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未成年の世界というのは少々開放的であり、学生の身分であっても規則ある学校と外とでは様々に変化する。


「じゃあ誰かと遊ぶ約束をしたり特別に遠くへ・・・外国へ行ってみたり、したことないの?」

「ない」

「だってさ、ほらやっぱりお嬢様だ」


自己紹介するときにまず何処に住んでいるのかとか、いつもつけている髪飾りや目鼻立ち、身長ほか
少し親しくなると家族構成や趣味が加わり、仲間意識が芽生えるのだと知った。
私の趣味はないのだと言うのに、じゃあ何をしていると聞かれピアノをと答えるとお嬢だねぇと。


「華道してる蒔の字じゃ負けず劣らずと言いくるめられる可能性が」

「あれは趣味じゃないし師匠が厳しいから、なによ三枝っち?キラキラ目輝かせて」

「うんそうだねー、私は凄いと思う」

「そうか、大和撫子とは確か柔らかな物腰に着物の似合う日本女性ではなかったか?」

「ほら言われた、こんなこと遠坂でも言わない。えらく傷ついたね、傷物にされたよ私は」

「まだ軽症だな、相手が遠坂凛なら身包み剥がされて海の底の可能性が高い」

「誰?」


三人に一人が加わっても変化は少なかった、私が距離をおいているからだろう。
初対面でぶつかって来て説教始めた蒔寺楓、英語で自己紹介始めた三枝由紀香、氷室鐘が仲裁と説明が無ければ
三枝の会話が原因で蒔寺が私に一言あるのだと知る事出来なかったろう。


「ほら一時、というか今も三枝っちが憧れてるって話した怖い女の」

「それは・・・誤解してるよね」

「さぁ会ったこと無い人間なんて居ないも同然だから、興味持てない」

クールだねぇと、より一掃クールビューティーを極めているともっぱら噂の人から言われた。

「ほら思った通りだ、コレからは撤退して遠くから眺めてるだけにしな。
最初外国人さんだと思ってたってのは的確だ、こいつは氷の異邦人じゃないかと」

「でも入学式のとき名前無かったから」

「あの読み方は違反だろう、異教徒めっ」

蒔寺が私に色々と言うのは一種のグルーミングであると理解していた、主従どちらかは言わないが。

「ふぅむ蒔の字は柳洞一成と気が合うというのか?それを知らず友人していたとは」

「鐘・・・あいつは天敵じゃないか、美綴と組んでも倒したいね。それがどーして仲良くと言える?」

「お寺と教会だからな宗教戦争になる」

「あ、そーか。でも一成君は言峰さんをそんな風に言わないよ」


クリスチャンらしさ何てものは外面だけではなく、しかし大部分の人間にとっては
海岸面する異国情緒あるこの町の、丘の上の教会に住むだけで私の役割は決まったといってよい。
過去はくすんだような灰色だった髪も今では完全に白銀で、ポニーテールにして
瞳の紅の虹彩もあり特別扱いの対象だった、特に男子には好奇と興味の視線相手として選ばれる。


「穿った見方の一つだったが、ハズレだったか。
考えると士陰に敵対しようとする人間は居ないな、異質だからか?」

「少し変わってるけど、綺麗だけど・・・言峰さんは日本語はなせるよ」


幼さ抜ける時期、制服も変わる入学した学校の教室では近くの席で輪ができる。
話し相手として合わないと感じたらすぐに別のグループに少々離れていても、別の教室であっても
沢山会話するのが常識で孤高や孤立を選ぶ生徒は少ない。
そんな少数の一人が、遠坂という女子生徒で洋館に住んでいると話題に上った。


「孤児院と教会兼ねているからな、異質というのも間違いじゃない。
言葉は日本語が主だからこうして会話できているわけだ、外国語は協会でラテン語を少ししてる。
話が脇道に逸れたが・・・それで、その遠坂という敵に対しての勝率は高いのか?」

「とにかくあれは頂けない、毒を食らわばっていう大馬鹿じゃないと。
まぁその点、あの生徒会長の毛嫌いってのは正しいけど素直すぎるよな」

「特に中学の蒔の字の周りにはそんな男子が多くて困っていた、という事だ。
偶像の抱きやすさってのは重要で、親しさは極力少なめに蒔寺には出来ぬ事なのだからな愚痴のひとつも」

