短編「とある休暇に至る、シオンの計略」















不快な空気は必要以上の質量持って体に纏わりつき、誰かの悲鳴がいつ聞こえてもおかしくない閑散とした街を
二人で歩いた。
月が満ちていく夜に。
・・・そんな特別な夏が過ぎ去って、はや一ヶ月の月日が流れていた。
今日も丘の上の王子様は平和な日々を過ごす、メイドに起こされ学び舎に赴き
帰宅時には出会う誰かと一緒に時を過ごして、拗ねる妹の機嫌取りをしたりしていた。



「不思議ね、静か過ぎると逆に不安になってこない?
あの二人の姿を見なくなって、私達だけの生活が手に入ったのに。変よね・・・」

「そうですか?私は別に・・・翡翠ちゃんは、お屋敷が破壊されなくなって喜んでいましたよ。
志貴さまは・・・存じ上げませんけど、お二方とも確実に日本を出国されたそうです」

「本当に?」

「・・・どうして私を睨むんですかー、私はこんなに秋葉様に忠実な使用人ですのにー」



この笑顔は要注意。
琥珀の生きる術だった、完璧な演技は簡単に抜けないらしい。
それに秋葉は苛ついて、しかし同時に警戒もする。
志貴争奪戦が始まって以来、謀略が趣味と化しているこの人物には、
私のお仕置きなんて少しも堪えておらず、むしろ喜んで遊び相手にされてる気がしてならない。

一番油断ならない相手は、今もこうして隣に、八年前からずっと、誰よりも私の近くに居た貴方なのだから、
信用できないのは当然でしょう?
私に黙って出て行こうとしたくせに、夏には暑さにやられて壊れて・・・今度は何を企んでるのかしら?

でも今はそれより気になっている事がある、同盟者でもありライバルでもあったアルクェイド。
そして、共通の宿敵シエルが同時に姿を消したことだ。
・・・ほんの数日前の出来事だ。
慌てた様子で屋敷に来て、別れの挨拶以外にも何か私に言いたい事があったように感じたが・・・
結局、行ってしまった。
気になったのは、あの天敵の代行者が私の嫌味に何も言わず
気の毒そうな笑みを浮かべていたこと・・・腑に落ちない態度だった。
兄さんにたらし込んだ使い魔も暴れていたが、アルクェイドが無理やり引き取って行った。
とどのつまり、異国からの来訪者達は本当に突然に日本を去って行ったという事。
・・・また何時戻ってくるか知れたものではないが。



「志貴さまがそう仰られていたんです。本当に良かったですねー、秋葉さまの心配の種が減って」

「そうね、それにしても・・・兄さんは変わらないわね。
一時の離別でも少しは落ち込んで下さった方が、気を寄せる人間たちも安心できると言うのに」

「はい、志貴さまの周りには常に沢山の女性たちがいて、誰とも必要以上に近づけませんから・・・」



淡々と翡翠が断言する、秋葉はそれを咎めない。
翡翠はメイドとして、秋葉は妹として生きるのだと決めていた、のに。
・・・志貴が築いた複雑な女性関係が巻き起こす騒動に対して、思いを同じくする者として。



「そういえばシオンは?」

「アルクェイドさんの協力が得られなくなりましたから・・・帰国の準備でもしているのでしょうか?
そう言えば今日は朝から姿を見かけないですねー、挨拶も無しに出て行ってしまうような方には見えませんでしたし」

「確かにあの人以外、この国には真祖はいないはずよ。
・・・真面目だし完璧主義者だから、ショック受けて倒れたりしてなければ良いけど・・・少し見て来るわ」



姿の見えない友人の様子が気になって琥珀に聞く。
友人ではあるけれども、志貴の近くにいる女性のひとりである事を忘れてはいない。
念の為、行動把握はしておこう。



「私は少し残っているお仕事をしてきますから、翡翠ちゃんお願い」

「はい分かりました」



一人は庭へ、一人は部屋へ、一人は片付けをした。
在り来たりで平穏平凡な午後が過ぎようとしていた。
数日前までは破壊と非常識が、このロビーの空間を形作っていたというのに。






 ■ ■ ■ 






二人で坂を登っていた、いつもは帰宅時間を故意にずらす為に公園で別れるのだが。
今日は秋葉に二人の、特に志貴の決意を示さなければ、ならないからだ。



「志貴」

「大丈夫、大丈夫だって秋葉も理解してくれるさ」



違う、私が欲しいのはそんな言葉ではなく
ただ、手を繋いで欲しいと言うこと。



「いえ、それは問題ではないでしょう。私は・・・」



シオンは夏以降も真祖の協力を得るため、日本に留まっていた。
未だアトラス院に完全復帰していたわけではないので、頼る組織はなく。
しかし、ある意味最悪な出会い方をしたにも関わらず、何故が馬が合い良好な関係にある秋葉。
その了解の下、遠野の屋敷に居住するようになっていた。



「私は・・・」

「秋葉も鬼じゃないんだし、取って喰われる心配はないと思うよ」

「下らない冗談には聞こえませんが・・・」

「・・・はは」



鬼朱の血が混じる遠野一族の当主に対して、いや・・あの秋葉に対して
こんな軽口が言える男性は、隣にいる朴念仁以外にいないだろう。
男と女は理屈ではない、と言っても不思議だ・・・私は何故この人を選んだのだろう?

