、いやはや経済的でいいですなぁ〜」

「そうですか、はぁ」


アキナの後ろには立て横奥行き、それぞれ20m-20m-15mほどの荷物。
アキナ自ら指示して、本社から持ってきたエステバリスのオプションパーツと特殊型エステの試作機。それを整備員に渡す。
立ち並ぶエステを見る、まだ動いていない。ヤマダはまだ混入してないようだ。安心した。
と、こちらに気がついたウリバタケが来て握手を求める。パーツにも目をつけてとても嬉しそうだ。


「おおーっ、これが追加パーツかぁーっ・・んっ、んんんんっ!!イイ!ちょっと幼さ残る可愛いこの娘は誰なんだ!?
プロスさん、俺が求めていたのはコレなんだよぉーっ!!うははは!!」

「はあ、こちらは主にコックなど担当していただくアキナさんです」

「あのー、こちらは?」


突然の熱い歓迎に戸惑う、アキトの時は軽く挨拶しただけだったのに
未だ自分の容姿が持つ魅力を十二分に理解していないようだ。


「俺は整備班班長ウリバタケセイヤだ、ウリバタケと呼んでくれ。
何か困った事があったら相談に来てくれよ、俺の十八番は改造だからな。
可憐な美少女の為なら火の中でも飛び込んでいってやるぜ!ハハハ・・そいえばコックだっけ?
旨いメシ期待してるぜ、嬢ちゃん!よろしくな!」

「は、はぁ・・・。これからよろしくお願いします、アカツキアキナです。
(変わらないよね?ウリバタケって)それにしても元気ですねーお世話になります」


うら若き乙女では反応に困る、そんな濃い自己紹介と迫力。
だが、それもアキナの名前と年齢が出るまでだった。
がぁーんっ
引きつる笑顔。
守備範囲外だから先ずは手なずけからだと思っていたのに、そんなに大人だったなんて・・・。と考えてるようだ。


「え?18?俺はてっきり15ぐらい・・・めっちゃ若いウェイトレスさんだな〜とか思ったんだが?
本当か?嘘だろ?そ、そんな・・・俺の足長お兄さん計画がぁ!?光源氏計画がぁ〜〜!?」

お兄さん?光源氏?図らずもアキナと整備員たちの心の声が重なる。

「・・・本人の目の前で言わないで下さいよ〜、プロスさんも何か言ってやって下さい」

「(・・・アキナ、ヒカルゲンジって何?)」

「(それを私に言わせる気ナノデスカ・・・ラピスラズリさん?)」

「(うん♪)」


一つになってから精神の成長が著しいラピス・・・たまにアキナをからかうようになっていた。
精神的に早くもナデシコクルーなラピスに泣きを入れる、表情はウリバタケに呆れた顔のままで。
誤魔化し方手馴れてきたアキナに、まぁまぁと間に入って仲介のプロスペクター。


「ま、年頃の女性ですから年齢は聞かないであげてください」

「プロスペクターさぁ〜〜ん(泣)」

「では次行きますよ・・ん?はい・・はい、すいません案内はゴートさんに」


コミュケが鳴る、たぶんアキト・・・プロスペクターは大事な時に何事かと駆けて行ってしまった。
木星トカゲの襲撃まで時間は残り少ない、ここに残ってアキトを待ってアドバイスをするべきだろうか?
何故かゴートがアキナと一緒に立ち尽くしている。
ゴートホリーは年頃の少女をエスコートなどしたこと無く、戸惑って声をかけれないのだ。
武人のごつい変わらずの表情だが、汗ひとつ流して内心どう切り出そうかと、うむぅ・・と唸り迷っていた。

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結局、こちらのアキトがプロスペクターに案内されて来るまでハンガーに留まっている事になった。
余談にゴートホーリーの一大決心、案内の誘いを簡単に切り捨てたので、珍しい黄昏姿を見れたりした。


