●.15


「神父!おい待てよ何を言ってるんだ!?ぼ、僕がサーヴァントを失ったのはあいつが悪いんだ、キャスター
なんかに負ける弱いやつを呼び出した桜が、あんな奔放な魔術回路が少しあるだけの・・・・な、なんで藤村が」

「ああ、あら、間桐くんも関わってるの。桜ちゃんもそうなのかな・・・・・」

綺礼が閉めた扉開けて入ると、慎二は意外すぎる一人の女性の姿を認めた。
うすくらやみの中に茫然自失といった様子の藤村大河。
黒く汚れたの包帯で巻かれた物を抱えていて、言峰が神父らしく懺悔か礼拝かと問うていた。

「それは血だな、どうしてここへ?負傷したのなら手を貸そう、それとも人を殺めたのかな?
藤村組の娘だと記憶しているが・・・・さがっていろ間桐慎二いいな?」

「いいの神父さん教えて間桐くん」

一部分だけ包帯を解いた。
ぽたっと大河の手から腕をつたって落ちる。
それに切り口なんてものはなかった。

異形だった。
気味悪い肉のかたまりだった、染み出している血らしき液体は赤の色だったが
どこか人工的過ぎてやっぱりそれが人間の腕だと理解できるまで時間を要した。

「これは何?これが切嗣さん?これが・・・隠してたことなの、あ・・頭が痛い、痛いよ」

「む」

「う、う・・ふっは、はぁっ・・・痛い痛い痛い痛いイタイィ・ィタィィイ!!!ああぁぁーぁ」

キャスターのマスターが葛木だった事も相まって、壊れた声をあげる大河が
慎二にも不気味なものと映り苦しみ気絶するまで不用意に近づかない。どさりと倒れる藤村大河。

「・・・・・・・・何だよこれ、異常だぞ。こんなの外に捨てて置けよ綺礼」

しかし綺礼は落ちた腕に興味示すことなく、間桐のマスターの言に耳貸すことなく手術を施した。

「暗示か。凛がしたのだろうが短い時間を稼いだだけだな。
いずれこうなると予想しえたろうに。
まぁいい、次は私が、これに・・・・・ふむしかも長期にわたるものか」

「おい」

色々と五月蝿かった藤村は桜に必要以上に関わって、間桐に深入った女だった。
アインツベルンの代理人と聞いた男が囲っていた女だ。
だからってなんだ?なんだよ、こんな奴まで・・・とばっちり受けただけだ。
そうに決まってる!あの気味悪い女、桜が関わってるはずがない。

「いい、いい手ごまが手に入ったぞ間桐のマスター。
これは必ず役に立つ良い人間だ。魔術師ではないが確かにこれは使える人間だ、教会の方針に
沿える行動を起こしてくれる。学園に根を張ったキャスターの不意を突けるぞ!嬉しかろう?」

「う・・わかったよ精々僕が聖杯手にするのに手伝ってもらうよ。はは・・ははは・・ははははは」

より大きい悦びを得たのは監督者だろうか、策略を授けられた参加者だろうか。
言峰と間桐はひとりずつ笑っていた。













滅多に覗かないあの蔵の中は薄暗かった、だから何が居るのか分からずに進んでしまった。

─────デジャビュ、だが手に竹刀はない。

扉から数歩、気が付かなかった生き物の気配に立ち止まったけれども
急に寒くなったから蔵に入り込んだ野良猫飼い猫のたぐいだと自分を納得させた。
でも、ソレが居ると思った場所まで行くと、何かが倒れている・・・それが生き物とは思えず。
・・・まず人の腕が落ちていた、あとはバラバラになっていた。

「え・・・?人じゃない、これ人の血じゃないよね。これ・・あ」

「ぁ・ぁ、だれだ・・・」

声を発した物体から離れようとして、嫌に身体が重いのに焦った・・・違う金縛りだ。
新しい暗示が解けると共に、古い暗示の重ねがけも解けようとしていた。
ここであの人の声が聞こえちゃ絶対に駄目だったのに。
誰のどんな感情から発せられた言葉か理解する。
だからこそ硬直が解けない、恐怖は遂に現実を受け入れさせる。無理やりに。