シオンは遠野家に住み始めた頃を振り返る。
異邦人のシオンは日本の季節の移り変わりを、日本人より敏感に体感していた。
夏という季節が薄くなって、霞んで消えていくのを感じていたように。
日々、積み重なっていく己の心の変化を無視できなくなって・・・。

それはシオン限定の、しかしすぐに対処すべき大問題だった。
幾つもの分割思考が日に何度も暴走し、志貴のことだけを考えてしまうようになったのだ。
結果、隔離の意味で志貴専用に一つを割いたのだが・・・症状は軽くなるどころか悪化の一途を辿り・・・。
そんな状態を知る者は少なく、表面上は以前のまま。
だから、今現在こんな状態に至っているのだ。



「約束は守ってみせるよ、安心して欲しい。
それにさ俺が守るのはシオンだけじゃないだろう?」

「・・・はい」



手の暖かさを感じ、柄にもなく頬を紅潮させる私。
計算外、ではない。
しかし、我ながら稚拙な戦略を立案実行してしまったものだと幸せに酔いながらも反省していた。



「おかえりなさいませ・・・志貴さま?シオンさま?」



出迎えた翡翠、視線が二人の間に固定される。
繋がれた手を凝視してしまう。
志貴の隣にいる相手がアルクェイドだったなら、少し幼稚だが
そこがアルクェイドらしくて可愛い親密さのアピールだと思い、内心羨ましがっていただけだろう。
しかし、常日頃からシオンの性質が自分に似ていると感じていた翡翠は、この行為が信じられなくて
でも目の前にある事実は変わらないので対応に困っていると、志貴がぎこちない笑顔を浮かべて翡翠に尋ねた。



「翡翠・・そのただいま、秋葉居るかな?」

「はい、しかし・・勿論いらっしゃいますが、その」

「この時間なら自室だと思います、行きましょう」

「あ、うん。翡翠は仕事に戻ってていいから、」

「志貴さま?シオンさま?あの、こんな事を尋ねるのは差し出がましいのでしょうが・・・。
その、お二人で秋葉様にどんな御用があるのですか?それに何故・・・手を」

「これは私が志貴に頼みました、それと秋葉には結婚について話があるのです」

「え、けっ・・こん・・ですか、はあ・・・どなたのでしょうか?」

「志貴と私ですが、何か?」

「秋葉には報告しないといけないからね。まぁ何て言うか・・・そういうことなんだ、翡翠?」

「・・・うそ、ご冗談を」

「本当なのです、翡翠・・・大丈夫ですか?」



シオンは遠まわしな言い方をする性質ではないと知っていたし、志貴も嘘をつく人間ではない。
信じたくなくて、姉さんのように笑ってしまった。
しかし二人は笑い返してくれない、まだ本当だと嘘ではないと翡翠に言う。
その言葉の意味を理解すると、頭の中が空っぽになってしまって、ふらふらと壁に寄りかかる。



「翡翠、休んでいたほうがいい。秋葉には言っておくから・・・無理するんじゃないぞ」



私の手を離して心配そうに翡翠の顔を覗き込む志貴、それは罪に自覚がない者の特権だろう。
しかし、私は冷たいと罵られても良かった。
私と手を繋いでいて欲しかった、私を選んでくれたと安心させて欲しかった。



「志貴、行きましょう」

「え、でも翡翠を」

「行きましょう」



志貴は何も言わなかった、秋葉の部屋は無人だったので屋敷内を探すことにする。
部屋に居なかったとなると・・・窓から庭を見ると琥珀がいたので聞いてみることにした。



「琥珀、秋葉の居場所を教えてくれませんか?自室には居なかったのですが」

「あ、シオンさん。秋葉さまですか?えーっと、会いませんでした?
何処で入れ違って・・・おかしいですねー、シオンさんのお部屋に向かわれた筈なんですが」



私の部屋に向かったらしい、それはかなり前のことだと知る。
・・・私に与えられた部屋は南よりの窓が二つある客室で、日本の基準で言うとかなり大きな部屋だった。
が、
私が持ち込んだ山のような資料、整理してない。
他には琥珀から譲り受けた材料、本能的に触れていない。
前当主の収集していた本が数冊、珍しかったので、つい勝手に持ち出して解読中のために。
・・・つまり荒れ果てた部屋を他人に見せたくなかった。
男性であれば女性の部屋に色々と思うことあるだろう、だから志貴は勿論のこと、今まで一度も誰も入れていない。