「コミュケ、鳴ってるよ?」

「う、うむ・・・」

「もしかして知らない?・・仕方ないなぁ」


困ってるゴートからコミュケを受け取る、カスタマイズされているコミュケに耳を当て声のみの通信を受ける。
ネルガルの本社に属している二人のコミュケは特別製なのだ。
非常時に備えて色々と機能追加されているもので、アキナは複雑になっている操作に戸惑いつつも通信相手と話す。
相手はメグミレイナードだった。
後ろできぃーっとか雑音がしていた、軍属のアレだろう。


「なにかあったのか?」

「えっと・・・・うん・うん、ブリッジで軍人さんが五月蝿いって」


武器など直感でわかるものでないので苦手だ、彼女に頼ってしまったがこれは早くプロスに習った方がいいな。
返してもらい身につ付けて、ゴートはそう思った。
そう言えば軍人が五月蝿い、か。
軍人が五月蝿いのはいつもの事だ、わざわざ今すぐ報告するほどの事でもないな・・・プロスが帰ってくるまで待つか。


「うむ」

「・・・ん?」

「いやなんでもない」


一人頷いているゴートに視線を向けたが、一瞬後にはエステに戻した・・・ちなみにヤマダの負傷は阻止しなかった。
理由は、同情に値しないと思ったからだ。
今回、一歩離れたアキナという立場で、ヤマダの人となりを知って幻滅してしまった。
口先ばかりのヒーロー気取りで、他の兵士達が真面目に堅実な作戦を遂行しているのに動きべき時に動かず、
大切な場面で横槍を入れて、わざわざ窮地の状況を作ってから動く。
そこからは機体の損傷率を物ともせずぶつかって行く命知らず、つまり厄介払いされて来たらしい。
与えられていた二つ名は『不幸を呼ぶ邪魔者』。


「正義は故意に、思い出は自然に、滅茶苦茶なほどまで美化されるんだな・・・」


小声で呟くアキナ、何故なら先ほどからムキムキのオヤジと少女という組み合わせが目を引いているらしく。
整備員達に注目されていたからだ。
周りは整備員だけ、パイロットはまだ来ていない。
『お兄ちゃん♪』に頼んでパイロットを一人増やして貰ったけど、出航予定の3日前には間に合わなかった。
ずっとエステを見ていたので、ヤマダがこそこそと周りを伺いながら物陰伝いに
エステに乗り込むところまで、アキナは呆れた視線で一部始終見ていれた。
誰かに知らせてもヤツは止めれないだろう、それに・・・骨折してもらってアキトに出てもらわないと後々不都合。
サツキミドリ2号までには体と精神を鍛えておきたいし、ココはなし崩し的に乗ってくれると思うけど・・・。


「がっはっはっはっ、すっげーすっげー。
足と手、そして頭までついて最高だぜ!合体までできる、勝ったぜ木星トカゲ!このガイ様に敵うヤツはいない!!!」

「(アキナ、アレなに?)」

「キ、キツイなぁ・・・」
心の友の書いて心友、と熱かった恥ずかしい古傷を知ってるくせに・・・いけず。

「(げきがんがーってなに?)」

「なんだろねぇ・・・」


そんなことすら分かってるくせに、でも・・・。
一つですから。
と、この問答の果てに恥ずかしい返答を貰えそうなので戦略的撤退を選択したアキナ。


「それでは声援にお答えして諸君達だけにお見せしよう!ガァィーーッ、スーパーナッパァー!!」


野次を声援に脳内で書き換えしてるらしい暑苦しい男が、得意げに・・・言い切った。
拳を振り上げ、調整さえされていないノーマルエステが片足立ちになり飛び上がっ・・・落ちてきた。実に情けない光景だ。
イメージフィールドバックシステムで操作しているとはいえ、マシンチャイルド並の伝達率は難しい。
それにプラス未調整となると、それが各所で些細なタイムラグを作る。
積み重なったラグ、その結果バランスが崩れてしまい、エステバリスは格納庫にへたばった。
バカを引きずり出しに整備員達が駆けて行く、入り口に目をやるとテンカワアキトとプロスペクターがいる。
足をそっちに向け歩きだした。
骨折したのに懲りていないヤマダ、ウリバタケがこんなの捨て置こうと提案し整備員の中で議論になっていた。