「大河だね」

「う、ぅ・・うわあ・・・ぁぁ・・・・あ、なんで・・・うっぐっぐあ゛あ゛あ
切嗣。切嗣さんわたし、わたしわたしわたし・私、私」







老いたような擦れた声に怖い記憶が開いた。







チリチリと燃える、あの時の私の記憶の中には怖い男の人がいた。
優しさなんて微塵もないコートの男は悪の魔術士そのもので、わたしは簡単に人が死ぬ
のをはじめて見た。驚きが恐怖に変わる前に走り出し逃げた結果、運良く若い衆の一人
が保護してくれた。

そのあと災害が続いて、わたしは殺人を目撃したことも手伝い小動物みたいに怯えて雷
画にひどく心配させた。父母代わりを務めれないと後で嘆きを聞いたけど、あのときは
どうしようもなかったのだ!あんな殺気があると知って、顔見知りの人間さえ怖くなっ
た自分、身を守る為に武道に本心を入れて恐怖から逃げていた。

そして住宅街の大規模火災が起きた暫くあと、あの男が我が家にやって来たときに私は
ピリピリと怒気を放つことしかできず、衛宮切嗣にの傍らにいた幼い女の子にあてて泣
かせた。その子は、殺人現場に居た子とはまるで違っていた。
平然と血を見ていた私ぐらいの背丈をした金髪の子、でも目の前にはいるのは私の生家
である大きな屋敷や多くの一癖ある若い男たちに怯えるただの罪の無い黒髪の子。

「その子は桜」

「え?」

「これから藤村に世話になるだろうから、あまり殺気を向けないであげて欲しい。こわがってる。
僕は衛宮切嗣、しばらく顔ださせてもらうだけだから」

我慢してほしい、と笑った。
その笑顔を不覚にも愛してしまった、恋より愛を先にしてしまった時に極道の血筋を感じた。
藤村大河はその愛に狂わされると知らずに、通い妻のつもりになっていた。

「かわいい桜ちゃんお姉ちゃんのことよく聞いてね、料理も・・・あれ?ちょっと失敗」

「大河なのよタイガーじゃないの、ね?それとお姉ちゃんのことよく聞いて」

「あの桜?いいかなあ切嗣さんにね、誕生日プレゼントあげるのは
二人で仲良くしようねって・・・なにーそのケーキは手作りっぽいぞ、ライバルかあー」

「あのねごめんなさいお姉ちゃんが悪かったの許して、ってあの桜さん?
もう一時間も正座で足が・・触れないでえーーーぎゃあーーーあくまーーー」

「あれ?その服男物じゃないの。雨続きだからって切嗣さんが留守続きだからって
時間取れなくてここに来れない私にこれ見よがしに、性格悪いっ、絶対わざとだっ」

「いっただきまーす、すっかり主婦だねー・・・ちっっガウーーーーー!!!!咆えた言うな!!!
お嫁さんに行くんだよー光源氏認めないぞー本気だぞー、年離れすぎてるってばこの頑固ものメ♪」

「料理もできて学校でも優等生で、でもだからかわいくないよー
おかあさんの表情するようになっていじめるし、雷画には礼儀正しくして絶対ポイント稼いでるよー」

私は一途になりすぎていたんだろう。いつか彼に振り向いてもらえると確信してしまっていたから、強い
運命で結ばれていると確信していたからお邪魔虫の間桐桜とは割合仲良くしていた。どうして衛宮邸です
ごしているのかは詳しくは知らなかったけれど、兄とは腹違いと聞いていたから事情が複雑なんだと思っ
ていた、藤村の家との縁もあるのだろうと考えて仲良くしていた。

