●.17


日本に幾つかある有力な霊脈、枯れ果てた奇跡ではない本物が存在する冬木の地。
はじめて異教が目をつけ介入した時には既に大聖杯がある霊脈には寺が建立されていた。やむなく隠れ蓑と
しての教会を小高い丘の上に建て、しかし献堂された場所は立地条件として悪くなかったようで一定の布教
には成功している。それでも本来は聖杯の出現監視が役割だ。

港町でもあり居住した外国人も多かったので、現在の住人でも何代かさかのぼれば血が混じっているのが
どこかわかる。たとえば天然の黒髪に赤毛が混じっていたり、先祖がえりか眼に黒以外の光が入る子ども。
それでも日本人に見えるし日本人らしい風俗をつけていれば溶け込めるが・・・
特別はある。

異質を一身に集めたかのような彼女は死別に救いを与えている、シスターという姿で。
神父はそれを祝った。
この十年間は黒き父と白き娘が教会では葬式を執り行った、ただ魔王と天使と言われたのを知らないのは娘本人のみ。

教会。ここは別れの地である。
聖杯戦争を放棄をするならここでサーヴァントを裏切ればよい、だが今は無人のようだ。
────それでも慎重になる。


「シオン本当にここにサーヴァントがいるのですか?まさか、誰を疑っているのです?」

「育て親である我が父よ」

「そう言われれば孤児院でしたかここは、教会というと聖杯戦争では一般的知識で図れない不確定要素ですが
参加しているのですね。とんだ食わせ者ですが・・・・」

「私を参加させたときから怪しいと思うべきよ・・・馬鹿な私以外なら尚更ね。
ライダー退路の確保をお願い、聖杯戦争が始まるまでそぶりも見せなかった冷酷さ持ってる奴なの。
見つけ次第殺していいわよ・・・死なないと思うけど」

「・・・騙されたと憎んでいるのですか」


それだけは違う。
養い生かしてくれたことを本当に感謝している。

わたしには父がいる、すがたかたちが似ていなくても、わたしには父がいた。
雨の日、脚の具合が悪かったときに決して優しくはされず古傷を弄られたけど二度目の私の生を否定しなかった。
あの人は嘘つきの聖職者だ、だからそれがどうしたというの。わたしの父だ。


「憎むとか単純すぎて思わなかった、奴が素性を曲げて公明正大な聖職者だとしたら真っ先に殺されている。
・・・・私は異端者よ、庇護されなかったら火刑に処され土にかえってる」

「・・・・迫害されなかったから自らは手を振り上げまいと?私に?まぁいいでしょう。
敵と確認しに来たのですから何処へ向かいますか、この建物は見た目より入り組んでいるようです」

「まずは綺礼の書斎」

「ところでどうして気が付いたのです、マスターであるのだと知らなかったはずですが
いつ刻印を確認しました?他のマスターの策謀かもしれないと思わなかったのですか、使い魔ですか?」

「彼らに出来るのは一般人に出来るていどの偵察よ。
地理に多少詳しくなるだけで、言いづらいけど、わたし本当はあの程度だって反則して漸く使えてるの」


イリヤに見逃され既にわかっている敵である遠坂を避けた、弱気なマスターと思われたろうか。
真名をライダーに知らされたからこそ、私の生まれた家へと案内すべきだと思った。
それに・・・綺礼はあわせるべきだ。
積まれた書類、図書には目もくれず床を触っていく壁と移っても真剣に繋ぎ目がないか調べた。


「ここには何もありませんね、教会の武器倉庫は近くにはないのですか?」

「知らない、今まで見たことない。あいつはいつも必要に応じて準備していたから、その都度
教会やその相手と交渉して借りてきていたと思う」


表の花壇には予備の弾丸がカムフラージュしてあると言っていた、確認したことは無い。
いつも仕事は私の使う発火程度で済んでしまうからだが、黒鍵は教壇あたりに隠してあるはず。


「何より肉体派だから稀なのよ。ただ唯一の例外は私そのものかな、養われていたと言うより
飼育されていたと表現が当てはまる。生まれたてで身体が弱かった頃に療養の世話をして貰ってもね。
人物像について聞かれると色よく脚色出来ないし、育むと言われると違う感じを受ける躾はあったかな」

