●.11

エミヤの屋敷を追われて公園に来ていた、教会と寺院と洋館・・・この冬木に或る
マナが集いやすい、またはよく流れる場所は幾つかあるが他のマスターたちが確保しているだろう。
だから、よどみ停滞し腐る此処は・・・。

「もう誰も目をつけていないだろう場所はここしかない、盲点であるはずだ。
サーヴァントを呼び出す手順、一日がかりで準備をした。
休息もとり、落ちた魔力も充実させた・・・だから何処を間違えたかまるきり分からない」

だがその顔に焦りや失望はなかった。
綺礼がシオンに理不尽な無理難題を課してきた時も迷わずに、絶対悪である綺礼を攻撃し
問題解決を図った女なのだから、ちょっとやそっとの失敗にはめげない。

なぜ英霊が応えてくれないのか、その理由は目の前にあるはずだ。

「いない?セイバー、キャスター、ライダー、バーサーカー、ランサー、アーチャー、アサシン
すべてが既に揃って、聖杯に汲み取られた?その確認はまだ取れていないのに」

実のところ、法律にふれる規模や回数を言うなら魔術師なんて教会の狂信者には敵わない。
魔術を公式に認めずにいるので、私も護身銃ていどではなく物騒な暗殺道具はそろえている。

そんな組織である教会、関係者の私には聖杯戦争の詳細な記録を読める機会があった。
だから、何が冬木に現われたかは分かっていたはずだった。
・・・誰かが反則をしているなら話は別、そんな相手なら私が殺して奪っても、構わないな?

「でも何処に、あれ?」

私の世界と化していた公園に来客がこんな夜にあった、しかも人間ではない。
気配を殺して近づいた。
そして綺麗な人との出会いがあった、拾ったサーヴァントは非常に好感持てる美人さんでした。

「私がしましょう、この程度ならば」

「そうありがと。でも良いマスターだったとは思えない、死に別れたというけど」

「はい」

しかし、なんだろうか・・・死に別れたと言う前のマスターはサーヴァントに何をさせていたのか。
ライダーが進んで雑用こなしてくれるのは楽で良いとは思うのだけど、この世話焼きたがりの性格は
外見からは察することが出来ないだろう。

「・・・」

聖杯戦争では契約が切れれば、多くの場合それは死と意味を同じくする。
なら死に別れたといっても過言ではない、あの間桐慎二が次々に面倒起して後始末を任されたり
していたから、シオンに何も命令受けないと雑用だけでもこなした方が良いのではと思ってしまう。
移動を得意とするライダーなら、昼動いても夜には響かないし魔力も今なら十分ある。

「それでは敵の動向を探ってきます、シオンあなたはくれぐれも無理はしてはいけない」

慎重に動かなければならないと注意された、ライダーを見送ったあとは公園の入り口と要所要所に
警報を書き記した、子どもたちと一緒に落書きしているようにしか見えなかったが。
・・・とにかく、陣を張り巡らせて色々と対策を練った。

あとはベンチで一眠りして今夜へと備える、夢うつつ考えもしていた。
ライダーも本来の実力を発揮できていれば、血をどれだけ犠牲にできたろうか・・・
魔術師同士とはいえ、結局の所、殺し合いなのだから相手に血を流させれば良い。

その残酷で単純な公式を書き直そうとは思わない。
サーヴァントが近づいてきた、ラインを確認。目を開ける。ライダーが居た。

「買い物まで頼んでいないのだけど、もしかして食事してきたの?」

「してません、送られてきた魔力で必要十分です」

帰ってきた彼女の手には買い物袋、中には食品が多数。
まさか、その腕から脚から派手に見せて顔だけ隠してる格好で野菜や肉を選んだわけじゃないだろう。
買い物袋下げていた人間から少し失敬したのだと思う。それだけだと思いたい。

シオンが朝と昼の食事は軽くコンビニを利用していたが、そこまで気遣ってくれたのなら優しい人だろう。

「でも調理できるのは限られてる、焼くはありだけど」

「保存食には缶切りが必要ですね、私が開けますから投影してくれませんか?」

「それキャトフード」

「・・・ぅ」

どこかずれていたが、それを気にしてる辺り聖杯の与える知識の隔たりは面白かった。
私はひとしきり笑ってあげたが、機嫌損ねた彼女に子供のような我侭をつき通されてしまった。

ひとり建物の間を・・・跳ぶ。
そうして、手に持った缶詰の使用法をマスターに懇切丁寧に教わって公園に来た。

割りと楽に出来るから強引にしないで、とはマスターも私を見損なっているのだ。
証拠として、ほら最初の一匹にえさとして与えると集まってきた。
のら猫たちはライダーの足元でにゃあにゃあ鳴いて、移動するとちゃんと付いてくる。

そのことを確認すると、猫の足を時々待ちながらマスターが作った罠へと誘った。
一部首輪つけた飼い猫も居たが、マスターが珍味を所望したわけではないので遠慮なく一網打尽にする。