「急に駆け出して何かあったのか?」

「まずいです、緊急事態です・・・急ぎます、志貴は絶対部屋には入って来ないで下さい」


確かに私は路上で眠ることも厭わなかったし、半死徒の身空で
大敵の太陽の下を歩くという危険な真似もしたが、生物学的には正真正銘の女性である。
世間一般の感覚で言うプライベートというものが私にはない、あるのはアトラシアとしての生き方だった。



「それって、どういうこと?俺たしか今まで一度も入れてもらったことないけど」

「一言では説明し切れませんし、時間がありません。ともかく、私が合図したら入って来てください」


羞恥心があり躊躇われたが、計画変更だ・・・仕方がない。
想い人の志貴に私が不精で不出来な人間とは思われたくないので、自室に招いたことはない。
タイミングは最悪の、しかしいつかは志貴を招きたいと思っていたので、これは機会のひとつ。
扉を開けると予想通り満面の笑顔の秋葉が待っていた、さて・・・。



「ようやくお帰りになられたのね、早速だけど聞きたいことがあるの。 これは一体どういうこと?」

「この有り様は確かに女性として恥ずべき状態と、しかし研究中は時間が取れないのです」

「へえ、何の研究・・・いえ誰の分析をしていたの?あの真祖の協力は得られたのでしょう?」

「はい、おかげさまで」

「・・・いいこと、・・・私は怒っているのよ、この髪の色が見えていないわけじゃないでしょう?
シオン・・・あなたがいつのまにか、私の兄さんとこんな・・・こんな・・・」



笑顔から、一転憤怒の表情へ・・・まるで能の仮面のように。
そんな秋葉の手には一枚の写真、それは代行者と真祖が日本を出て行った理由に繋がるひとつの物的証拠。



「そのことで話があるのです、聡明なあなたなら私が」

「私にはない、わよ・・・でも一応聞くだけ聞きましょう」

「妊娠しています、勿論志貴の子です」

「・・・は?・・・妊娠ですって・・・兄さん・・・兄さんの・・・嘘よ」



順序が逆の気がしないでもないが、私の告白に茫然自失となってしまった秋葉。
志貴争奪戦に一番最後に参加したシオンは、一緒に過ごした時間や、いきなり戦闘という出会い方をした点で、
他の誰より不利のはずだった。
しかし、二人は運命のように急速に仲を深め・・・そして結ばれた。
ルーキーに決定打とも言える、場外ホームランを打たれたショックが
あの二人にはどれほど大きかったか、その後の状態は推して知るべしである。今の秋葉の状態を参考に。



「なら、志貴に直接説明して貰いましょうか?部屋の外に」

「・・・なんてこと、そうなのね?シオンは私を裏切らないと思い込んで」

「敗因はそれだけではありませんが、そうですね・・・話しておきましょう」



ちなみにホームランボールと同等の意味を持つ写真は、写真立てには入れず肌身離さず持っている。



「それは私と志貴の初デートの一枚です、と言っても真祖や貴方のように一日を費やしてはいません。
他の誰かに悟られないように計画しました、志貴とショッピングをして、ゲームセンターで遊戯に興じただけです。
けれど良い思い出です」



てっきり怒り出すと思っていたが、秋葉は落ち込んだまま大人しく私の話を聞いてくれた。
話し終えても無言の秋葉にかける言葉が浮かばず、志貴を呼んだ。



「兄さん?シオンと一緒になるというのは・・」

「ああ・・・反対しても俺は彼女を」

「やめて!聞きたくないです・・・もう私のものにはなってくれないと言うの?」

「秋葉が俺の大切な妹だというのは変わらない、でもシオンとは違う」



最後の望みだったのだろう、否定して欲しいと訴える秋葉は普段の
鉄火面のようなポーカーフェイスを脱いで感情を爆発させ、哀願と言える程のそれは叶わない。
何時になく覇気を無くしてしまった秋葉、志貴に任せた方がよいだろう。
・・・私は信頼している、部屋に二人きりとなっても志貴は流されないだろう。



「少し出てきます」

「別に気を使っていただかなくとも結構です、 ・・・ただ・・・兄さん、少しだけ背中を貸して下さい」



泣き顔を私を選んだ志貴には見られたくなかったのだろう。
志貴はその頼みを受け入れる、私は退出すべきだった。
秋葉は聡明だ、ただこれは偶然か判断しかねる。
表裏無い兄と義妹の絆を、私に見せ付けるのは・・・遠慮したかった。
これは私が負うべき罪ではないと、志貴専用の思考が抗弁しているが意図的に無視。

簡単な説明を、なるべく感情を混ぜずに秋葉に話したあとは
志貴に見せられない程散らかっている部屋を片付けて、志期を招き入れ秋葉の慰め役を任せるつもりだった。
こうして、計画は多少変更され、反撃も受けたが当初の目的は果たされた。私の計算通りに。