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「おや?」

「ミスター、艦長はまだ来ていないのか?ブリッジで軍人が喚いて五月蝿いらしいのだが」

「うーん、仕方ありません。出航時刻に間に合わない場合は、このアキナさんを臨時の艦長に」


苦情処理のため、手っ取り早く犠牲者を探すプロスペクター。
ちょうど隣に色んな肩書きを持つ上に多才な人物が居た、にっこりと笑ってアキナの頭をポンポンとたたいて完全に
子ども扱いする。


「プロスさぁ〜ん?便利屋ですか、わたし?」

「うむ名案だな」

「この際、仕方ありませんねえ」


当然の抗議をするも相手にして貰えず、蚊帳の外のアキトを睨むも曖昧な乾いた笑いを返されるだけ。
アキナはこのオモチャ状態から抜ける方策を探すが、そんな簡単に物事は進まない。


「そんなぁ〜・・」


立場上、脳天気屋の極楽トンボを相手にストレス発散はできないがアキナには出来る。
アキナの持つ空気がそうさせてしまう。
ずっと以前からの知り合いのような、人見知りとは違う。
人を見る目には自信がある、何事にも理由を求める性格なのでアキナとの
このぬるま湯的な状態を変えて、アキナの事をはっきりさせようと思っていた。
しかし、その計画は上手く進まず。
二人が色々とアキナをこき使う⇒アキナがいじけてエリナにすがる⇒アカツキの仕事が増える、と
食物連鎖のような黄金パターンになっていたりする。
アキトはやっと話の外から中へ、それとアキナがここに居る事に驚いていた。


「ああ、彼はさっきコックとして雇いましてね。艦長にも用があるとか何とか・・」

「あの・・ネルガルの人だったんですか?」

「どうされました?・・艦長と同じくお知り合いですか?」

「え、えーっと・・ちょっと。彼とは、えとその」

「ほぅ」


今まで男性を呼ぶときに曖昧に言葉を切った事がないアキナ、その彼女が言葉を濁すとは。
意味ありげにアキナとアキトを見比べるプロスペクター、うっ・・嫌な考えが浮かんできたので逃げに入る。
強引な切り替えだが、襲撃でうやむやになってるだろうと希望的観測。


「それより〜、アレ。パイロットいなくて大丈夫ですか?」

「・・・心配ないとは思いますが」

「そうだ、サツキミドリの前にクレシティーの軍港で一人待機している」

「そうですか。・・・」


アキナの指す方向には五月蝿いヤマダ、と整備員がウヨウヨ。
エステバリスがようやく指定の位置に戻されようとしていた。
むしろ、ゴートとプロス共にヤマダの負傷を歓迎している様子、でも不安げなアキナ。


「心配ありませんよ、ま・」

「「「「うわぁっ」」」」


不安そうなアキナを勇気付けようとしたが、突然の大きな揺れにアキトとプロスはよろめき、ゴートは壁に手をつけ。
アキナはゴートにしがみ付く。
周りに居た男達の視線が集まってさすがに居づらいらしい、プロスとブリッジに走っていった。


「おーい、そこの少年」


アキトが気がつくと何時の間にか彼女は居なくなっていた、プロスと行ってしまったわけでもないのに。


「ん?」

「俺の宝物を取りに行ってくれないかー」

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「でも来ないですよねーネルガルの人、新設だから忙しいのかな」