「使い魔、ですか」

「オーソドックスに猫を何匹か、私は遠坂凛みたいに精巧で高価な魔術なんて使えない。
鳩や鴉でも厳しい、ある程度協力してもらえるように説得するだけ」

そう言っていたシオン、どんな手で猫と会話し使い魔とするのか教えてはくれなかった。

「契約でもするのでしょうか?でもマスター?」

かなり怒ってるようなんですが、魔術ではなく宝具でもなく子どものトラップ『網』に捕まった猫たちは
えさにご執心だった食欲深いやつら。網を引きずるライダーを威嚇してくる。



■ ■ ■




「呆れました」

「鈴つけて餌付けの何処がいけないと言うの?」

シオンの瞳は魔眼ではないが、それに近い性質を持たせる事が出来る。
血を使って回路を擬似的に形成させ強制契約させた、その猫たちは今、シオンとライダーの居るまわりを
円形に縄張りとして歩いていた。本来、猫はそこまで強くテリトリーを主張しないのだがシオンのつけた
首輪には紅い涙摘型の結晶体がついていて、それが不思議な鈴の音を微かに出す。

「その瞳、血が染み込んで変化しているのですね。本来は何色でどんな形しているのです?」

「私に形なんてない、真っ白よ。
死んだ魚の目以下だと綺礼は言っていた、それには私も同意さぜる得なかったわ」

「マスター」

教えてあげたいし見せてあげたい邪なる瞳を、この娘に。
優しい言葉をまったく喜ばないだろうけど、どうしても伝えたい。・・・言いたい。

「私の体を構成する血ではこの程度、爪や骨ならもう少し自由が利くけど
今はこれ以上体を傷つける事できないから。一定時間、無防備で居るしかないのをカバーしてくれるから。
だからライダー、今夜もよ?」

「そ、そうですか・・・」

昨日は緊急避難的にマスターと肌を合わせて体温を保ったけれど、今日はどれほど綺麗でも
澄んだ空気の星空を見て眠らせては、サーヴァントとしてより献身的性格で耐える事できない。

少し、強引に押し倒され流されてしまった昨日が淫夢とはならずに
トラウマ化しているが、ありえざる攻守の逆転でもシオンは全く気にしていない様子。
ライダーの首にはアザがしっかり残されている。


「・・・なにかフェアではないです」

「ん?聞こえなかったけど、で今日は新都にまわってみるけど学園にも行かないと
先生も気にはなっているの、それでね、それであの屋敷奪う前に自由に出歩いて一匹狩りたい気分なのよ」

「キャスターですか?良いですが学園は私と共に行きましょう」

「あとは、浜辺も直接調べておきたいわ」

「何故そんな場所に?良いですが、河口など、私が調べていないところは使い魔を配置して頂けたら」

「私が有利に戦えるようにね、借家は取られたし・・・敵はセイバー、最強は一番最初よ。
知ってる相手は叩く前に準備周到に、それからゆっくりとね。
ランサーは最後でもいい、マスターの性格から言って掴みにくいに決まってるから」

「強気ですね、でも良い判断だと思いますよ。力だけによって解決している少女にお仕置きを。
と、とにかく会いましたがあれは卑怯と言えます。私の攻撃をあの小さな体で・・・最悪の敵です」

「なんだ経験あるの?名前も欲しいところだけど今は誰よりも、あなたの名前を先にする。
教えて?ああそうなんだ、嫌いなわけない好き、大好き。
本当によかった、一心同体ね運命共同体よ。私たち、思えば視線の高さでピンときたわね」

「あ。そうですね成長した妹というより双子です」

何か優しい言葉包んで表現し合っているが、つまり『背が高い』は二人には悪口になるのだ。
そして、憧れてもいるのだから業が深いというか無いものねだりというか。



■ ■ ■



箸の進みが遅いのは自分の作った料理が不味いからではない、実はシオンは利き手でさえ箸を使えない。
・・・綺礼に呪われたと思っている、様式美だとか何だとかで西洋人形のような私は
箸が上手く使えなくて当然だ。それで良いと常々言ってた。

「何故?使えるの」

「何故と言われると困るのですが、聖杯からの知識」

「違う、違うでしょ、ねえそうでしょ」

本当に何故か箸のみ上手く持てない、手先の器用さなければ手の先に集まる魔術回路を使えない。
シオンは目の前で、信じられないものを見ていた。
外見、同じ非亜細亜系の確実に悩殺な英霊さんがご飯一粒簡単につまみ口に・・・・嫉妬した。

詰め寄せれると顔触れ合うほどまで近づいて問う。

「あの、ちか・・ぃ・・」

「そんな知識だけで出来るのなら、努力なんていらない」

「それは確かに、そうですが・・・私が他の何処から習得出来るのでしょうか。
・・・あの、そのシオン?ご、ごめんなさい」

「いらないのよ・・う、う・・・」

食事どきに綺礼に散々苛められて来た記憶が浮かび、姉姉妹妹と言い合ったライダーまで裏切り者とは。
あまりの理不尽さにシオンの鋼鉄の意志が錆びかける。
どうしようもない事なので、いじけたマスターを甲斐甲斐しく慰めるしかなかった。

