●.8


「それは何の話だ?学校に、何だって?」

「どうやら・・・違うみたいね、あの性悪な罠を貴女が張ったかと思ったのだけど」

考えもしなかったけど、藤村先生が襲われたのならそこ以外にないのだし
生徒である遠坂凛と間桐桜がこうして、ここに来ているなら学校で異変が起きていることは明白だ。


「許せない、どうして間桐桜?」

「え?・・あ、だっ・・て」

張り詰めた空気が、一瞬だけだったがそれ以上の殺気で両断される。
何故桜はシオンが自分に聞いたのか分からなかった、しかし隠し事を見抜かれたような
気分に何か言い訳をしなければならない焦燥感にかられる。

「信じるんじゃなかったの、私が疑ってるのはまだあなたなのよ。
キャスターかアサシンか・・・本当に呼び出して」

「・・・殺さないの?」

追い詰めたけれど、しぶとく抵抗し殺さないのかとまで言われた。魔術師として私は妹の眼前で殺人を?
でも学校の事は私が解決しなければならない事、それに情報は欲しい。
あの神父を師としている士陰は特別なことを知っているだろう、他のマスターやサーヴァント。

ああもう、私の心揺さぶるだけ揺さぶって、絶対泣かす。言いなりにさせてやる。


「考えると、果たして未だサーヴァント呼べない者がマスターと言えるのか」

「え、なに?」

「そうか、凛には令呪が既に有ったから分からないか・・・兆候段階では奪えないもので
サーヴァントとの取引になる唯一のものが令呪だ、聖杯得る為に引き寄せられる英霊がすべて
何処にいるのかも兆候段階の令呪で、様々に方法あるだろうが探れるだろう」

「さすが正体不明、そんなことまで何故知ってるの、思い出したのはいつなの?
でもそれが本当だとしたら・・・あの神父がルール破りを教えた?なら」

「なら遠慮はいらんな」

「え?」

構えたままになっていた弓から矢を、この距離で外す事はありえなかった。

「「やめてっ」」

「ゲームで焦って酷いカードひいて、同情してあげるわ」


何時の間にか短銃を手にしていた、弓矢は打ち落としたらしい。
その事実に驚く、どんな確立で成せる業なのかと。この距離で対多数、銃に勝る武器は少ない。
隠し持っていたとは・・・今度は桜がいて安易に攻撃は出来ない。


「諦め悪いの、また逆転」

「ではないぞ」

また唖然とせざるえない、弓兵が鎖を放ちシオンの手に絡ませて銃口を塞ぐ。
一体幾つの武器となるものを持つのか、この英霊に限っては宝具とはひとつきりではないのか。

「アーチャーさすが!最強を口にするだけはあるわ、捕まえるのは私でも難しかった」

「我がマスター。ようやく認め誉めてくれるか、遅いくらいだが」


鎖によって雁字搦めにされ、腕も自由にならない逃げられない。
ぽたっぽたったたたっ
シオンの血が、地面に落ちて染みとなる。
それが生きている事に気がつけば、また違った展開があったろうが彼女がニイッと口元だけ
笑わせた時には遅かった、凛が気がついた時には陣は出来ていた。それは衛宮邸を覆ったものと連動する。


「SCHWARZWALD!!」

叫んだ。言葉の直後、シオンから光溢れてその足元から爆発が起きたと思った。
追い詰めて、諸共なんて遠坂の名に恥じぬ・・・いや恥とかじゃないと思う。思いたい。

「アーチャー!」

「フン、見ろ君の躊躇が命取りになったぞ。逃げられたか・・・だが何だコレは」

私と桜、先生のいる屋敷を背に爆発を切り裂くアーチャーの攻撃。
爆風さえ微風と変わる。
頼もしいと一瞬だけ思ってしまったことに不機嫌になるも、すぐにこの屋敷を
外面だけでも元の形にしないと人の目が集まることに気が付く。
爆発後にはシオンが消えて人避けの結界が消えるだろうし、音遮断の結界が消えるだろう。

何より、森の出現はまずい。

「燃やすわけにもいかないわね、何なのよこの魔術・・・異端過ぎるわ。
ということで、アーチャー何とかしなさい。
胡散臭いサーヴァントのあなたにぴったりの仕事よ、じゃよろしく」

そう言って木に埋れた屋敷、半壊している場所の修復と結界をつくる。
それとあわせて間桐桜と先生の介抱も必要だった、そして一番の活躍をした彼は
マスターの酷い労いの言葉にも仕事をした。



■ ■ ■



数時間しか寝ていなかったが、早起きが大の苦手だったが、低血圧だったが・・・起こされた。
昨日はあまりに遅くなっていたので、今日にまわした。
しかしやはりきついスケジュールになってしまった、早朝しか空けれないので起床を頼んだのだ。

ここは自邸ではないから、桜に断わって借りた布団から起き上がる。
まだ疲れはあるが目を開けると眠る必要のない相手が、軽く朝食を用意したと言う。


「ええ、行くからくれぐれも藤村先生の前には出ないで」

「間桐の娘は既に起きて来ている」


聖杯戦争の始まりだけ確認なら、わざわざ教会に行く必要ないのだが昨日あれだけ
コケにしてくれた、言峰士陰の動向探る為にはあの不愉快な男に会わなければならないだろう。