「わかりませんね、それでも父と呼べる心情はどのようなものなのか
考えたくないでしょうが何かされたのでは?」

「・・・暗示?残念ながら抗魔力だけは比するものが無いと言われてたわ。
・・・この部屋だと思ったけど隠し扉とか無いわね」

「当て外れましたか、ではどうしましょう・・・他のマスターの情報が記されたものがあるはず
ないですし、武器も手に入らないとなると」

「出ましょう、久しぶりにあいつらに会いに行くわ」


建物を裏口から出て墓地へ脚を進めた。
木が増えていき、あたりは暗く人の気配がなくなってライダーは警戒している。

でも、墓守のシオンには歩きなれた場所だ。
この墓場は居心地がとても良い、ある場所まで来ると口に指を当てて魔術を行使、聞こえない音を作り出した。


「今のは何を?」

「犬笛みたいなものよ。彼らを驚かせないでね、ただでさえサーヴァントという規格外なのだから
殺気だって貴方のその綺麗な脚に噛みつくわよ」


ジッ・・・・・ジッジッ、ピィー、ジッ、チッ、カッカッ・・・トン・・
何も無いところから音が出始め、足音までし始めた。それでもライダーにはなにも見えなかった。


「え?」

「避けて!シオン」


衝撃が空を斬って喰った。
シオンが墓場に浮かび上がるものたちの気配が薄れたと思ったら、飛来した何かが身体に刺さる。
ライダーに抱えられて、かなりの距離を移動していくゴオーッと風が耳に残る。

そして木に背を預けて血が流れ出ていると理解した、魔術かけてあった服が変化して包帯を編む。


「敵が居たようです、行って来ます」

「頼むわ、わたし川に逃げるからあなたも」


シオンは考える戦争で背を向けて逃げると言うのは、死を意味する。
パートナーを失っては勝利に手が届かない聖杯戦争では特にサーヴァントがマスターを狩る、それを徹底したのが
前回のアインツベルンだろう。時間も既に夜と言ってかまないから今の奇襲はアインツベルン!そして剣によるも
のだから使い方が多少変則的だがセイバーだろうか、だが何故か私の後をつけてくるなんてするはずないと思う。
どうしてか知ってる、アインツベルンは堂々と残虐さを見せつけるはずだ・・・だから、だから。

考えがまとまらない、いくら油断したとはいえあの凶暴な攻撃を加える相手がライダーで抑えれるとは思わない。
令呪での支援でも、あの幼くても最強のマスター相手となると墓場で墓穴を掘るはめになる。

冬木の川の橋の上、夕闇迫るとき話した。夜にはここに帰ってこようと。


「ええ必ず」















月の光が届かない真っ暗な森の中、進む無数の影があった。人の形をしているが明らかに知性を失っている。
この闇の中、触覚と聴覚が頼りにしなければならないはずなのに足運びに慎重さが足りない。
だから決して速い移動とは言えない。
それでも、ワラワラと・・・気が付くと数が一段と増していた。


「・・・・ついたか」


いつのまにかその集団の中心には一人の翁がいた。
間桐臓硯自らの出向きに、冬木の辺境部にひっそりと建つ城は静かだ。


「キキキ、ギ」

「参ろうか」


瞬時に主だけでなく総ての人だったもの・・・うごめく死者も影色に染まった。
アサシンの技だろう。
城に侵入した彼らはあらゆる死角の影に潜り、アインツベルンの領域を汚染し侵犯せしめる。
もうこれだけで、この無駄に華美でそもそも魔術的価値が少ないイリヤのホテルは落城したも同然となった。


「ふむ今回は仕事できてしまったな、残念だが仕方あるまい」


それを軍隊仕様のスコープで見ていた人物がいた。
翁に負けず劣らず黒い空気を出して、何か考え事をしたあと止めてあった車に乗り去っていった。














手についていたシオンの血をなめとり、マスター狙う相手に復讐をすると誓った。
ただでさえ血をよく流すマスターだ私以外に与えてなるものか・・・嫉妬、まさか?血の契約だ。


「卑劣な敵・・・とはいえそう易々とは引き下がれませんね」

「ほうそうか迎え撃つか弱者よ、マスターを逃がしたというのに我と対するとは賢くないな。
貴様はどこの者とも知れぬまま死にたいのか?ライダー」

「禍々しい。どれだけ人を殺めたのですか、現世の大戦の英霊としか考えられない。
・・・だが一体どうやって!?いや今は止めます!」


鎖を打ち付け跳ぶ身体、周囲の木々を足場にして立体的な動きで敵に仕掛けた。
つまらなそうに手には何も構えず、セイバーのはずなのに腕をピクリとも動かさなかった。
キンッ
鋼打つ音、武器は空中で巨大な矢によって弾かれた。


「な、なんです。これは!セイバーではない!?」

「そうとも貴様など我自ら振るうほどでない。伏せよ地に沈め!
・・・さてと殺してはまずかったか」


キンッ
鎖は突然宙に現れた武器に断ち切れた。
圧倒的な量の砲台から飛ばされる剣、威力とスピードもあって避けてもきりがない。
ガヅッ
これが宝具か、大量殺戮も可能だろう凶悪な飽和攻撃だ。
キンッ
しかしこれを英霊と呼んで良いものか、私は過去の例外で善から悪へ落ちたから両面持ち合わせた
可能性もあって呼ばれたと思っていたが違うようだ。