この十年まったく危ないことなんてなかった。だってそうでしょう?だからまさか私が巻き込まれるなん
て思わなかった。生徒たちに注意を促していたのは私だし、部活も遅くまでかかってしまうのを見過ごす
なんてしなかったから例え主将の美綴さんでも一人じゃ帰らせないつもりだったし、まして桜ちゃんとは
一緒に帰って・・・。

あの日どうしてか私はそんな当たり前のことを破って、二人で後片付けに時間かけてしまった。

「それで俺は何の因果かこうして仕えてるわけだ」

「・・・・」

「おい無視するな」

「だってあなた私を殺したじゃない、それに私なんて前のマスター以下だって言った。
信用できるものですか」

「拗ねんな!・・ったくよーあーあー勝手に言ってな。
でもな戦うときは必ず勝ちに行くからな、相手が誰だって俺は戦闘者なんだから」

「それで桜ちゃんは諦めたの?」

「なんだ言っていいのか?俺生徒の名前は知らなかったんだぜ。
魔術知らないマスターだからって見逃すのかよ、口封じはしてあるってわけか?」

「うん、いいえ」

「おいおいそりゃどういうわけだ?」

「切嗣さんから頼まれたもの絶対に桜を止めてって、それにあなたは全員知ってるんでしょ
仇返すなら私は誰から恨めばいいの?学園で事起こしたマスターから?」

あの神父にやはり何処か壊された、いや頭を弄くられたマスターに顔を諌める。
三回目の鞍替えなど滅茶苦茶だ。
こんな聖杯戦争で本当に他のサーヴァントは聖杯が得られると信じているのだろうか?
俺には関係ないことだが、殺る気が削がれていないといいなとは思っていた。

「ああそうだな」

一度戦って素晴らしかった死地への踏み込みはやはりアーチャー、となるが一番厄介な相手が
教会の何を考えているのか分からない怪僧・・・あいつがマスターに暗示さえかけなければあ
の場で宝具を使用したのだが、今はまず脱落は易いところからだろう。

「マスターの状態考えるならキャスターかライダーが相性も素性も俺には楽だろう、あとは」

「魔術が総てなんて思い上がりもいいけどね、私が誰の意志を継いで戦争参加をしたのか
わかってる?藤村が借家させる相手の正体ぐらい空気で知ってるわ、あとは何?」

「いや魔術師が一人いる」

白い女の赤い魔術が鮮明に目に残っている。

「あの屋敷に居た白い女はおまえの知り合いだったのか、あいつがマスターにならずに
殺した相手がマスターになるなんて奇妙な縁だと思ってな」

そんな予感があった、言峰の娘だと知ったのはつい最近だったが・・・どうも俺には本当に女運がないらしい。

あのままで終わるはずがないと思っていた。
サーヴァントを相手にして衰えることなかった闘争心が、死にそうになった程度で消えるはずがないのだ。
すでに血を血で洗う聖杯戦争に参加しているに違いない。
白き身体に光る令呪を持って再び現れるはずだ。

「姿消して、家に帰るから殺気は消してもらうわよ。
まず武器を揃えてから雷画に衛宮邸にいた誰か・・・確かに居たそいつのこと知りたいし」

残念なことにランサーはクラスと特徴のみを知っているだけで、格別マスターを
標的にしない戦闘狂であるせいか名前は誰一人知らないようだった。
それでも、黒髪の特徴的な女の子と白い・・・イリヤちゃんだろう、衛宮邸にいる。
黒い女とキャスターとは学園と教会に現れて、一戦したようだ。

「じゃ消えてて」

立派な門を抜けて、警備に立っていた男に挨拶していく。
男物のコート姿の大河に戸惑っているようだ、だって仕方ない服は衛宮切嗣の血まみれなのだから。

「おかえりなさいその姿は、どうされたんです?
大丈夫ですか?大河さん。お手伝いできることあるんなら是非」

「ええただいま仕度はできてる?一応話はしておいたけど私の部屋にそろえてあるかしら?
きっとこういう日のために絶対しまってあったはずでしょ、一人分あればいいのよ」

大河はあっさりと助太刀を断って一人前の修羅となっていた。

「おうどうしたそんな格好で、ん?」

もう知らせてあるのに、いつもと同じように笑って迎える雷画。
この人には、知らせなければならないだろう。
私が戦争に出向くということを、帰れないかもしれないということを、その戦争に仲良くしていた桜が
関わってしまっているということを、でも・・・頭を垂れて黙るしかない。

