●.9

確認して注目した欠席者は三人、会うのは嫌なもうひとつの魔術師の家系間桐の長男と
昨日の今日で会ったら即冷え冷えした会話するだろうシオン・・・そして美綴の綾子さん。
噂好きの誰かたちが、少しだけ話題にするかもしれなかったが今日はみな揃って元気なく口噤む。

重い、何もかもが億劫だった空気は変わらない。
それは精神的なものだったから、極端なほどでなく運動などには影響が少なかったものの。


「欠席ではないとも聞いた、心労重なっていただろうからな・・・
そんな話も出てきていたとだけ知っておいてくれ、本当は呼びたくなかったのだが」

「それで生徒会長が私に用というのは?」


凛は珍しくイライラした様子で柳洞一成に座った目を向ける、優等生の欠片も見当たらない。

それは休んだ三人の代わりに、善くないものが学校に紛れ込んでいたからだ。
廊下ですれ違った生徒の数名が、明らかに人ではなかった。魔術師でないと分からないだろうけれども。
それだけ堂々と異変を起されて黙って一日過ごすのは堪えがたく、かなりキている。


「風邪ということになっている。
だから親しかった人間ならと思って、聞いたんだが知らんらしいな」

「綾子が?そう言えば今日は見てないわね」

「うむ、最初知ったときは鬼の錯乱だと思ったんだが・・・。
貴様に詳しく聞いてきて欲しいというわけだ、生徒会としても今回の弓道部のゴタゴタを
見過ごすわけに行かないのだ、今さっき藤村教諭も早退したそうではないか。疲れていたのだろう」

「先生が、いつ?拙いわね」

「昼に職員室でな、間桐の妹が連れ添って一緒に帰ったと聞いている。
大丈夫だろう桜さんだったか?美綴と親しかったらしいが、その子も相当に参っているだろうに」

「(アーチャーそれは本当なの?答えなさい、どうして私に言わなかったの)」

「ではな頼んだぞ」

会長が出て行ったのを確認して、実体化するサーヴァント。
マスターが話を切り出すのを止めると、辺りに気を使つつ警戒して言う。

「キャスターと思われる動きが確認された、結界のほうは逆に弱まっていると言っていい」

「じゃあなに、学校に7体のうち4体、アーチャー、キャスター、ランサー、正体不明の1体が
関わっているの・・・ここは竜脈でもないのに。魔術師が多いから?」

「ああ、そうだな。安心するがいい、そして用心するべきだ。
間桐の娘は立派な魔術師で藤村を守るだろう、サーヴァントを得る方法も知っているだろうからな」

「なん、ですって!?桜が間桐の後継者とでも・・・でも令呪は存在しなかったのよ」

「有る事と無い事、証明しやすさは有る方が圧倒的だ。
逆に聞こう、間桐は魔力回路が減っていくとどうして知らせた?隠さなかった?
それでは不利になるばかりだな」

「そんなことあるはず、間桐が他の血を求める理由なんて・・・罠だとでも言うの。
わからないわね・・・それから一度はっきりさせておきたいの、もう思い出したの?
名前は・・・正直に言わなさそうだから、宝具は何?他には何を知ってるの?」

「今は話している暇なさそうだ、労働の時間のようだ」

何時の間にか校庭からの喧騒が聞こえなくなっていた、やけに静かで・・・もうこれは。

「囲まれたようね真昼間から舐めた真似を、相手はあの骸骨?」

「わからん、闇に身を隠さぬ見上げたマスターかもしれんぞ」




■ ■ ■




「行ったかしら、ここには二度と来なくていいからね。お嬢さん」

窓から階下の部屋から走り出ていく女生徒を見て、そんな風に言う女性が居た。
シックなドレスで、髪は群青の、学校に昨日までごく普通に存在しなかった講師の名札つけている。

「・・・やはり遠坂か」

「知ってらしたのですか、魔術師であると」

「いやただ違う世界にいたことがある人間がわかるだけだ、それでどうする?」


きっかけは些細なことからだった、不変のマスターではなく
同じ学園に通う学生の男の子の様子から学校に危険があると知った。

何もせずにはいられず、行動を起し今のところ信じられないほど上手くいっている。
一番の格下のクラスの自分が三度の戦いで相手を退け、さすがに消す事は叶わなかった。
ダムの決壊も針の穴から起こるので、こうしてこまめに穴を塞ぐ作業が大事だと思い積極的に動いていた。


