●.7


「ま、ったくぅぅぅぅっ、」

「ちぃっ」

「間桐さんも早く帰ってきてよ。この、無茶して、え!?わっ」

「貰った!ああっ、ああっ、他人の心配して馬鹿じゃないのっ。
もうっ、もうっ、私は時間かけてられないじゃないのっ」

桜の無謀と思える行動に驚いた、あんな行動力が備わっている娘だとは知らなかった。
・・・藤村先生に似たのかもしれない。
それに言峰にも驚いた、肉体使って戦う選択があっても魔術師なら実行には移さないものなのに。
・・・接近戦やられたら、体格優れるこの外人女の方が有利になるじゃない。

「冗談でしょう殴り合いなん、てっ」

「・・・勝手に家に入ったあの子も痛い目にあわせないと、逃がしてなんかあげないからね」


桜に家に入られる直前、見ずに牽制にと卵ぐらいの炎を打ったが当たらなかった。
そして凛が援護として行った攻撃も、シオンをいらつかせた。

弱点、とまでいかないが迎撃は苦手。とくに考えのない乱射は。
凛も咄嗟のことだったろう、コントロールせず闇雲に撃ったガントは安定せず
ひとつひとつの大きさも早さも一定ではなかったし何より狙いも安定していない。


「あつ!?」

「掴まえ・・」

「フゥーッ。危ない危ない、今のは綺礼の戦い方だったわね」


体格は圧倒的に士陰が上でまともに相手など出来なかった、一撃必殺の叩き潰す攻撃をなんとか
地面に転がり避けたが不幸な事に服の一部を掴まれた。とっさに犠牲にした外套はシオンの手で燃えた。

シオンが己の体を武器とする以上、宝石という魔力の貯金がある凛には長期戦を挑めない。
しかも一度に狙いを定めれるのは限られ、出力上げれば安定性悪く効率低下が目に見えてしまう。


「不公平よね、綺礼から詳しく聞いてきゃ良かったわアンタのこと。
そろそろ本当に私は私の戦い方しないと」


凛は無数の宝石を無造作に投げた、今までの計算された攻撃と比べるとチャチな攻撃だったが。
量が半端ではない、如何しても避けきれないものが士陰を襲う。
それに対して取った行動は拳をつくった手を重ね合わせて、振りかぶった。

「な!?」

シオンの体は宙を舞い重力を無視して飛び上がっていった、そうして後退に成功する。
凛の驚きも一瞬で、もうこの相手の動きに手を休める事しなかった。
それに何故かダメージも受けている、自分自身の魔術の負荷によってだろうか?

追いかけ屋敷の中にと来たが、そうすると闇に沈んだ屋敷の全景が分かってきた。
半壊し内部から破壊された、人業でない跡に凛は目を細める。

今の乱撃が単の偶然ならシオンには有利な展開だったが、二度目があり考えあってのことと示された。


「二度の大出費、これで終わりにするわっ」

「が、が、ぐううっ、ぅフ」

「また?その手、何?」

「・・・はぁばれちゃったのか・・・フフ、褒めてあげる。綺礼も喜ぶわ」


いくら、奥の手があるとしてもこの強がりは凛には不気味にに写っているだろう。
此処まで言える本当に逞しい精神、この痩せ我慢は綺礼に感謝しないといけない?

それにしても私のように極端な育ち方ではない、健やかな成長した彼女は
えらく可愛らしい容姿からは想像がつかないほどの才能の持ち主であったようだ。
思い切りも良いし、冴えてる。


「あいつに誉められても嬉しくない、あんたは嬉しいんだ?」

「冗談じゃない」

「そうよね、そこだけなら同じ意見になるわよね・・・まだ根上げないんだ、やるわね。想像以上」

とびきり優秀な魔術師でありマスターでもある凛も、この五分にも満たない攻守からシオンの魔術の
異常さを感じ取っていた。二度の宝石の波状攻撃の隙間、隙間に、押し切れる、と何回思った事か・・・
なのに戦意失わず立ち向かってくる相手は、本当にちりちりと胸が焦げるほどの、ライバルだ。
この勝負には負けられない。

