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美味しい料理作ってくれる桜ちゃんが家の事情で
暫らく来れなくなったと言うので、ガッカリしていた藤村大河。
しかし昨日、どうにも忘れている用事が有ったように感じたので
衛宮邸に向かった藤村大河はそこで思わぬ拾い物をする事になった。


「おはー」


倉の物音を聞きつけて泥棒っ、と間違えてヤってしまったのは数週間この家の家人となる言峰士陰さん。
短い期間とはいえ、無愛想でも男の子に人気ある女の子をこの広い屋敷にひとりだけで
住まわせるのは教師として見過ごせないので、虎のぬいぐるみに埋もれて私も泊まったのだけど。


「おや、もう出来てる?それで昨日は眠れた?」


それに切嗣さんに了解ないまま人を家に上げるのなら、私が見てないと駄目よね?
いくらお爺さまの紹介とはいえ・・・納得でき・・・料理が美味しいので納得したけど。
うむ、飯の上手い人に悪い人はいないのだ、タイガー座右の銘。


「おはようございます、眠れましたが先生は随分遅くないですか?一人暮らしでしたね。
・・・生活のリズムは大切ですよ、貰い手が困らないように早く起きて家事など如何ですか?」

「こ、この娘は・・・おおっ!具沢山のお味噌汁におひたしに色鮮やかなサラダも!
シンプルで珍しい調理法ばかりだけど、バランスとって凄い!good!こんな和食も作れたの?」

「はあ、一応中華以外は作ります。お口に合わないのなら薬もありますので」


美味しそうな匂い漂わせる朝食に席につく、桜が配膳から何からしてくれる
いつもと勝手が違い自分でご飯よそったりしたが、桜ちゃんの作るものと遜色なく満足だった。
でも思ってた以上に口が悪い娘で、用意していたのか本当にコトンと下剤をおく。


「食べないの?」

「私はもう食べました、朝は早いほうなので」

「子どもらしくないなー、でもいいことよね。朝は一緒に登校するでしょ?
勿論、これからもここに住むつもりなら私の為に(桜ちゃんの代わりに)
美味しいご飯を作って、この藤村大河先生を公私共に師と崇めー・・・」

「すみやかに家の鍵を渡し退去しなさい」

「・・・すごく冷たーいそれに他人行儀でヤ、ここはね桜ちゃんでも過激に突っ込んでくれたのよ?」

「起床されて寝言言う人初めて見ました、変ですね朝ご飯に入れたの効いてくる筈なんですが」

「え?」

「先生遅刻とかしますから電話しておきますね、番号はと」

「何故に断定口調?入れたの?入れたの? 不思議と痛くないんだけど、時間差じゃないでしょう?ねぇ?答えは?プリーズ!!」


さっきの下剤示してニヤリとする士陰、顔青くしてお腹を押さえてみるものの自覚症状は出てこない。
好物である和食にえげつなく入れたとしても、虎専用でなければ意味がないかもしれないが。


「私公私混同って嫌いなんです、ペットじゃないんですから我侭言うとそうなるって話だけなんですよ」

「なんて怖い娘、本当に?本当?」

「冗談です、わたし先行きますから」

「はあ・・・」


学校ではよく喋る娘ではなかったが存在感はあった、ポニーにした白に近い銀髪はよく目に留まるし
もう少し長ければお下げにしないと長い髪、痛むだろうなと思っていた。
でも、やくざの一人娘に脅してしまう胆力の持ち主だったとは。
今回は昨夜の背後からの一撃の仕返しだろうか、竹刀はかすりも当たりもしなかったのだけれど
少し非を感じてなかったわけでもない。このままでは、長年この家に住み着いて好き勝手して来たタイガーの名がすたる。



■ ■ ■



夕日が落ちるのを人気の無い階段の踊り場から眺めている女生徒が一人、一瞬の後に隣には人影が現われていた。
人の気配ではない。
それは危険な存在だったのだが臆した様子もなく、二言三言言葉を交わすとそれは忽然と消えまた一人きりとなった。


「・・・そろそろか」


夜の帳、落ちた校舎の屋上に。
傍目には何もない場所を睨んでいた人影がいた、それを観察するものも。


「なんだ消しちまうのか勿体ねえ」

「サーヴァント・・・誘き寄せる罠だったの?」

「答えると思うか?しかし言っておこう、本当は言いたいことは色々とあるんだが。
違うとな、じゃぁ・・・殺りあおう魔術師、サーヴァントは出さないのか?」


始まった、まさに戦争。
現代科学の学び舎で、科学の理解及ばない者たちが行う死闘。
速さ、破壊力、それらが人型のちっぽけな身体から放出される奇跡に。世界が変わっていた。


「セイバーではないな、しかし自ら剣取って止まるとは情けないんじゃねえか?
ええ?貴様の武器を見せやがれ、こちらとら条件付で我慢してやってるんだ。手加減出来ないからな」

「剣の技量で防ぎきったのだ誉めてはどうか?」

「・・・本気でいっぺん死んでみるか?それからもう一度殺してやりてえ、その前に工夫を凝らせよ、アーチャー」

「やれるものならしてみるが良い、私はマスターの命令を守る。必ずや打ち滅ぼそう、ランサー」


ドンッと衝撃音に舞う砂塵、瞬間の鍔迫り合いの後、二人ともに掻き消える。
ここに来て死の予感が段々と場に現われ始める、神速の突きとそれを受け止める弓兵の間で。
魔力が弾きぶつかり合うその輝きは、とても綺麗でとても恐ろしい魅力を見せて死を惹き付ける。


「まだ受け止めるか」

「弓兵に剣で受け止められるは屈辱だろう?その戦い方、その真紅の槍が泣こう。
しかし令呪とは本当に厄介なものだ、それでも諦めはしないかアイルランドの英霊」

「よく言ったアーチャー」


最速の英霊として召還された事と名まで悟られるのなら、
ここで会ったこと知ったことを全て無かった事にしなければならないだろう。
相手が何処の誰かわからずとも、不足などない力の持ち主であるのなら。宝具の使用も構わないだろう、マスター。


「ならば食らうか、我が必殺の一撃を」








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