「いえ向かって来てますよ、ついでに敵も」


オペレーターが話し受けていたウィンドウを移動させて見せる。
そこには三名、そして立体地図が示されていて見覚えある男性二人と見知らぬ一人の少女。


「あ、レイナードさんも既にいらっしゃったんですかーいやーすみませんねー」

「いえいえ、でも結構暇しちゃってますけど何か仕事ありませんか」


ハルカほどマイペースで居られないし、馴染むためにはまず自分のお仕事からと考えるメグミ。
三人の内知らない一人に視線が思わず合いニコリと微笑んであげた。
目逸らされた。


「・・・、いいですけど」

「ブリッジに向かっていますが何か問い合わせとか来てますか、まだ人員配置も出来てないありさまで」

「いえ特にはないです。ちょっと上にうるさい感じのがいますが・・・艦長ってまだなんですか?」

「あー・・・それは」

「そうよ、ってあなた誰?ネルガルの人っぽくないわね職場は何処?艦橋?」

ぐいと横からハルカミナトに乱入された。

「ええそうですけど」

「わぁかわいい声♪メグミちゃんの相方なのかな」

「いえ彼女は」

「それでまだナデシコは動けないんですね?私が行きますからそれまでに、オペレーターさん?」

「はい。まだ稼動しているのは最低限の区画と動力のみです」


誰も艦長を探すという最善の方法をしないので、ルリが律儀にもナデシコの置かれた状況を話して
三人に艦長の調達を願い出てみた。それほど期待していなかった緊急発進、ピンチでどーしようもない
のならと少し話をつづけた。
受け答えしやすい事務的な内容の話、時々関係の無い茶々を隣人に入れられたが普通の人たちとは
違っているはずのウィンドウの中の彼らは慣れた様子で的確に物事を決めていく。


「では、アカツキさん。時間短縮はできますが進めますか?実際周辺の施設は迎撃が間に合っていません。
連携に幾つか遅延が発生してます、それらを省けばナデシコも多少早く動けるはずです・・・艦長次第ですが」

「そうですね。
えーとパイロットの調達を私が、ゴートさんとプロスさんは艦長と艦橋を一刻も早く動かして貰いたいの」

「探すのは構わない。
もう既に敷地にいるはずだからな、パイロットは必要だがさっき・・」

「待ちなさいよ、敵の的になりそうなんでしょ?
なら時間稼ぎさせた方がいいわ、パイロットぐらい警備に早くそろえておくものだからねえ」

「それがですねえ・・副提督、いま負傷して」

「なんですってぇえー!?ちょっとこの艦大丈夫なの沈むわよ!艦長は!?まだなのーどうして
来てないのよ、キー持ってきてるんでしょうね?まさか忘れてくるんじゃないでしょうねー
・・ああもぅ駄目、もう即席でもいいわ、パイロットつくって出して時間稼いで」

「えーでも素人なんでしょ大丈夫かなー?」

「でもさー私たち軍人じゃないし、正しいのかもよ」


ミナトとメグミは上から会話に入ってきた仮にも上官に疑問を持ちつつ、我知らずの態度。
仕方ないのだろう、戦艦に乗って落ちた経験が無いのだから。
危機感持てるのは軍人として正しいのだろうが、素人ばかりで状況が悪い今はあまり喚かないほうがいい。


「実戦を知っている我々が不安にする必要はない」

「そ、そうですが・・民間の舟で沈むなんて外聞が悪すぎじゃ・・・ないのよ」

「まだそう決まったわけじゃないと思うがね」

「・・・・」

まだ言いたいことがある、そんな顔のムネタケだがやっと静かになった。

「う、なんだか私余計に緊張しちゃう。だ、だいじょぶですよね〜」

「メグミちゃんが戦うわけじゃないでしょー早く来ないかな。うーん」

「席離れてどこへ?」


背伸びしてハルカが立つと星野ルリが反応して言う。
飲み物よ、メグちゃんは何がいーい?仕事熱心なのが年齢低いルリなのがちょっと悲しい。
もう既にプロスペクターたちの存在忘れてるブリッジだった。