「うう・・勘弁してくれ鐘さーまー」

「三枝の前で、言峰士影に遠坂凛以上の魔性を感じても対抗しようとするな。
それは勇者でなく愚者の行為で」

「・・・遠坂さんと仲良くするの反対なの?」

「ほらこうなる。三枝?遠坂には既に仲の良い生徒がいるからな・・・美綴とか」

「氷室の私怨か?その粉かけてる奴なら心当たりあるが、生憎と遠坂凛本人は知らない」

「間桐慎二?思い切りは良いけど慎重さが足りないよ。
氷室鐘さん?なんだその、抑えて抑えて・・・士陰も存分に怖いな。
この分じゃこの先も三枝の惚れた腫れたには首を突っ込むべきじゃない。見かけに騙されてるぞ」

「わ、わかってる。三枝こっちに来い・・・その場所は危険だ」

「楓ちゃん、鐘ちゃんもそんなこと言って悪い人じゃないよ、それに仲良くしたい」


それが存分にミーハーな態度でも二人は憎めなかった、純心な由紀香はいるだけで心地よいのだ。
三枝由紀香は単純に喜んでいた、この町に教会があるのは信者が相当数いるためだが、
信心深く熱心でなくとも子どもが居た場合、幼い頃は沢山の経験をさせようとするだろう。
そんな中に三枝由紀香の家族も入っていて、幼かった頃にミサで士陰を知って天使のようだと憧れ持っていたのだ。
例え名前知らなくても、会えなくても・・・と幼い頃に出会った感動は長く記憶に残り
白い容姿と同年代という事実で存在を知るに至り、今は話す程度には仲良くしているのだ。
一方、お嬢で清楚で優雅で洋風で黒くて白くて・・・と比較された本人は、
そんなことを聞かされても、学校で見かける事ない私には縁遠い人間で顔さえ知らない相手と思っていた。



■ ■ ■



協会の儀式、その度に蝋燭に魔の火をともす役目は私にあった。
手のひらを合わせ指を絡ませ両腕から魔力を供給し、指先から火を飛ばした。
まるで糸がついているように曲線を描いて、それらは一つ一つ正確に蝋燭の芯を燃やした。


「面白い」


私の放った火炎は黄金だったが、蝋燭は銀色という怪しい色を湛えて教会内の空気を変えた。
今日の来客たちは、特製の蝋燭で空気換えなければ機嫌損ねる相手と綺礼はいっていたが、人外の方々なのだろう。
後学の為にというよりその色に魅せられて、私はひとつ飾台に取り中庭へと向かった。


「どんな効果があるのだろ・・・」


時間は夜遅くなっていて、中庭には月光が差し込み
それでも暗かったのでテーブルの上に置いた銀色の光は綺麗だった。
その光に寄ってきた虫が焼かれた・・・ひにいる、とはこのことだろう。
今夜は礼拝堂への立ち入りは禁止されたので、ここで夜を明かす事にしようと思う。
特別に静かな祈りに相応しい場所となった中庭で、私は銀の火が燃え尽きるまで祈りを捧げていた。



■ ■ ■



気が付けば立ちすくんでいた、周りには影で出来た木々が茂っている。
いつのまにこんな場所に来たのか覚えがない・・・遠くからは知らない獣の鳴き声が聞こえた。
果たしてそれは獣だったか、人間の怨念の声だったか。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


そこまで考えが及んだ時、背後の何かに気がつき
急かされるように走った、後ろを振り向いてはいけない。
善くない物が私の直ぐ後ろに、気配探ればすぐ背中にあると知ってしまうから。
服はいつもの綺礼がくれたものでなく、何故かジーンズにシャツ。
十字を切り指先に火を灯す。


「散れ」


決して振り向かないように腕を真後にふり放つ、直後着火。
世界を一変させる私の魔術、めらめらと燃える木々は信じられないスピードで私を追い越した。
赤の世界の再現・・・これを私は見た・・・



■ ■ ■



「・・・・夢か」

「何が夢なのだ?このような場所でまた眠るつもりならベッドは必要なかろう」


まだ士陰が部屋に戻っていないことを注意し、手に持っていた今さっき使った祭器をテーブルに置く。
見ると飾台に蝋燭の跡、どうやらここで夜涼みしていたようだ。
虫がくるだろうに無防備な事だ・・・肌を覆うタイプのネグリジェも必要だなと考えた。


「今日はどんな仕事をしてきた?一度見てみたい」

「半端ものによくある付き物だ、この蝋燭は心象世界をよく写してくれる作用がある。
棺おけの必要ある相手でなくて良かったぞ、修復できない個所もあの場所にはあるからな」

「一度崩壊したとも聞いたことある、それで?」

「それでとは?話はもう終わった、眠るのなら髪を解いておけ衣服を乱すような格好で眠るな。
シスターは清楚であるべきだと言ったのを忘れたか?」

「・・・」

士陰がグレそうになった言峰の信条をまた、この小さな耳は聞いてしまった。








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