 ■ ■ ■ 






シオンにいつからと聞いたら、二週間前の夜に志貴に告白してそれから密かに逢引していたと答えた。
今までなら、兄さんを威圧して、シオンと戦闘に入るところだけど、今回は状況がまったく違った。
大切な人は絶対に守る兄さん、その決意は固く、頑固とさえ感じるけれど、私はそんな兄さんが好きだから何も言えない。

それから数日間、一人きりになった時などに、ぽっかりと心に穴があいたような虚脱感の中に居た。
二人がごく普通に話しているところを目撃しても、以前のように見過ごすことはできない。
意識的な反転や沸々と沸きあがる憎悪はないが、シオンを羨ましいと思う嫉妬と
シオンなら私の理不尽な怒りを理解してくれるという安心と、激しいせめぎ合いが私の中であり、精神的に疲れていた。
単純な・・・だが無視できないほどの巨大なストレスが溜まりつつあったのだろう。
私はついに悪魔に。



「こんな時にも笑顔で居るのね、そうよね・・・」

「はい、おかしいですか?」

「いいえ、琥珀は実行犯にはならないタイプだもの・・・私が翡翠に目を光らせていたのは正解でしょう?
シオンなんて・・・想定外よ。
正しい選択肢に気が付けさえしない自分が惨めだなって、弱音というより諦めよ」

「また私が色々工作していたの知ってらしたんですねー、自信喪失ですー。
志貴さまゲットした翡翠ちゃんに後で貸して貰おうかと、結局まわりくどくてシオンさんに先手打たれちゃいまして、あはー
それにしてもシオンさん、本当に嬉しそうですもんねー・・・で、私に何か御用がおありなのでしょう?」

「そうよ、この悪魔」

「その悪魔に二束三文で魂を売っちゃう秋葉さまって愚かで、そこがまた可愛いですよーあはー」



目の前の偽物の笑顔と比べ物にならないほど、シオンの笑顔は輝いて見えた。
私は認めない、そう言っていつ強権発動するかもしれないのに、
兄さんとの将来を絶対と信じきっている様子、まさかシオンがここまで熱上げるとは思っていなかった。
初めて会った時の彼女は一見翡翠のように無表情で、話してみると琥珀のように狡猾だった。
結局のところ、その頃の私は彼女が遠野家と敵対しない種類の存在であれば良かったのだ。
・・・だからその時はまだ、兄さんを取られるなんて思いもしなかった。



「琥珀、これは命令よ」

「・・・了解いたしました」

「・・・まだ何も言ってないんだけど」

「私と秋葉様の仲じゃないですかー。翡翠ちゃんより簡単に私の思い通りに動いてくれる
秋葉様の考えていることなんて、志貴さまにお薬を盛ることよりも造作もないことですー」

「・・・琥珀。あなた今、野良猫虐めて喜んでそうな顔してるわよ」

「やですよー、槙久さまじゃないんですからー・・・あはは
人を何だと思ってやがるんですかー、今はそんなことしてませんよー」



ふと思う、巫浄の琥珀にも反転衝動があるのでないかと。
疑いに信憑性はない、けれど心配だから遠野との繋がりを一度詳しく調べてみようと思った。

それにしても兄さんは鬼畜です、手が早くて上から下まで節操無しです、いくらなんでも露骨です。
朴念仁で移り気な兄さんは何処に行ったんですか!?
数多い女性たちの中から一番新しい彼女、しかも私の数少ない本当の友人を・・・今は裏切り者ですけど。
今までのらりくらりとしていらしたのに、彼女にあっさり捕まってしまうなんて・・・。
古い女は要らないのですか?窮屈な屋敷に嫌気が差してしまったのですか?

彼女を警戒しなかったのは、浮いた噂とは全く無縁の蒼香に似ていたから。
しかし、冷めた目で見ていても兄さんに興味を持っていた事は確かだったのに。
・・・今から思うとシオン・エルトナム・アトラシアは、何処か私と似ていた部分もあって気を許しすぎていた。
私は知らない、シオンが死徒になってしまった理由を。
ただ夏に、彼女は兄さんと協力して、噂となっていた吸血鬼を倒して同時に自身も救って貰ったとだけしか知らない。
本当に詳しくは知らないが、シオンとその吸血鬼とは浅からぬ関係で遠野の先祖帰りと似たような事柄だと聞いた。
ならば家系で悩まされた所や、兄さんと関わって人外の存在から人間に戻れたことなど。
だから、親近感が生まれるのは必然だったのだろう。
・・・それが私の隙となった、逆に理性や論理では隙がないシオン。