「・・・・・・・・・・・・・絶対に帰ってくるから」

「そうかい、うん、戻ってこいよ。ここはそういう場所だ」

「ありがと。じゃあ期待してて」

軽く笑って自室に移動した。
いつも見慣れない一式の道具が用意されていた。
大河の普段着はカラフルを好み動物柄ばかりで、それらは喪服と葬具に見えた。
でも黒いスーツ姿であれば血がついても目立たない、そしてコートに様ざまな武器を忍ばせれる。
戻ると急なことだと言うのに、大勢の若い衆たちがそろっていた。

「きまってるじゃねえか」

祖父が晴れ姿に目を細めた。

「本当は花嫁衣裳に袖通して欲しかったんだがなあ」

「これとどっちかしか、叶えて上げられなくてごめんなさい。でも生まれてから決まっていたこと
だけど私が一番驚いてる。まさかこんな日が来るなんて・・・・みんな行って来るわ」

三つ折り畳につけて頭を下げた、立ち上がり出て行くそして振り返らなかった。















「静かね」

城と森の境目、特に手を入れていないので庭というには過ぎるが小さいな池があって
日本とは思えない広大な敷地、それを余裕という言葉で作った。
凛が聞いたら親の敵のごとく恨むだろう。数羽の小鳥が毎朝来て水を飲みに来ていた。
イリヤスフィールアインツベルンの優雅な一日のはじまりであったはずなのに。

カチャ

「こほん」

カチ

もう少しゆっくりとできないものか、別に誰も欲しがらないのだから。
ないのだから・・・リズぅ〜。

「よだれよだれ」

「あなたたちね?」

セラの機嫌を損ね、王様の機嫌まで損ね、これじゃ我が侭通らないかもしれない。
切嗣は昨日から偵察に行ったきり帰らないし、あの放浪癖は死ぬまで治らないようだ。

「もう二人とも私の従者なんだから変な言動は封じなさい、特に
──────アルトリア?口にはつつしみを」

「わたしですか!?王であるわたしが何故このような者と同列に言われのない非難を」

「昨日セラに黙って」

「またリズは何を根拠の無い、食料は減っていないはずですよ。
リズあなたが手を出していなければね?私に嫌疑かけようとしたようですが、甘いですね
ケーキよりも甘いソルトよりも甘い、牛肉でなく鶏肉程度だ」

「リーズリット嘘つかない」

普段からリズははったりが過ぎてると思う、でも常敗の王が相手なら問題にならない。
ライバルのリズは幾度の戦いも傷ひとつ負わずにいるというのに。
二人の戦いの歴史は、サーヴァント召喚時から始まりこの聖杯戦争まで縺れ込んでいる。

「ハンティングしてた、あそこ」

窓を開けて池に来てるカモを指差すリズ、その近くの茂みに何処から調達したのか檻。
一匹捕まっていた。
それをセラが逃がしに出て行くのは見慣れた光景で、あとでセラに折檻されるのも嫌になるほど見慣れた。

どうしてこうセイバーは猪突猛進以外は学習能力が皆無なのかと、憂鬱になる。
なるが叱らねばならない。

「・・・セイバー」

この神がかった美と力もつ王の現界のためであってもアインツベルンである私の魔力が足りないはずが無いのに。
相手の逃げ足に引き分けたのは仕方ないにしても、リズは姑息な手段を採らない。
仲が良かったら、タッグ組んでどうせ私が苦労するのだから今が一番良い状態なのかもしれない。

やっぱりブリテンの王は口先で執って食われる運命なのかな?








next