「はっ・・はあっ、ぐっ」


刺さったままだった鋼の棘を抜いて、相手を見る。
しかしそれも一瞬、遠くなった分スピードが同じなら追跡がむずかしいはずと思い違いしてしまった。
間に合わない、頭を逸らして髪を数本持っていかれる。
女の髪を。

宙とんでくる武器をまとめて石化させ落とす。
許せないと怒りで宝具ひとつ使ってしまったが、私の名前は既に知られている気がする。
だが相手はまるでわからない不利、逃げるべきだが止まることなくとばされてくる凶器たち。
相手の姿を追えない。このままでは・・・。


「つまらんな芸でも一つ見せよ、その身は本来馬乗りであろう我を喜ばせたらどうだ」


何度目かの攻撃に着地場所を壊されて一本深手を貰ってしまう。
ギリシャ風の石造建築、墓地の外れの門のひとつまで追いまわされ道を外れていく。
小川流れる木立の中へと足を踏み入れる。

背後からの聞こえた、私にさえ恐れを抱かせる不吉な感情含む男の声。


「ほうシオンは逃がしたか」

「誰!?くっ、挟み撃ち!」

「遅い」


振り向き石化させようし意識が途絶えた・・・凍える雪舞い振る夢を見る。
ブリザートの中で人影が数名、巨大な空間の断絶を囲んでいる。

やがて彼らは雷鳴と業火に光明をとばして、中から、外から、いや違う、引っ張り出している。
出されているのは私の手。
非力な手だ、血の通うただの手、そのはず・・・。
だがそれは変化していく、この世界に移動させられた手は人の手の形を失う。
バリバリと手だったものが空間を食べてしまう。

その様は化け物───。


「・・・・だ・・・・・・つ・・・からか、ん?」

「起きたようだ」

「ふむ」

「聞こえるか、サーヴァントライダー」

「ん、・・・・ぅん・・・ん、神父!お前は、私をどうするつもりですっ!」

「そう怖い目をするな。この女に見る価値はないと言うが実に楽しみなものだよ、ひとつ賭けをしないか
前回は負け越していたろう?今回はどうなるかな」

「不愉快だ、貴様とは光と影の我が常勝でないとは・・・」


慎重に出方を窺ったのがあだとなりペガサス出す暇も無く、彼らに捕らえられた。
生死を分けた戦いで捕囚の屈辱を受けていた。
・・・・ここは、気味悪い薄い死が漂う場所だ、何処かの地下へと幽閉されている。


「あなたの目的は、な゛ん・・」


睨み喋ろうとした途端わたしの喉は潰されそうになる、相手の目は冷酷さだけがある・・・サーヴァント?
宝具を連射した相手だ、それしか考えられないが今改めて近くで見てみると人間のようでも
また・・・・・・・・・・・まさか?聖霊のようでもある。そんな不思議な存在など聞いたことが無い混乱する。

じっと見ていると言峰綺礼がつまらないとでもいいたげに彼を挑発する。


「・・・・・」

「しないのかね?そうだろうな楽しみに聖杯戦争でシオンのサーヴァントがこれではな」

「黙れ」

「・・・ふ、殺しはしない餌にはなる。貴様の楽しみ、いやお前が拾い上げ私が育てた」

「黙れ呆け」

「躾なかったからシオンが捻くれていると責めるのかね?
様子を見に来ていたのは報告受けているのだが、知らないとでも思っていたのか?」


何を話しているのか、シオンが・・・この不可解な存在に関わっていた?かなり以前から仕組んでいた?
シオンに伝えるべきだろうか・・・ライン切れていないはずだが意思が伝わらない。


「なぜ!?あなた何をしました、シオンとのラインに小細工をっ!」

「切ってはいない。まだ舞台に居てもらわねばつまらないのだ、エミヤがああでは
他に色々と用意しなければ聖杯戦争を楽しめないだろう?」

「シオンに何をさせようというのです、ろくでもないことでしょう!この裏切り者!」

「心外だ。シオンは決してそうは思っていないだろう私が罠にはめたと知って真っ先に殺しに
来た、違うか?それに用心深くもサーヴァントの相手を自分でして、きっと私にお前を当てたろうにな」

「そんな魔術師(マスター)が英霊(サーヴァント)に向かい会うと?
まして・・・」

「あの女は我に再び会いに来るだろうな。運命なのだ。
貴様などではあの深遠は踏み込めぬ素晴らしき存在だぞ、我が抱くのをそこで見ているがいい」


教会から調達した呪いのかかった武具、いつかシオンの業火を消し、助けともなったものたちで
ライダーのラインを閉鎖していた・・・言峰綺礼は隠さず語る。
彼は何を考えて、わたしを生かしている・・・一体シオンに何をさせようとしている。
・・・狂気を淡々と見つめれるのだ、それはきっととても許されないことだろう。








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