真っ当な策では、妹という楔がある私が勝てないのは自明の理。
だから、私は悪魔の囁きに耳を貸す。



「成功報酬はたっぷり頂きますよー♪あーんなことやこーんなことを・・・あははー♪」

「なっ、なにを・・・馬鹿なこと、あなたは使用人だから
そんなのは・・なし、って、わっ、こわっ、わざとその目つきするのいい加減止めなさいよ」

「秋葉さまにとって私は所詮・・」

「いいわ、いいわよっ、もぅ勝手になさい。
それよりちゃんとなさい、あなたの得意分野だからって油断しないこと。
・・・一筋縄ではいかない相手なんだから」



そう琥珀に命令を下して数日、一向に自体は進展を見せなかった。
問えばまだ準備中ですと返され、平然とシオンと仲良く話している。
水面下では姑息なはかりごとをしてくれているのだろうが、私にも分かる何かしらの動きがないと不安だ。
だから、私は朝一番にシオンの部屋を訪ねた。



「朝早くに悪いわね、シオンに当てる使用人がいないから
私が直接来たの、シオンに頼みたいことがあるのよ」

「何でしょう」

「今日は私の仕事を、当主としての仕事を手伝って欲しいのよ。
あなたなら簡単に覚え、できると思うわ。
確かに琥珀も居るけれど、屋敷の管理もあるから進みが悪いのよ。
だからって、扱き使って倒れられたら翡翠の料理はね・・・お願いできるかしら?」



自分から動くことに決めた、意地悪だとシオンも気がついているはずだ。
何せ、今日は兄さんと出かける予定があったはずなのだから。
ふと見ると、以前には見られなかった化粧や香水の類が増えていて、シオンなりに楽しみにしていたに違いない。
少し心が痛んだ。



「・・・わかりました秋葉、この屋敷の一員として僅かばかりの助力をしましょう」

「え、そう・・・よろしく頼むわ」



断ると思っていた、断れないとも思ってもいた。
結果は非もない正答だった、シオンはここで私が引かないと計算したのだろうか?
もし、もっと当主の権力を使えば、この屋敷に居られなくなるような事にもできるだろう。
だけれど、それでは兄さんの心を繋いでおく事などできないし、私は軽蔑されてしまうだろう。

だから私は、迷い込んだ心の迷宮を脱出するために強引な手段を用いる。
いつも嬉しそうな、にゃーと鳴くチャシャ猫こと琥珀はちゃんと命令遂行してくれるだろうか?
気まぐれを起こさないだろうか?実はかなり心配だった。

心配していない事もあった、はずだが・・・それも何処でどう間違ったのか、私の知らない所で激変していた。
シオンの性格なら礼儀作法は完璧で、生活習慣は職業柄大目に見るとしても、遠野の屋敷に住む者として相応しかった。
私や兄さんとの関係も維持でき、悪戯好きの琥珀とはひと騒動あるかも知れないけれど平穏に時は過ぎると思っていた。
まさか公然と愛を語ったりしないだろうから、兄さんとの仲もいつかは受け入れられると思っていた。
私の気持ちを知っているから、気を使ってくれるだろう、今は苦しいけれど我慢できる。
そう、思っていた。






 ■ ■ ■ 






「シオン・・・どうして私に」



屋敷内でのエーテルライトの使用を控えるように言ったのは、とてもまずい事だったかもしれない。
思考が読めなくなったら、過去の傾向から計算するしかなくなるのは道理で・・・。
結果、私は良き友人のままらしい、と言うより兄さんの楽観主義とも
呼ぶべきものに毒されてしまった思考回路では、そんな計算が成り立つらしい、と言ったほうが正しい。
あの冷静沈着なシオンが色惚け?・・・ありえないことと否定はできない、私も何度か体験済みだから。

今も私が琥珀に用意させたケーキをつつくわけでもなく、惚気を聞かせてくれている。
自覚無いだけ確信犯の琥珀よりたち悪く被害は大きくなる、琥珀は主人を生贄に捧げて逃げてしまっていた。



「秋葉には幼い頃の記憶はありますか?人によっては母親の胎内の記憶もあるようですが
私の場合、その記憶と言うより記録ですが手にした事ないのですが・・・」

「友人に一人いるわ、でもあの娘の場合は本当の話かどうかわからない。
私はね、明瞭な記憶は兄さんと出会う以前は皆無ね」

「そうですか・・・この子の、感じていることを知りたかったのですが。
それにまだ心臓さえできてはいないので、私も命として感じることが難しいですね」



そう言いながらもおなかを撫で気配を窺う、シオンの顔はやさしかった。
自らの手足を縛る法の執行者、秋葉にエーテルライトの使用許可を求めるつもりはなかった。
生命が産まれる瞬間への知識欲はあったが・・・。

性別も名前も、将来のことで今はまだ気が早すぎるのでは?