「・・・一旦帰ります、ここはもう用がありませんので」

「そうか」

「なるべくはやくお帰りください」


マスターに助言していると言うより懇願に近い声の色だった。

彼女には休息が必要だった、長い昨日は未だ終わっていないのだから根を詰めすぎて
隙を作りでもしたら目も当てられない。

学園に仕掛けられた罠に細工をしていた昨夜、今の女魔術師が校庭で起した戦いの後始末。
そして、長身の女サーヴァントとの格闘と死闘があり、帰宅時には近くの丘で
強力な二体のサーヴァントの戦いが起こったこと知っている。今、油断したら狩られるのは間違いない。



■ ■ ■




「そう怒るな」

「ねえイヤなんだけど、そのまたかって言う言い方」


あの後、沸いて出てきた骸骨群をどんどん破壊した二人。
沸いて出てくる数にきりがないと知った時には乱戦となっていた、狭い室内から脱出を計るが・・・。

てっきり魔術で強化やロックしてあると思っていたので、思い切りよく窓を叩き割った凛。
飛び出して、すぐに喧騒が戻った事で敵の狙いが警告であると知る。
小癪な事に用意周到に遠坂凛の行動を調べた上で、この大胆さと緻密さある襲撃を行ったのだろう。
ガラス割り犯として捕まるのは勘弁願いたく、逃げ出す破目になった。


「アーチャーが情報収集と報告をしないのが悪い」

そして今は戦略的撤退の途中、藤村先生の様子も気になっていたので
まずは昨日半壊した屋敷に向かう。英霊に不可能はないのか、あの森をよくもまあ消し去れたものだ。

「さ、話してよ」

「・・・いいのか相手は昼にも関わらず仕掛ける大馬鹿だぞ、学園に残らなくて」

「今となっては多すぎるのよ、先生のこと綾子のこと間桐のこと。
そして言峰シオンの動きもね順に片付けて行くしかないわ、だからまずは自分の戦力知らないと」

「私は魔術師だったようだ、宝具も形あるものではない。
だから、アーチャーとなったのはクラスで残っていたものに相応しい形がアーチャーだったのだろう」

「だから聖杯戦争に詳しいとでも言うの?本当は参加者だったりするんじゃない。
先回は火災だったから、それ以前も戦争で英霊発生する可能性はある」

「鋭い指摘だ。
何も触媒持たず呼び出される英霊が、冬木の地に近しい存在であるのは的外れな推測ではないな」

ついた屋敷にずかずかと入っていった、優等生の仮面をかぶっていけば良いものを。

「先生?・・・まぁいいか」

結局自分も早退になってしまった、美綴綾子のこともあり言い訳は苦しいが
調子悪い先生なら誤魔化せるだろう。間桐桜も綾子のことは気になるはずでフォローあると思う。

「え?こと」

玄関、そして居間へと入った凛が見たのは白銀の長い髪の・・。

「あ、遠坂先輩。おかえりなさい」

笑顔の桜の隣には見知らぬ男性、少し眼光が鋭い。
誰、誰なの?シオンがいるのに何故笑って・・・・・・廊下へ一歩後ずさる。

「へ、あの誰ですか?」

「はじまして、リン・トオサカ」

「こんにちは、はじめまして」

「イリヤ・スフィール・アインツベルンとその父キリツグ・エミヤですわ、遠坂家当主」


立ち上がり背丈がまるで違うことに気が付き、振り向いた顔に似ている言峰シオンを
思い浮かべるが、その笑顔は魅力的で普通に返してしまった。

だが、すぐに戦慄する。


「なんでアインツベルンがここに」

「先輩、先生は少し疲れていただけじゃなくて大変だったそうです、けど
いま切嗣さんに診てもらって、あの先輩?イリヤちゃんがどうかしましたか?」

「ここに何のご用です?」

「用も何も、僕の家なんだけどな」

「留守中にドロボーに入られる魔術使いの家なんて聞いたことないでしょ、トオサカリンも
そう思うわよね?質問に質問を返すようで悪いけど、あなたはどんな御用で来ているのかしら?」