同じ魔術師に形だけ師事してる私と同世代の弟子であるこの相手から徹底的な勝利を得れるなら私は。
私は。私は・。何を・・犠牲に、、、冷静になれ遠坂凛。


「マスターでない相手と削りあいしないと思う?私は私を信じているから、容赦しない」


だが口から出たのは、徹底的に戦うという宣言だった。
それを冷ややかに見つめる視線がひとつ、そのまま戦いは続く。


「サーヴァント出すまでも、うぅ・っ、うそだ」


シオンの口は軽く、そして一気に重くなる。
紅い染みが広がる白い服の腹部、攻防で負ったものではないことは一目瞭然。
傷は体を登る。

腕に迫り、そこに魔術で包帯が巻かれていくが追いついていない。法術と呼ばれるそれを
凛は初めて目にしたが、今はそれより自滅し始めたシオンから目を離せない。


「え?なんなの、その血・・油断誘うならもっと最初からしなさいよ・・好機なの?」

「さあ知らんが」

実体化して弓を持ち、マスターに罠か確かめようかと何の変哲もない矢を構えて見せた。

「いらない、言ったでしょいらないって」

「う、あぁ・・・ぁぁ、ふぅーっふぅーっ・止まれ止まれ」

腕が崩れて、常人ならこの光景だけでショック死してしまいそうだ。



■ ■ ■



「もう限界でしょう?サーヴァント呼べばいいのに、アサシンなら出し惜しみは分かるけど・・・
まさか未召還なの?でもそれは私のせいじゃないわよ」

「・・はは」

「まだ笑うまた笑うっ、目の前の私を馬鹿に」

「はははははは、ランサーのマスターはこれが狙いだったのか。
わたし操られてたなんて滑稽なこと、まるで・・まるで・・そう、か」

思い当たったのだろう、幾度となくこの思考をさせられたのだ。
満身創痍でありながら、絶体絶命でありながらシオンは逃げる事より笑った。笑いたかった。
何度も、何度も罠にはまる愚か者の自分を。

「これはもう処置のしようがない、私が任されよう」

「教会に送り返して来てくれるならいいけど、でも少し信用できなくなってる。
本当に記憶戻ってない?聖杯求めているとは違う何かをしようとしてるんじゃない?」

「・・・ふん、そうか。君は疑い深い性質だったな、それほどまでに信用なら無いのなら
言葉ではなく令呪によって十分に縛り付けれるがそれはしないのか?」

「まだランサーとだけしか戦っていない自称最強の正体不明サーヴァント。
それほどの捻じ曲がり様は生前とても真正直だったと思えない、それは今も変わらずでしょ」

「魔術師を捕まえることがどれだけ難しいか、これ次第だが命は保証しようか」

「令呪あったら取るし、私が縛ってやるわよ」

「浅はかね」


血をようやく止めて、血は足りなくて、喋る事さえ億劫で嫌な気分だったが二人から距離を取った。
アーチャーの姿認めると加勢にまた異常な存在を呼ばれたと、眉を諌める。

もう家の入り口を守る必要はなかった、桜が出てきてしまったから。


「無事ですか先輩、先生は大丈夫でした・・・生きてました。
ですから、もうやめて今夜はもう」

「間桐さんこっちももう蹴りがつくトコ、先生は後で私も診る」

「好き勝手して」

ギリリと歯を剥きだして初めてシオンが敵意に、憎悪を乗せた。
その視線の先、行き先は赤い死に神。

しかし、その少しの興奮が悪かったのか血がまた出てくる。


「・・・あと少し、今はここしかない。止まれ決壊するな、こんなことで」

「もう勝負ついたわ教会に逃げたら?アイツのところに舞い戻るのがいやなら令呪を渡しなさい」


魔術師同士で協力するとは考えられないが、でなければ説明がつかない。
この間桐桜も立派な魔術師、でなければシオンが先生を閉じ込めた部屋に張った結界を破れない。

ここに来たということは、きっと彼女が衛宮と親しいもう一人。
だから、シオンは仲裁しようとする彼女とは話したかったが、残りの二人は邪魔でしょうがなかった。


「サーヴァント呼ばれる前にさっさと殺すべきだ」

「有利だからって当然の顔で言うんだ、遠坂さんのサーヴァントは怖いわね」

「じゃあ言う事聞いてくれる?あなたこのままじゃ出血死するわ、それに白い服も真っ赤」


結ばれあげていた髪は、いつのまにかおりてしまっていてその髪にも赤黒いペイントがなされていた。
槍で刺された肩の先から腕は動かない、足はまだマシなものの
此処から走って逃げるなど非現実的すぎた。しかし意思は曲がらない。


「ちょっと動かないで、それ以上」

「動くな?殺しなさいとでも言って欲しいの?それでも魔術師か、駄目だろう聖杯戦争
勝ち抜くつもりと言うのなら、この程度の傷で令呪は消えない。・・・呪いなんだから」

「遠坂先輩、もう、殺すとか言うのやめて下さい。先生だって無事だったんです。
助けてあげたんですよね、先生を守ってくれたんですよね?言峰先輩?」

口で言うほどの悪人ではないと、桜にそんな視線まで向けられては脅し返せなかった。

「だが、学校に仕掛けたのはどんな意図だ?サーヴァント呼ぶ準備であれだけの準備していたのは?」

そこに鋭い声、桜の努力を無駄にする問い掛け。

「あ・・・忘れてた、あれは言峰士陰。あなたがしたことなの?」

「何の話だ?」








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