「この頃、ずっとその話ばかり・・・あてつけ?」

「そんな、違います」



そう言ってはみたものの・・・受け入れられない、話題は変わらないし終わらせてくれない。
笑顔のシオンは気分を害した様子なく、ただおなかをうっとりとした表情で撫でていた。
惚気に私だけが耐えるのは不公平、こんな時だからこそ琥珀の破壊工作が必要だというのに
何処に避難しているのだろう、あとで兄さんに八つあたりしよう。

私は父親に関して良い記憶はないに等しく、母親は・・・母の記憶は微かにある、まだ小さかった手を引いてくれた。
それさえも召使や乳母でなかった証拠はない、写真は探せば一枚はたぶんあるのだろうけど探したことはない。
母に対して今の私は、何の感情も持ち合わせてはいない、甘えも希望も不安もない。

混じりものの遠野一族の当主である私はいつも警戒され、時には老練な相手をも簡単な威圧で怯えさせていたので
殺伐とした人生だったから、様々な幸福を知らずに胸に秘めて生きてきた。
だからこの屋敷でシオンの幸せを目のあたりにし、が育まれていたのかと思うと、戸惑うと共に兄さんを虐めたくなる。



「ああ、そろそろ志貴の帰宅予定時間ですね。秋葉ケーキおいしかったです、失礼します」

「出迎えは翡翠の役目だからあなたが行くことないわ、兄さんも・・・翡翠の仕事を取らないであげて」

「そう・・ですか、では私は一足先に志貴の部屋に行きます」



言いつくろったのは決して自分のためではなく、今も以前のように働いてくれる翡翠のためと言い訳した。
以前なら兎も角、今のシオンは志貴を中心に地球が回っているような世界に住んでいて、悟られるはずもないのに。

外国からやって来た三人と一匹、実はアルクェイドとシオンは知識に沿って生活していたに過ぎない。
レンとシエルはそれなりに馴染んでいたが・・・猫の生活は万国共通だし、シエルの女子高生はかなり隔たっていたが。
二人のそれは必要最低限のものだったから、風俗や風習の類はからっきし駄目だった。
その事をアルクェイドに指摘したことがある志貴はシオンにも同じようにして、錬金術師を惑わせたのだが・・・
エーテルライトを不特定多数の人間たちに繋げて知識を奪えばよい、シオンはそんな発想を持っていた。
だが、遠野の屋敷での生活は一般人の常識の範囲内にはないもので。
そこで生活を営むためには、当主で友人でもある秋葉の協力が必要と感じ、自覚ないまま志貴とのらぶらぶを見せ付けていた。

それが秋葉のストレスになったとしても、エーテルライトの使用を禁じられている
色惚け錬金術師にはその兆候を感じることは不可能な話。
だから、それを利用しようとする者には色々と好都合だった。






 ■ ■ ■ 






屋敷の威風堂々とした入り口ではなく、裏口・・・それでも周りの家に比べたらかなり大きい。
そこに三人の人影があった、夕日が綺麗なヒタヒタと闇の足音が聞こえる時間だった。
太陽が完全に落ちていないのでモノトーンにはならず、しかし巨大な屋敷の影が不気味にジワジワと伸びていた。



「パスポートまで?それは・・・確かに必要ですが、いざとなったら私が調達できます。
それにあなたは、私だけを屋敷から追い出すように指示されていた、と推測しますが?どうして?」

「お二人一緒でないと、私が手引きしたとは気が付いてくれない鈍感な人が居るでしょう?」

「え?・・・そうですね、なるほど」



それに私の裏工作に気が付くだろう錬金術師によって、二人の脱出の手助けをしたという事が抹消されかねない。
でも今は、二人とも息合わせて同時にため息までして見せた。



「そこまでして見せることか?当然わかってるよ、秋葉に酷い目に合わされないか?琥珀さん?」



志貴が何処から何処まで把握しているのか怪しいが、琥珀は話を再開した。
針のむしろを耐えていたけれど、琥珀によれば秋葉もそれは同じだったらしい・・・
横目でシオンを見るがきょとんとしていて、実に我がパートナーらしく自覚無しだったようだ。



「フフッ志貴さん、私が通常戦で負けるとお思いですか?
見くびって貰っては困ります、こと秋葉さまに関しては百戦錬磨の私が?」



今回秋葉の起こした志貴監禁誘拐事件をさくっと解決・・・もとい
背後から注射器刺して終わらせたのは、この割烹着の似合う策士さんなのだ。



「それに・・・ちょっと考えれば秋葉さま自身の為にならない、と。
志貴さまは必ずここに帰って来てくれると、翡翠ちゃんも私も勿論・・・というか当然の如く秋葉さまも。
待っていますから、ですよね?志貴さん?だから全て分かっちゃってます、ですからこれはひとつ貸しですねー」