「では私は艦長と副長を」

「ああなっては聞いていないだろう行ってくるがいいミスター」

「え、ちょっと待ってー」


プロスと一緒にアキナは頑張り走る、格納庫までは少し距離があるが脚力はプロスの方があるようで
スピードは適時の二割増しだった。艦長の位置をルリに知らせてもらった、トップの気楽極楽に苦労して
いる中間管理職だね♪ラピスはアキナに言ってるが的得すぎてるのでノーコメントにさせて貰っていた。

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「おまたせしましたー、私が艦長のミスマル・ユリカでーーっす!!ぶいっ♪」

「「「「「ぶいーーっ!?」」」」」


その人は艦長であるらしい。
その人は人生を真面目に歩く性格ではない、右足を一歩前にだしたら左足を振り子にして
二歩目も右足。ホップステップ、ジャープッ!!なのだそうだ、あとで聞いたけど。


「ばか?」


固まっているムネタケ・・・軽い・・・軽いわ・・・これは戦艦よ、木星トカゲと戦う船よ。
それでも甘い認識と言わざる得ない。
何せそのまま、クルクル踊りだすよーな性格をしているのだ。
今までは運良く隣に彼女の手を取り、引きずられてた哀れな人が居たお陰で適度なセーブがされていた。
・・・でもこれからはどうなる事か見当もつかない。
だって、そうだ。
ここには王子様がいるのだ。
ついでにお姫様もいる、こぶつきの。


「キィーーーッ、さっさとやっつけなさいよっ!!」

「さてと、艦長。遅刻の件については後でたっぷりと聞かせていただきますが」

「は、はひ」


奇声をあげたキノコを無視して、すわった目で怒るプロスに冷や汗流すミスマルユリカ二十歳。
・・・情けない、副長もへばって頼りないですが。


「マスターキーを」

「ジュン君」

「は、は・いぃ・」


息絶え絶えのジュンが荷物を降ろし、その中からおもちゃみたいな金色の鍵を渡す。
受け取って作戦を提示、仕事早くて助かります。


「えー、、まことに申し上げにくいんですが、その作戦ですとパイロットの確保が必要でして」

「え。いないんですか?」

「ユリカどうしよう?」


どうしようって、副長が言わないでください。しらーー・・・としてしまった、こうなれば提督が
打開策を言ってくれると期待して待ってみる一同、既にキーは差し込まれナデシコはエンジンを動かしてるのだ。


「仕方あるまい。誰かがナノマシンを打ってパイロットを務めるしかない、兵器操作経験者でも良い。
いないのか?・・・ムネタケ、乗り込んでいる軍関係者から志願者を募ってみたまえ」

「しかし!これは明らかにネルガルの過失ではないですか、我々はエステバリスを扱えませんしー
そのエステバリスとやらが使えると決まったわけでも・・・。
フクベ提督もネルガルは軍を蔑ろにしていると感じないですか、パイロットも」

「そのヤマダさんですが、医務室でなにやら今の話し聞いて暴れてます」


あー、そう。
どーでもいいけど呆れられてるよ、負傷したパイロットさんとは逆方向に大変な人です。
そのパイロット、このヤマダジロウとかからコミュケが繋いで欲しいようなので出してみます。


「おー聞いてるかー俺が出てドカー」

ブチっ

「元気ですがどーします出しちゃいますか?生還率が一割切りますが」

「こらまだ途中だっ艦長ー直訴す」

ブチっ

困ってる艦長にプロスペクターが電卓たたいて、パイロットの保険とか話してました。
でも、あれ?
緊急ですので何も言わずに出してみました、いつのまにかエステバリスが一機戦線投入される直前でした。