落ち着いてきてもライダーの手を離したりはせずに、じっと傍らに引き止めつづけた。

「私にはね」

「マスター?」

「様々なものが欠けていたの、優しさや誰かを大切にしようとする感情も持てなかった。
今は違う、誰も助けてくれなかった孤児院でさえ天国で、サーヴァントも捨て駒にして
あのままなら、きっと一人で死んでいたと思う」

「・・・」

「気に入らないの?」

「そうです、私を石の獣とした存在のようなシオンは好いてはいません。
心だけでも醜くなってしまわないようにと、釘でさえ使って打ちつけ止める意志を捨てない人。
決して、成長を止めない木の芽こそ、我がマスターだと。
・・・今はただ暖かな陽光が雲の隙間からさしています、だからといって」

言峰綺礼は清く正しくストイックであったのだから、心を食べても体には手をつけなかった。
命までは手を出さなかった、だからどうなのか?サーヴァントにそんなこと知らせても意味が無い。

「だからといって、育つ方向間違えないようにしてとでも言うの?」

「はい、いま、わたしの在るべき理由が、みつかりました。
だれでもない、ありのままの姿を見て思うのです。
私も素顔以外のものに情を加えてまで奉げたのは、相応しき人物だからなのです」

「私って酷く善人ぶる時があったり、たった一言で引かない我侭な───そして頑固で。
───いいわよ!認めてあげるわよ!だから口出しはそこまでだからね」

余計なことだと、ライダーに向かって挑発をしてみせてもマスターに在り様を問うサーヴァント。
ライダーは見た目と違って随分と子どもぽかった、拗ねて無言になるし思いのほか欲もあったし。
無邪気な忠誠ではない証なのかもしれなかった、マスターに絶対服従ではないのも納得がいく。

「今日は私ひとり狩るから気分じゃないかもよ」

「それでもです、果たして私は■■なのかという疑問が在りますから」

「嘘、告白してたよ」

「それがどうかしま───したか?関係ないことでしょう」

正直じゃないサーヴァント、嫌ならそう言ってくれれば良いのに。

無抵抗の人間を■■するほど信頼関係を築くには至らないが、それでも令呪を使って戦わせるほど
冷え切ってはいない。それだけで良い、聖杯を望まないサーヴァントにはちょうど良い温度だった。
・・・魔力が火のように熱くても。



■ ■ ■



手を握り友好的な態度、と似合わぬ非情な言葉を交わす二人の美少女。


「力押しで私のサーヴァントに敵うかしら?」

「あなたのアーチャーに勝ち目はないわ、ひと目でもわたしのセイバーを見れば
時には智謀さえ無意味にする力が存在すると思い知るわよ。正体も自然と知れるだろうけどね」


子どもらしくか西洋人らしくかゼスチャーが多い。はぁーとしかたないなぁという風に小さな両手を
天に広げて明るく勝利宣言をした。だからと言って、油断はもうせずに手持ち札を冷静に眺める。
気が付いたことを思い知り表情を無くし、自然に聞き返そうとして失敗してしまった。


「どうしてアーチャーだと、桜に聞いたの?先生の記憶は大丈夫よね?」

「もぅ、焦っては駄目よリン、サクラに聞かなくても昨日から大活躍してるのはあなただけじゃなくてよ?
特にキャスターには驚かされたわ、でもあれは時期に消えるわね実力を評価するならあなたよりは低いわ」

「大河ちゃんは大丈夫さ、昨夜はランサーとライダー、そしてキャスターに挑まれたよ。
今回は前回の続きだね、バーサーカーは消えた事を掴んでいる。そして消去法でいけば」

キリツグが指折り数えて言う、いまさっき居間で見た人間とは別人と疑わせるほどの
ぞくりとさせる視線を遠坂凛に向けた。

「君がアーチャー」

「・・っ、わ・・・・・・私は勝つわよ、イリヤスフィール」

「楽しみにして行くわ」

歩き出してから一度振り向いて間桐桜をちらりと見て、アーチャーが何か言ったのか空中を睨み
それから今度こそ去っていった。ちょうど藤村大河が起きてきて屋敷に活気が出てきた。

イリヤが加わって女の戦いが勃発し、桜はビリビリと火花散る二人の間でおろおろとする。

「いつ来るなんて?娘なんて初耳なんだけど」

「もう忘れてたんでしょ、はじめましてタイガー」

「ちょっと前にね、桜ちゃんも久しぶり」

「でも何処かで見たことあるんだよねー街でかな?学園の生徒には似てる子いたような」

記憶を改竄された大河はごく自然に学園の生徒のひとり、言峰士陰の名前を出す。
お口が達者な小娘は、純白と赤の入った珍しい瞳で彼女を髣髴とさせる。

記憶の綻びが無いことに桜は安心していたが、キリツグは言峰の名前が出たところで何かを考え始めた。








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