「うっ、まあ・・・その通りではあるけど。秋葉はそう考えてくれてるのか、ちょっと自信ないな・・・」



志貴は笑顔で押し切ろうとしている琥珀に怯んでいた、いつもなら軽く琥珀さんのシスコンには敵わないと返すのに。
ここは私が味方すべき所なのだろうが?琥珀の話は渡りに船でもあるし、反対する材料も道具も用意していない私。
・・・それでも、志貴は琥珀に大きな貸しを簡単に生産したくないらしいので。



「ありがとうございます、私達のためにここまで」

「は、はい?いえ、志貴さんにですねー、あ・・えとシオンさんー?」

「琥珀、翡翠にも私達が感謝していたと伝えて下さい。私は必ず元気な子供を産んで見せます」

「えっと・・むぅー」



ここで志貴の心に楔を打ち込んでおかないと、将来私の大事な大事な翡翠ちゃんに
志貴さんの愛人の座がプレゼント出来ないじゃない。
それなのに、早くも何やら感ずいたシオンの妨害で予定が狂ってしまった。
しかし、これ以上の仕込みは難しそうだ。
色惚けシオンが帰ってくるまで様子見して、なんて言ってる時間は残されていないのだ。
子どもが生まれて、二人に確固たる信頼と余裕が出来たあとには、
作戦成功確立がグンと下がってしまうのだから延期なんてのは困る。
困惑顔、不満顔、そして一転笑顔で志貴に問い掛ける琥珀。



「では連絡先」

「駄目です」

「素気無く断られちゃっいましたー、あはー困りましたねー。
秋葉さまが落ち着かれたら、志貴さんが優しい言葉のひとつでも・・・それが義理とはいえ兄妹ですよねー?志貴さんー?」

「うん、確かにそうだ」

「志貴、騙されないで下さい。そんなあっさりと。あの琥珀が笑顔で手助けしてくれているなんて」

「だからこれは善意ですってばー、私に対する認識をいい加減改めて欲しいですー」



確かに、一時とはいえ別れである事に変わりなく、なのにまったく寂しそうにしていない。
・・・秋葉が反転し気味なの、アンタのせいじゃと思ったりもしてしまう。
けれど真実は口にしても甘くなく、悪魔は微笑むばかりで、得る返答はとっても怖いに違いないのだ。



「あはー、ここで吐いてもらうまで引き止めちゃいますよー」

「・・・」

「うっ・・・シオン、ここは」

「・・・志貴、琥珀に何が出来ると言うのです?
相変わらず甘いですね、恩を仇で返すことを好まない志貴には好感を持ちますが・・・。
ここで彼女を言い包める事を期待した私が愚かでした、それにあの二人に比べたら大人しい方でしょう?」

「そうですね、常々黒幕であった私にはそんな力などありませんが・・・。
あーあ、可哀想な翡翠ちゃん。心苦しいですが、ご主人様に捨てられたって私が吹き込んじゃおっかなー」



義理では効果なしと見た琥珀は実の妹をだしに搦め手に出る。
勝算を高くするための時間稼ぎだ、しばらくすれば翡翠や秋葉の増援を期待できるから。

対してシオンは志貴の良心を弄る悪魔払いの方策を分割思考で幾通りか考えていた、何せ相手は悪魔・・・良策は少ない。
最悪の事態は悪魔との取引・・・レートは跳ね上がり、この空のかなたに在る宇宙空間まで飛び出してしまうに違いない。
秋葉が復活してくるまで時間があるとはいえ、此処を離れるのは早いほうが良い。
だが夜は迫っていた、月が昇り始めていた。
・・・あの月が。

それに気がついたのは誰が最初だったか、雲ひとつ無い空、月が闇夜に浮かび上がっていた。
まるで異世界に迷い込んだような孤独感に誰もが一瞬にして心を奪われた。



「・・っ・・」



その声は三人の遥か頭上から微かに聞こえた、見上げると一つの影が浮いていた。
いや落下してきてる?
そう思ったのもつかの間、それは白い人の形をとり、三人のうちのただ一人に向かって舞い降りて来た。



「志貴ーっ、ただいまーっ」



非常識の塊、作られた最終兵器、空想具現化を操る、純白の吸血鬼は再び、ここに降臨した。
遥か上空から落下してきたにもかかわらず彼女は足音一つたてず、着地すると志貴の首を腕でがっちりホールドした。

私の志貴に、無垢の笑みでペットのようにじゃれつく・・・ま、まぁそれは目を瞑ろう。
代行者と違って私は忍耐強いのだ。
それに既に志貴は、私の志貴なのだから、私の・・・だから今はそれより彼女の格好が問題だった。
紺色のドレスはよしとしよう、その美貌から舞踏会から逃げてきたシンデレラと言われたら信じてしまうに違いない。
・・・最後に会ってから、たった数日で髪は何故長くなっている?何故に今頃になって再び会いに来た?