「あ。アレこれどうなって──、狭いせまっいですって」

「あれ艦長。はいどいてどいてーブリッジ、確保したよープロスさん?
ほらこのとーりIFSあり経験ありの人よ、契約は私がしてあげたからいーね?」

「あれ?彼ですか、それにアキナさん?えっとまさか、戦闘には出ませんよねえ?」

「でもー」


間近でじっと観察してアキトの様子を確認してみると、不安になる。
腕をまわしてアキトの首に手を入れる、勝手にあがる体温を無視して青い輝石があるのを確認。


「(もう余計なことしてアキトの初心な少年心を毒さないの)」

「(ええー!ベタベタしすぎた?・・・あー)・・・・これちゃんと持ってるね。
トカゲ苦手なら良い薬になるかもしれないし、私もいくよ
今は君がちゃんと操縦できるようにサポートするからイイ子にしてて」

「(心配だね)」


アキトは兵器は未経験、その通りだ。
テンカワアキトに身体をしっかり預けてエステバリスの武器確認して、敵の情報を自分のみ確認。
初戦でパニックになられては困る。


「アキナさんに何かあると本社から苦情が来ますので・・」

「お兄ちゃんは駄目な子だからねー」


エリナが相当気を使ってくれたので、ナデシコではかなり自由を手にしてるアキナだ。以前は半径一メートルに
正装男性が近づけなかったのであるから。今はアキトに密着・・・自分なので遠慮が無い。

プロスペクターはこの映像が本社に流れないように細工に勤しむことになる、アキナの両手だけでなく
顔もシスコンが近づけなかった域を越してるのだから、ナデシコ組と言われるネルガルのシークレットサービス達に
あとで何をされるのか・・・コック見習に同情した。それと共に何故こんなにも彼に入れ込むのか不思議に感じていた。
たしか火星出身でしよね・・・お二人とも。


「ねえ聞いてる?」

「うぁ、振り向かないで近い近いち・・ぅ・・・」

「あ」

「あら真っ赤っか」


もうアキナさんの操作で地上です、なんか手馴れてますが・・・何者なんでしょうか?
アドバイザー・・・としか情報はないです、メグミさん覗き込まないでください。
エステの中の二人ほどではありませんが顔近いと思います、抱きつかれるハルカさんだけで十分ですので
変な好かれ方は・・・慣れない受け取りにくい好意です。


「アキト?テンカワ・・って、アキト?アキトなのー?えーっ!!?
アキト、ユリカだよー憶えてる?憶えてるよねだって私のピンチには必ず来てくれるんだもん、うん」

「聞こえてませんよ」

「迎えに行かないとね、ナデシコ前進!王子様が待ってるんだもん、遅れちゃだめだよ。
ジュン君は知らないと思うけど火星で一緒に遊んで、それでユリカのね。アキトはね王子様で」

「聞こえてないですね」

「なんなんでしょうか・・でも、なんとか囮してますよ」


彼と彼女が乗ったエステは、中はパニックですが・・・主に男性のテンカワさんが。
でも順調に撃墜されることなく敵を引き付けています。
こちらはハルカミナトさんの手によって進み、順調に主砲も打てるようになる予定です。


「うん私も彼に間に合わせてあげるつもりだけど、あ、メグちゃん一口いい?」

「さすがですねー、これ冷たいですよ。はいどうぞ」

「通路出ます敵領域に九割、チャージ完了」

「グラビティブラスト発射」


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俺にペンダントをくれたあの子との再会は仕組まれていたのだろうか、突発的に出会ったミスマルユリカを
追いかけていたはずなのに。
着いた先は戦場で逃げ出したくなるが、両親の死の手がかりになるはずの人のつて・・・それは逃せなかった。
今更どこでも地球は戦場に違いないのだけど、それでも最前線となるのは軍隊だ。