桜は何か感じ取ったようで、話には加わらなかった。

一見だらしない父親とそれをフォローする娘、アインツベルンの名前さえ出なければ
凛は気がつかず和んでいたかもしれない。その想像を金づちで壊すと。

「藤村先生の心配をして、生徒として来ているの」

アーチャーにサーヴァントが居るのか目配せした。
凛はまたもやってしまったようだ、エミヤの名前は知っていたのに。
この屋敷は藤村大河個人の家とばかり思っていた、シオンの借家などと言っていたのは聞き捨てていた。

「ところで私も先生を見舞ってもいいかしら?」

「ええどうぞこっちです」

イリヤは座り談笑し始めていたが、凛は硬い声で桜に聞いた。
部屋を移動してやっと、呼吸を自然に戻せた。

息苦しさを感じてしまうのは仕方ないだろう、あの男は・・・魔術師の殺害に長けた男だと知っている。

「あの男の人がここに住んでいるの?」

「衛宮切嗣さんです、ここの家の本当の持ち主なんです」

「先生は、うん良いようね」


桜は信頼しきっているようだ、凛の知らないところで桜の人とのつながりは広くなっていた。
歓迎すべきそれを警戒しなければならないなんて皮肉な事だ。
アーチャーによるとサーヴァントは連れてきていない、なら一刻も早く自邸に戻った方が良いのだが・・・。

もう一度教会に行ってみようと思った、別に戦いを放棄するわけではない。
先回の参加者の情報なら、グレーゾーンではあるがくれるかもしれない。ただ教会では話してくれないだろう。
また私は綺礼の食事に付き合わなければならないのだろうか、別に嫌いではないが。
年頃の乙女と、あの神父の組み合わせで中華料理屋は不思議な感じが否めない。


「ところで私はもうここには来ないから、くれぐれも先生のことは」

「そうですか残念です、お礼に手料理でもと思っていたんですけど」

「帰るわ」


廊下に行こうとすると立ち上がりついてきた人物が、凛に玄関で話し掛ける。
背後をエミヤにとられているのは生きた心地しなかったが、これほどの危険をマスターとして
アーチャーを信じないのは裏切りだと思っている。記憶に関して少しだけ不信はあるけど
これまで徹底的には信頼を裏切られていないのだから、信じるべきなのだ。


「家まで送ろうか」

「結構です」

「危ないよ女の子が一人で、昨夜からこの街はちょっと危険になっているんだ。教会には行かないほうが良い」

「・・・」

何故学校でもこの家でも遠坂邸でもなく、これから行こうとした教会を言うのか睨みつけて気丈に振舞った。

「僕はねマスターじゃあないんだ、今回はイリヤという最強のカードで勝負をしに来たんだ。
当然サーヴァントも彼女だ、セイバーなんだから見た目に騙されてはいけないよ」

「宣戦布告ありがとうございます、ですが」

「ランサーと二度会ったらいけない、それ以上の危険もある」

「・・・何か事情があるんですか、あなた程の魔術師が」

「心配してるんだ」

「キリツグ、そこまでにして」

中々帰ってこない父親に、その娘が痺れを切らしたようだ。
でも、父親以上の死の気配を背負っているのはマスターの証、魔術師の証なのだろう。

対して凛には魔力だけは宝石で対抗できるのみかもしれない、甘さと殺人の経験不足が致命的なのだ。


「トオサカ。セイバーをつれて今夜伺いますので、くれぐれも留守になさらぬようお願いします」

「ええ、逃げも隠れもしません」


礼儀正しさは古参の参加者同士では珍しい事だ、アインツベルンは過去にルールを破り裏切りをした。
間桐も不参加になり、先回遠坂は早々に退場している。

今回も他の参加者が、昼間からの戦闘と一般人を巻き込んでいる。
それでも、誇りある者として二人は出会いを祝福しあった。考えれば考えるほど素晴らしいことだった。








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