それに、桜・・・今はまだ分からないけど、何か


「先輩ー?起きましたか、早くしたほうがいいと思うんです。先生」

「あれー?」


拙い、思ったより長い時間考え込みすぎていたようだ。
もう大河が朝食に反応し目覚めてしまった、死に損なって蘇生してから十時間ていど
体は再生に深い眠りを求めているのだから、少なくとも昼過ぎまで眠っているとばかり思っていたのに。


「藤村先生おはようございます」

「はい、おはよう・・・?なんで遠坂さんが居るの?」

「昨日先生が私を招待してくれたじゃないですか、駄目ですよ間桐さんに寝かしつかされて」

「え、え・・と、変ね〜記憶にないなあ〜。
う〜ん、ちょっとシャワー浴びてくるから桜ちゃんと先に出てていいわよ〜」

汗臭いなあ、おかしいなあ、そんなに飲んだかな、と言ってバスルームに行ってしまった。
辛い死の記憶は完全に消えているようだ、それに二人は教会に行くのだから都合がいい。

間桐桜も何か決意を固めたような表情をしていた。


「間桐さん行きましょうか、先生を巻き込みたくはないんでしょう。
なら、少しでも私に協力して学園の生活を守りましょう・・・私も嫌だけど教会に行くわよ」

「・・・はい私も守りますから」

「そう」

冷たい朝の空気と、まだ薄暗い町の中を駆け足で抜けた。

「教会に入る前に行っておくけど、あいつの言う事に反応していては話は出来ないから
私に任せてくれる?一応、あんなのでも兄弟子だから初対面が相手じゃ分が悪すぎるのよ」

「先輩、って結構言う方なんですね知りませんでした」

「私もよ、美綴部長、私は綾子って呼ぶけど。
話してくれる大人しくて臆病な後輩が、あんな無茶をして魔術師相手に啖呵切れるとは知らなかった」

「え、あの、ごめんなさい。あの時は・・着きましたね」

「もう起きてるかな、あいつ夜なら遅くまで活動してる吸血鬼みたいな奴だから」

そう言って扉を開ける、とすぐに内部に誰かが立っていた。
顔を上げて見ると見下ろす神父と視線が合った、ばっちり聞かれたろう事に凛は言葉を紡げない。

「それは聞き捨てならないな。もっと敬え、自分の師だろう」

「・・お、驚かせないでよ、それにしてもどうして朝早くから起きて、しかも扉に張り付いて」

「もうサーヴァント失ったか?期待外れ、誰だ?」

凛の質問をまるで無視した話しを始めて、桜に視線向け顔から体に観察する。
その体の内部まで見透かし、断罪するような顔に桜は思わず神父から視線を外した。

「・・ぅ」

「私の協力者よ、やめて。それよりサーヴァントも呼ばずに人の血啜ってた娘引き取りなさいよ」

「私に娘はいない、前はいたがもう私の手を離れた。
それに今はあのような小者は沢山いる、聖杯戦争が昨日未明に始まり教会を襲撃した外れ者がいた」

「綺礼が小者っていうのは自分以外のことでしょう、それでそいつは?
それに士陰はどうしてくれるの、何もしないのはフェアじゃないし・・・建前は中立でしょう?」

「なるほど、独り立ちさせた娘が問題起したと文句を言いに来たのか。一理有るか。
まだ数日も経っていないというに、しかし今出来ることはないな。襲撃者を調べねばならん」

今更シオンの捜索を頼んだ所で、聖杯戦争という儀式に集中しなければ
ならない教会が何かするとは遠坂凛も思ってはいない。

「マスター登録しに来た奴いるの?」

「昨日から眠らずに待っていたが、お前だけだな。
遂に七名揃ったので眠る所だったのだ。
マスター登録に来たかと思ったが、その娘は違うという、ちなみに名前はなんという?」

「間桐桜です」

「・・・綺礼!何する気?」

名乗った瞬間、両肩を捉まれ瞳を覗き込まれた桜・・・その目のあまりの狂喜の色に震えた。

「間桐・・・後継者ではないのか、まあよい。それで元気かな?」

昨夜からだ、昨夜から言峰の姓持つ者に答えのわからない、桜を通して誰かのことを訊ねられるのは。

「い、いいえ知りません。知らない」

「・・・」

もう桜は平静ではいられない、間桐と言峰のわけのわからない因縁の深さに頭が割れそうだった。
桜を解放すると凛は後に下がらせ、神父に立ち向かう。

「それで資格は失ったのかな、逃げているとは聞いたが」

「答えて貰いたい事があるの、令呪・・・それに小細工できる?
あいつは昨日、両手に何か・・・魔術らしくない方法で私と戦っていた」

「法術の一種ではないかな、私が教えたものと組み合わせていたのだろう。
教えたが使えた魔術は少なかった、高度な魔術など使えないはずだ。養子なのは知っているだろう?」

「・・・まぁそれは、でも」

当り障りのない予想のうちの情報、シオンは動きとして不自然なのだ。
独立と言ったが戦争期間内だけかもしれない、グルという確立も少なくない。

それでも、学校に仕掛けた罠の事は話して自分が早急に対処することは伝える。
違反の確認と取り締まりを確認させて、二人はそれぞれ不安を持ったまま登校した。








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