よりにもよってパイロットが骨折したのを見ていた、その時はなんだろうこいつはと思いオモチャを手にして
懐かしんでいた。それが悪かったのか何が悪かったのか、俺にはわからなかったけどIFS持ちという理由で
兵器に乗せられる・・・というか乗って逃げようとしたんだよね。
人より大きな物体が動いているというのは本能的に危険を感じるはず、それでも地上へのエレベータに向かう
途中にアキナと名乗った少女は軽々とハッチにのぼり無理やり乗り込んで来た。

「(無理やり押し切れ。敵は弱い甲斐性なしの青二才)」

「うあ、心のネコが囁いたよ酷いこと、をよよよ」

「(・・・マジ泣きだ)」

どんなに手早く丸め込もうか、説得しようかと思っているところに、ラピスのあまりにもな助言にへこむ。
否定はしまいが言い訳はする。

もはや慣れた動作で小さな身体をコックピットにねじ込んだ、身軽である利をもうモノにしているから
着地時にアキトを潰したりすることはないはず。
トカゲパニック状態のアキトを、年頃の女の子と密着パニック状態にする為にしなを作って、駄目だよ
お兄ちゃん♪と言ってやった。これくらいのサービスはアカツキとエリナに付き合っていれば
身につく、あはは・・・代償はすさむこころ一つだ、安いもんだね?
これやる度にラピスが変になるのが心配だし、ダイレクトに体の状態が変化するのは少し困ってしまう。
赤面してしまうのだ。
肌が白いから余計に分かりやすく決して恥ずかしいからじゃないが、外からは不本意な扱いを受ける。
エリナとかサチとかアカツキまで抱きついてくるし、プロス赤面するなゴートは半径5メートル内接近禁止。


「もー何してるの。コックって言ってなかった?お兄ちゃんメッ」

「(う・・・鼻血、最高あきにゃん・・・ふふふふふもっとしてネコかぶり、にゃ〜〜♪)」

「あ、えっとこれはね・・・その」

「あーもー・・・いーから出るんでしょ?無許可で、なら懲罰もんだよネルガルに雇われてても。
許可欲しかったら私の言うとおりに逃げてくれる?」

「え!?いいの勝手に」

「あのメガネかけたプロスさんとは知らない仲じゃないし、ネルガルなのよ私そう見えないかもしれないけど。
鈍いな〜、ここに居るって事は戦艦ナデシコに乗るんでしょ?沈ませちゃマズイでしょ、折角見つけた就職先。
今は緊急事態なの、ゴメンなさいね死なないように私がサポートするから」

「あ、あのやっぱり降りたいんだけどIFSだってあるだけで」

「駄目だよ、地球じゃ珍しいもんなんだからね軍隊に徴発されたくはないでしょ。ナデシコに乗りこんでる
軍人ならあなたを捨て駒するためにやりかねないんだから」

「(アキトかわいそ・・・小さいのにアキナ生意気だよね、うんラピスが助けてあげる)」

スッと気がつかれないまま片手の自由を持っていかれるアキナ、若いアキトにラピスは今まで知らなかった
感情の芽生えを感じているらしかった。守ってくれるアキトでなく守るアキトは新鮮で、機嫌も良くなった。
片手でエステのコードをより良いものに書き換える。

木星蜥蜴の姿を見とめると緊張して、でも隣りに女の子が居ることでプライドから恐怖を抑えるアキト。

「くっ、本当に戦えるのかよ俺」

ブリッジとの通信が開くと、視界の邪魔になってしまったし、ミスマルユリカが艦長であることも知ってしまった。
・・・・心配だがやるしかない。

「ねえ聞いてる?」

「あ。アレこれどうなって──、狭いせまっいですって」

「うぁ、振り向かないで近い近いち・・ぅ・・・」

「あ」

いつのまにか小窓が増殖していた、そのひとつひとつ特に女性陣からの視線を痛く感じた。

「あら真っ赤っか」

「あれ艦長。はいどいてどいてーブリッジ、確保したよープロスさん?
ほらこのとーりIFSあり経験ありの人よ、契約は私がしてあげたからいーね?」

もう何割か、やる気が削がれてしまったが母艦たるナデシコは動いているらしいし
この子は俺に命運託してくれてるので、ヒーローになり損なった自分だけど今はもう一度戦おう。