「ぉ、おまえ・・・げ・・首絞めるなっ。ふぅ、いきなり酷いぞ!それにあんなこともできたのか?」

「まぁねー、具現化の一種を用いて・・って、そんな事どうでもいいじゃない」

「ど、どうでも良くなんてありません!あなたは城に帰還したのでは?それに・・」

「そうだ、どうしてまたここに?それと、いい加減離せって」

「うん、一端は眠りかけたのよ?でもね、うとうとしてたら起きちゃった。
だって逝き遅れカレーのせいで、志貴とのお別れが満足に出来なかったし、ちゃんと納得もできてなかったし。
それにとっても良いニュースがあるのよ?それを聞いたら、志貴は喜んで私と一緒に私のお城に来てくれるに違いないのよ?」

「何を今更・・・志貴はあなたを捨てて、私を選んだのが分からないのですか?」

「理解しない。私にはそんなもの、妹の許可と同等の価値しかない。
そう本当に価値あるものはねえ、こうして離さないつもりだからね」

「そうですか、無理矢理にでもと仰るでしたら私が」

「あのシオン?今の俺の状態、分かって言ってるの?」



志貴を抱いたままのアルクェイドとシオンの間に、ピリピリと電流が放たれる。
琥珀は双子の妹のようにおろおろとするばかり・・・思い通りに事が運ばないと思考停止に陥ってしまうらしい。
そこが家系からして、故あるシオンとの差異だろう。



「わわ、秋葉さまに気がつかれちゃいました。大変ですよ私の・・・
こんなはずじゃ・・・うっぅーん困りましたー、どう・・・したら?」

「待ちなさいーーっ、この不浄ものーーっ」

「ん、思ったより早かった」

「遠野くんを離しなさいっ、は、ていっ」



二度目の飛来者は衝撃と共に現れ、連続して攻撃を仕掛けた。
まさに妙技といえるもので、それらは志貴には掠りもしないコースで迫る。
シオンは現状打破のための思考を練っていたが、事態が動き始めたので自分もエーテルライトをはなつ。
お馴染みとなった展開が繰り広げられると思っていた。
しかし真祖は、攻撃を真正面から受けたにも関わらず、無傷で微動だにせず平気な顔している。
私のエーテルライトも結界らしきものに阻まれた。



「何故・・志貴、真祖は短期間でこんな・・この力は何を取り込んだと言うの?」

「気が付いた?伊達や酔狂で錬金術師してないのね♪感心感心・・・しちゃいけないわね。
だって私は錬金術師に先越されて動揺して、だから気がつけなかったのよねー。
それに気が付いたから急いで戻って来たのよ、志貴♪」



代行者の攻撃を寄せ付けない、いくら月が空にあるからと言ってもここまで圧倒的な力があったろうか?
志貴に十七分割され一年の歳月が過ぎれば、完治はするだろうが血をまったく摂っていない彼女が・・・。



「カオスでもない貴女は異物は取り込めないはず、では一体何を?」

「ふん、答える義務はないわっ。特に貴女には」

「私も早く志貴を開放して貰いたいのですが、仕方在りません。排除します」

「できる?」

「できますとも、協力して頂けますよね?代行者」

「何故私が・・・乗りかかった船ですし、良いでしょう。乗り遅れるなんて事はもう嫌ですから」

「そうよねー、同じ便に乗った私が途中下車したのにも気が付かないで
機内食、馬鹿食いして寝てイタリアの空港で右往左往していた、って聞いたけど・・・・本当だったんだ?」

「・・・」

「・・・代行者?」

「神の代理人に何たる侮辱、やはり貴女を消し去る事はこの身に授けられた定め」

「不可能と言ってるでしょう・・・諦めなさいってばー」



不意にも関わらず息の合った私達の攻撃を嘲笑うかのように、避け、受け、流す。
悠然と最初降りた位置から一歩も動かず、やってのけている・・・今までしなかった戦い方だった。
可能であるはずがない、それをつまらなそうに行っているなんて・・・。

拙い、思考を切り替えないと・・・しかし時は遅かった、きらきらと光るものが彼女の周りに集まり始めていた。
やがて光は強くなっていき、私たちが視界を奪われるまで時間はかからなかった。
それが収まった後には影も形もなくて、まるで月が落ちてきたようだったと馬鹿な思考をして
見上げる空には確かに浮かんでいる月、二人がそこへ飛び去ってしまったように感じた。



「・・だから、ばいばい」



何処からともなく聞こえた、彼女らしいお別れの言葉。
その響きに彼女の圧倒的な自信を感じて、何の策も持たない私では今すぐには志貴を取り戻せない事を悟った。
何としてもパートナーを取り戻すと決意を固める。
駆け出した私に一足送れて代行者も何も言わずついて来た、あの力に何か仕事関係上でも危機を感じているのだろう。
真祖の帰る先は知れているのだが・・・相手が相手ゆえに侵入は難しいだろうし、
下手すれば命以上のものと引き換えにしなければならないだろう。私の一番大切なものと。






an epilogue