まだ空中に浮く窓と話してる彼女、動かし方なんて知らないが止まっていたら標的だ。前へ進んだ。
視界の隅、ナビゲートを示されて彼女を見ると頷いてくれた。

「右きてるから全力で進んで」

「進路はまっすぐっ!?いける」

「そうそのまま行ってまだ敵は集中していないわ、だから相手せずに」

「く」

「ちょっと少しずれて、って違う」

「うぁぁっ、アレ?倒せた?こんなに弱いのか、それなら」

進路に割り込んだ無人兵器、とっさに避けようとしたがスピードあってそのまま一機二機と破壊してしまった。

エステは強くてバッタでは相手にならない。
小型ながらナデシコから受けるエネルギーはバッタの比ではなくなる、技術は並んでいるのだから。

他の場所にいたやつらも集まって来ていたし、だんだんと包囲されつつあったのだがアキトには自覚がなかった。
初めての戦える戦場。
その高揚感は感じたことの無いもの、だから狙う敵の数が増えても気がつかず背後から鎌首もたげる敵に
それは見事なチョークスリーパーを決められた。


「調子に乗るなぁーっ」

「うぐ、ぉぉぉぉっ・・何をするんだ敵がきてるのに、げほっ
まだいるんだ!邪魔するなよ」

「見て、もうこんなに囲まれてるのに逃げないとやられちゃうよ?お兄ちゃん、ピンチだよ」


首捕まれて無理矢理に見せられたのはセンサーで捕らえられた敵の位置、沢山敵が来てる。
平面から立体切り替えてみると戦場の真っ只中だと理解できる、湧き上がる恐怖、イヤだ!
思い出すだけで・・・逃げられない後悔した。
最初から逃げていれば良かった、このままじゃアイちゃんの時と同じ結果になってしまう。


「はぁっ、は・はぁ・・くっ!なんで今、動かせない・・んだ?
戦えるんだ、こんなのどうってことない!逃げるなんて」

「ねぇ本当に大丈夫?代わりましょうか、強がりなお兄ちゃん?守ってあげようか?」


敵が居るのに、危険なのに・・・こんな酷い戦場で?どうしてそんなことを言うのか、その綺麗な目で
覗き込んでこられては血が頭に上って仕方ない。
また俺は何も出来ないのか、アキナちゃんだったよな。
年下の女の子に助けてもらうなんて・・・足手まといにならないようにだけはしないと。
今は彼女の役に立てる。
そして守れるはず。


「・・代わるわ、ごめん。怖かったでしょう」

無言になってしまった俺を見ていたが、インターフェイスに手を伸ばして代わろうとする。
そんな優しげな声で言わないでくれ、俺は・・俺は・・。

「ごめん、迷惑かけるトコだった」

「あなたいいひとねありがとう。作戦は正直に言うと、囮だよ・・っとこちら準備OK」

アキナが通信を開き、ユリカを避けてルリにこちら準備OKと伝える。

「はい、海岸まで頑張ってください。ナデシコも間に合います、間に合わせますとこちら」

「私がアキトを迎えに行くからねー」


ぶんぶんと手を振って存在をアピール、アキトに抱きつくアキナが視界に入っていないことは幸運なのだろう。
でなければブリッジが混乱してしまうだろうから。

ラブコールされているが何故だがアキトはいい顔しない。何故なのかと言えばこの時は敵から逃げることしか頭に無かった。
久しぶりに会った幼馴染ぐらいしか思っていなかった。
でもミスマルユリカが艦長と言われて、信じきれなかった部分もある。
あのユリカがトカゲと戦う艦長?火星で連れまわされ大変だったことを思えば簡単に納得できちゃいない。

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